ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

刀剣乱舞

秘宝の里 ~山伏国広~

「まったく、鶴丸殿には驚かされてばかりです」 これで幾度目の溜息か、一期一振は傍らを歩く鶴丸国永に苦言を申し立てた。 本丸に帰投した鶴丸たちの部隊は主への報告のために長い廊下を連れ立って歩いていた。中央の表の建物を抜け、審神者の部屋のある一…

秘宝の里 ~江雪左文字~

「どうしました、お小夜。浮かない顔をして」 心配そうな声にふと顔を上げる。 戦装束を着込んで出陣の時を部屋で座って待っていた小夜はやって来た兄弟の宗三左文字を見上げた。 「宗三兄様。いえ、なんでもありません」 「なんでもなくはないでしょう。そ…

秘宝の里 ~鶴丸国永~

「引け、鶴丸国永」 有無言わさぬ強い声音と共に突き出されたそれを、鶴丸国永は何事かとじっと見つめる。きつく握りしめられた拳から突き出した一本の白いこより。何の意味がある、これは何かの罠か、それとも驚きへの招待状か。 だがそれを持っているのが…

新入り ~ソハヤ・村正~

「江戸城で発見した千子村正だが、奴の教育係は貴様に頼むぞ。ソハヤノツルキ」 出陣から戻るなり主の部屋へ呼ばれたソハヤはへし切長谷部にそう告げられた。 長谷部の文句を許さぬ厳しい口調は相変わらずだ。 堅苦しくないのかねといつも思うが、いつもそば…

修行 ~加州・堀川~

とある部屋と廊下を仕切る障子を半分くらい引きあけて、加州はひょいっと中を覗き込んだ。 部屋の中は無駄なものもなく、きちんと片づけられているのはおそらくこの部屋の持ち主がきれいに整えているからだろう。こちらを背にしてじっと部屋の奥の襖を見つめ…

酒宴 ~初期刀組~ =刀と主と=

夕餉の後、お決まりのように始まったにぎやかな酒盛りに加わる気がおきなかった加州は楽しげに酒をかわしあう新撰組の仲間たちを置いてそっと食堂の広間を後にした。 本丸で最も大きな表の建物の中に食堂がある。この建物は作戦会議室や刀装などを作る作業場…

月は猫と遊びて

注】いつもの本丸とは別設定の通称紅本丸の話です。 初期刀は歌仙兼定で、三日月宗近が初期に顕現しています。 ※ちょっと修正しました。 先ほどまで淡い色合いの雲の隙間からわずかな光をこぼれ落していた空も、今見上げればどんよりとした雲が垂れ込めて重…

想起 =刀と主と=

遥か昔の時代の戦場へ行くことのできる本丸の鳥居の前で、主のまだ少年特有の高い声が初めはか細くあったのが次第に力強く響いていく。これから新たな任務へ出陣する部隊を前に指令を申し渡していた。 「この度の任務は政府が作成した疑似戦場の仮想空間にお…

秘宝の里 ~隊長 鶯丸~

「これから出陣でしょうか、鶯丸様」 支度を済ませ自室を出ようとしたところで声をかけられた。 眼下で耳のあたりで切りそろえた茶色の髪が動きにつれて揺れる。粟田口が一振り、平野藤四郎がめずらしく戦装束に身を包んだ鶯丸の姿を目にしたためか、丸くし…

秘宝の里 ~隊長 一期一振~

「今回私たちの出陣が遅れたことについて燭台切殿から直接謝罪の言葉をいただきました。ですから彼を責めてはいけませんよ」 一期一振は弟たちを前にして神妙に告げた。彼らもまた尊敬する長兄の言葉を真面目に聞いている。 その中で前列に足を崩して座って…

夕暮れ ~来派~

太古より重く静謐な空気に守られていたはずの聖域が揺れた。 神社の閉ざされた沈黙を破る不穏な気配を感じて、己の本体のかたわらでいつ目を覚ますともなく微睡んでいた蛍丸は夢の淵より舞い戻った。いまだ夢を漂ううつろな目をこすりながら、穏やかなこの地…

秘宝の里 ~隊長 小狐丸~

「おー、すげえな五虎退。懐入り込んで一撃か。機動速くなけりゃ出来ねえ技だよな」 敵に止めを突き刺した太刀を引き抜いて獅子王は感嘆の声を上げた。 襲ってきた槍の部隊はすべて地に倒れ伏せさせた。この程度の強さならば高速で攻撃を仕掛けてくる槍とて…

野宴 ~次郎太刀~

「酒はのめのめ~、飲まれるなぁ~っと」 なみなみと酒を注いだ黒塗りの升を手に太郎太刀は上機嫌で声を張り上げた。張りのある歌声が広々とした野に響き渡る。緑の草が萌えはじめた春の野は穏やかな日の光があたりに優しく降りそそぐ。暑くもなく、寒くもな…

秘宝の里 ~隊長 明石国行~

「なんで長谷部はんが自分の隊に入りますのや。面倒ですなあ」 審神者の部屋に呼び出された明石国行は事の次第を聞いて明らかに不満げな言葉を漏らした。それを聞いた瞬間、目の前で座っていた長谷部の額にくっきりと青筋が浮かんだ。 「だまれ、隊長の貴様…

秘宝の里 ~隊長 燭台切光忠~

「そういうわけで僕が隊長になって秘宝の里に出陣することになったから、しばらく厨房の仕切りは頼めるかい? 歌仙君にばかり負担をかけるようになってしまうけど、帰ってきたら僕も手伝いくらいならできるから」 朝食用の味噌汁をかきまぜながら燭台切は申…

