べーすぼーる ~第二会派~
「さあ、べーすぼーるをやるぞ。我こそはと思うものは集まれ!」
意気揚々と正岡子規が宣言したがその場には賛同するものはほとんど、というより皆無だった。
「なんだ、みんな、室内にいるばかりでは軟弱になるぞ。おや、それにしては人数が少ないな」
「先ほど図書館で穢れた本がいくつか見つかりましてね、多くの文豪が潜書してしまったのですよ。残っているのは我々の会派だけです」
「なんと、これではべーすぼーるはできないな。人数が足りない」
永井荷風に閑散とした状況を説明され、困ったように顎に手を当てた。
「どうしてそんなに野球やりたいんだ? 金になんねえのに疲れることするなんてわけわかんねえ」
ごろごろとソファの上に転がりながら石川啄木がだらしなさそうにねそべってつぶやいた。金が得られなければ全くやる気を見せないのはいつものことだ。
「いや、疲れずとも野球はできるぞ。見よ!」
そう言って取り出したのはこの時代にはあるべきはずもないものだった。ゆがんだ四角い台の上に小さな人形がいくつもくっついている。
「な、なんですか、これは」
「これは野球盤というものだ。このあいだ図書館でいろいろ本を見ていたら見つけてな。司書に頼んでみたら快く潜書させてくれるというので、本の中から持ってきたのだ」
腕を組んで自信満々に上体をそらした子規に、永井が非難の視線を向けた。
「不意不要な潜書はいけないと言われたはずではないですか。大体、本の中にあるものを持ってきてはならないでしょう」
だが永井の批判を聞いてもいない石川はこの目新しい玩具に飛びついた。
「おおっ、いーじゃん。面白そうだな、この玩具は。だけどさ、なにもないのもつまらないから、これで勝ったやつに酒おごるっていうのはどう?」
「それは許さねえぞ、石川!」
大きな音を立てて扉が開かれる。険しい顔をして飛び込んできた佐藤春夫を見て啄木の顔がひつった。
「げっ!!」
「これを見ろ! あんたが借金した奴らからの陳情がこんなにも俺のところに来てるんだ。大体、皆なぜ俺のところによこすんだ! 酒を飲む余裕があるなら、少しでも借金を返せ!」
いくつもの手紙の束を握りしめて、佐藤が石川に迫る。
「か、金なんてもうねえよ・・・」
「なんだと!」
逃げ惑う石川を追いかける佐藤の背に、軽快な子規の笑い声がかぶさる。
「そりゃあんたが頼りになるからだろ。なんせ、弟子が三千人だからな。面倒見がいいと思われているんじゃないのか」
「それを言うなら、正岡さんだって同じだろう」
「どうかな、俺は弟子の世話をするよりも俺の方が面倒をかけるばかりだったと思うからな」
「・・・慕われていなければ、たとえ弟子でも口うるさい師匠の面倒をみようなどとは思わないだろう」
ともかく、と石川の方を向き直って手紙の束を突きつけた。
「そのていたらくにお前の詩にあこがれを抱いていた後世生まれの文豪たちがその本性を見て嘆いているんだ。よって、これをどうにかするまではお前はここでは禁酒だ、わかったな!」
「まじかよ!」
うちの第二会派は落ち着いた感じの集まりです。一人を除いては。
ここでないと啄木の暴走抑えられないなあ。しかしここまでやんちゃなキャラとは思いもよりませんでした。文豪のなかの借金王。
佐藤さんはほかの文豪たちからも頼りにされそうなイメージです。子規は豪快な天然っぽい。
間違えて最初野球といわせてたのはたぶん先入観。
荷風さんはまだキャラがつかめん。調べないと・・・。
後方支援会派(射撃援護班)
第二会派 正岡子規
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