ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

相棒 ~堀川・和泉守~

 甲高く響いた弓音に堀川国広は顔を上げた。自分めがけて迫りくるおびただしい矢の群れが顔面に迫る。

 出陣先の時代に降り立つとすぐに時間遡行軍に遭遇し、迷う暇などなくすぐさま戦闘態勢に入った。倒すべき相手を見定め直ちに矢や銃で相手を威嚇する。急所にあたれば敵を倒せることもあるが、さすがにこの時代の時間遡行軍はそうそう簡単にはやられてはくれない。

 戦場では一瞬の判断の過ちが生死を分ける。

 己の刀装に遠射の指示をかけようとほんの少しだけ視線を外した。それが敵には油断と見えたのだろう。弓につがえられた矢がすべて堀川の姿を狙う。

 弓弦が引き放たれる音に気付いたときにはもう遅い。

 弧を描くように空一面に広がる矢の群れ。

 四方を囲むように放たれた矢から逃げる場所などありはしない。刀で叩き落すには数が多すぎる。逃げられないと瞬時に覚った堀川はすぐさま覚悟を決めた。

 顔をこわばらせたまま口をきつく噛み締めると、右手に自身の刀を握りしめたまま腕を交差させて防御の態勢を取る。

 両脇に浮かぶ刀装の玉が光り輝いて守りの力を生み出すが、この弓の刀装では守りきれないだろう。刀を握る手に力を込めた。

 次の瞬間には矢の雨が自分めがけて降り注ぐ、はずだった。

 力強く大地を踏みしめる音にはっとして半目だった目を見開いた。

 舞い上がる砂塵が視界を邪魔をする。風に揺れる浅黄色のだんだら模様の羽織に懐かしい人物の影がよぎった。

 だがすぐさま違うと脳裡に浮かんだ考えを否定する。刀だった僕らを携えて信念を守るために戦いに赴いたあの人はもういない。

 邪魔にならないようにと結われたつややかな黒髪の束がしなやかに目の前で揺れた。

 なぜ矢が自分を貫かなかったのか、それは目の前に立ち塞がるように立つ影に守るように遮られたからだと悟る。

 自分を守るその背は今までとは比べ物にならないくらい大きく見えた。大きなものを背負いながら時代の荒波に立ち向かっていたあの人と同じくらいに。

 置いてきたはずの過去に引き戻されそうになった自分を、軽快で力強い声が現実へと引き戻した。

「なにやってんだ国広。戦場で気ぃ抜いてんじゃねえぞ」

 不敵に口元を笑ませながら、和泉守兼定が余裕の表情で振り返った。 

「兼さん!」

 堀川が無事なのを確かめると満足そうな顔を浮かべた。だが堀川からすればそれではすませない。

「僕のことはどうでもいいよ。兼さんこそ僕をかばって矢の攻撃受けたんじゃないの!?」

 慌てて彼の身体に傷がないか確認する堀川に、和泉守が何言ってんだと不敵な笑みを浮かべる。

「あ? 俺がそれくらいでやられるかよ」

 風に舞う羽織はわずかに土埃に汚れただけでどこも切れた様子などない。

 彼の周囲に浮かんでいた三つの金色の刀装が呼応するように光り輝いた。黄金色に光るその玉も傷一つなかった。堀川に心配させまいと言っているわけではないようだ。

 新撰組ゆかりの羽織を肩にまといながら、和泉守は腰に差した己の見事な刀身を引き抜く。刀の時代の最後を華々しく駆け抜けたもっとも若きその刀を。

 迫りくる敵を一瞥し、和泉守は前を向いたまま静かな声で告げる。

「敵はまだやられちゃいねえぞ。いけるな、国広」

 力強く自分を促すその言葉。

 幕末というそれぞれに己が望む希望の光を模索していたあの仄暗い時代をただ共に刀としてあり続けた相棒。その彼に呼びかけられて、堀川は迷うことなく深く頷いた。

「わかっているよ、兼さん」

 

 刀として在ることが許される戦場で、最期まで共にいることのできなかった僕らが今再び刀を手に戦うことができる。

 それがどうしようもなく嬉しいのだと、自分の心の内だけで想うことは許されるのだろうか。 

 

 打刀 和泉守兼定 二〇一七年十月十五日 極修行帰還

 

 打刀の極の新スキルが実装されたので小話を。

 兼さんと堀川君を並べると、兼さんめっちゃ堀川君をかばうんですよね。二刀開眼も一番多い気がする。

 さすが相性抜群の土方組の二振りとしか言えません。