秘宝の里 ~隊長 三日月宗近~

「はて、この箱はなんだ?」 どこからどう見ても何の変哲もない箱である。上に丸く穴があけられているほかは外に何も書かれていない。頭をくぐらせて下まで覗いてみたが、そこにまた穴があるわけでもない。 それともこの穴の中に何やら罠が仕掛けられている…

蛍狩り ~蛍丸~

夜闇の中に淡い黄緑色の光が舞う。 強く、弱く、見る者を水面のほとりへ誘うかのように。幻の光は手招いて、目を見開けばそこは幽玄の里。 見慣れたその景色はたとえ夜でも見間違えることはない。 本丸の鳥居を抜けて、舞い降りて目に飛び込んできたその光景…

遊びをせんとや ~鶴丸国永~

現世はまこと面白き。 遥か昔に聞きし懐かしきその調べを知らず知らずのうちに口ずさむ。 ――遊びをせんとや生まれけむ 審神者の力により本丸にこの身が刀より生じてから、人の身であるのは刀生にしてほんの瞬きに過ぎない。だが、館の奥深く、時には陽の光の…

大阪城 ~黒田組~

「さあ待ちに待った大阪城ばい!」 こぶしを振り上げて、隊長に任命された博多藤四郎は元気よく威勢を上げた。だがほかの面々はどこか冷めたような表情をしている。 頭の後ろに両手を組んで厚藤四郎が呆れた声を出した。 「おまえ大阪城もう何回目だよ。いい…

秘宝の里 ~隊長 長曽祢虎鉄~

「最近退屈すぎるよね。俺たちずーっと本丸にいるし。道場の手合いも飽きたし、そろそろ外にでも出陣して敵の首落としたいんだけど」 部屋でごろごろしていた大和守安定が急に真顔になって物騒な言葉を言い放った。だが同じ部屋にいる新撰組の面々は一瞬彼に…

秘宝の里~隊長 同田貫正国~

「こいつで最後だ」 地面に横たわったままわずかに動いていた敵の短刀に容赦なく切っ先を突き刺した。 情けは無用だ。殺らなければ殺られる。情にほだされて逃せばいずれまた自分たちの命を狙いに来る存在だ。 こいつらと俺たちの間には相容れるものなど何も…

江戸城~村正探し~

「僕が隊長で本当にいいのかな」 何もない空き地を先頭に立って踏みしめた小夜左文字が足元を見ながらぽつりとつぶやいた。 進んだ先はまたはずれだ。選ぶ道は今日もどうも引きが悪い。昨日だって二回は江戸城の最奥まで到達できずに、本丸へと引き戻された…

秘宝の里 ~隊長 鳴狐~

縁側の廊下に音もなく一片の花びらが舞い落ちる。 見上げれば本丸の屋根に覆いかぶさるように枝を広げた桜の花が風に吹かれてその盛りを過ぎ去ろうとする花を散らしていた。 うららかな春の陽だまりの中で、いつもは肩に乗っている狐の眷属も廊下の上に丸く…

秘宝の里 ~隊長 大倶利伽羅~

縁側に座っていた大倶利伽羅の目の前にいきなり皿が差し出された。皿の上にはこぶしほどの白いまんじゅうが二つ乗っていた。 「加羅坊、今日のおやつを持ってきたぞ」 聞き飽きるほど聞いた軽快なその声に、大倶利伽羅の眉根が上がった。こんな風に自分へ親…

月見 ~不動・薬研~

暗い夜の空にぽつんと浮かぶ月はいつもよりも白く輝いて、手を伸ばせばもしかしたら届くんじゃないかって思うほど近くに見える。 でもそんなことはない。望むものがもう手に入らないのと同じで、どんなにほしいと願っても月に手が届くなんてことは絶対にない…

足利の地に生まれ出でし

【注】 刀剣乱舞に実装されていない刀が出ます。史実捏造注意。 暗き室の奥で赤々と燃え上がる焔が浮かび上がる。 その煌々と輝きながら燃え盛る炎の中へとうの昔に老境へとさしかかった男が真剣な面持ちで鉄の棒を差し入れていた。 炎の赤を瞳に映し、ただ…

お菓子作り ~包丁藤四郎~

最初に目に入ったのはぴかぴか銀色に光るたくさんの道具だった。 通り過ぎようとしていた包丁藤四郎は窓から差し込む陽光にきらめくそれらに引き寄せられて厨房の中へ入っていった。小さな体を背伸びして、作業台の上を覗き見る。 いままで食事の準備で厨房…

観察 ~太鼓鐘貞宗~

俺は太鼓鐘貞宗。この本丸で今のところ最も新しく来た刀だ。 ここにはたくさんの刀たちがいる。みっちゃんや加羅ちゃん、つるさんとか俺の知っている伊達の刀だけじゃなくて、他家のあったことのない名刀や、千年も長く存在するとんでもなく古い刀もいる。天…

捕獲 ~後藤・信濃~

日中は温かな日差しが差し込むようになり、庭につながる廊下側の障子は外の空気を入れようと開け放たれていた。強い風はなく、頬を撫でるくらいの心地よい早春の暖かさが部屋の中へ陽気を運んでくる。 その審神者の部屋では自身の机に向かいながら、置かれた…

大阪城 ~博多とゆかいな短刀たち~

「待ちに待った大阪城ばい! はりきっていくと!」 目を黄金の小判のごとく煌めかせ、博多藤四郎はぐっとこぶしを突き上げた。 つい先ほど急いで修行から帰ってきたばかりだが、疲れというものを全く感じさせないのは目の前の大阪城に埋蔵されている小判に心…