ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

喫茶店 ~堀・織田・永井~

「カフェいうのはこないなおしゃれなところやったんやなあ。お客はんもどことのう気取ってるっていうか、いかにも文化人とかいいそうなやつらばっかや」

 店の片隅にある席についた織田作之助はきょろきょろと遠慮なく店の中を見渡しながら、装飾やテーブルに運ばれる食べもの、席でくつろぐ客に忙しく立ち働く店員と好奇心に満ちた眼で様々なものを観察していた。

 同じ喫茶店という名前を持つ店だが、自分の知っているそれとはだいぶ違う。

 ここではコーヒーの入ったカップを片手に、客同士が知的な会話を楽しむ光景があちこちのテーブルで見られた。一人の客もいるがそういったものは静かに新聞を読んでいたり、何やら紙に書付をしていたりしている。

 話し相手を見つけてもよし、一人静かにのんびりしてもよし。なにごとにも自由という雰囲気がゆったりと漂っていた。

「自分が知ってる喫茶店いうのは男を誘うおねえさんのいるにぎやかなところやったで」

「オダサクさん、全部の喫茶店がいかがわしい場所だったわけではありませんよ。僕たちの時代にもこういった喫茶店はちゃんとありました。もっと庶民的でくだけてきてはいましたが」

 困った顔をした堀が織田の話が変な方向へ飛ぶ前に口を挟んだ。

「ただ僕の眼から見てもここが喫茶店の出来た明治という時代であるわけにはいかないがね。ここは本の中の世界だ。この物語を作った者の喫茶店に関する記憶か知識が他の時代と混じっている可能性は否定できないな」

「最初の喫茶店は純粋にコーヒーだけを愉しむ場所でしたからね。あんなに飲み物だけでなく食べ物まであるメニューはなかったはずです」

 テーブルの上に置かれた革の表紙のメニューを開いて指し示した。

「おや、堀君も良く知っているね。君もまだ小さいころの出来事のはずだろう」

「ここへ来る前に少し調べてきましたから」

 珈琲のカップを両手で包みこんで、堀は柔らかな笑顔を浮かべた。

 後頭部に両手を組んだ織田はだらしなく背もたれに身体を預けた。ぎしっと椅子がきしむ。

「それにしてもやっぱりや。俺たちと似てるっていう店員は出てけえへんな」

「聞けば僕らと似ているようで少し違う。先日の本の中にあった学園の時と同じのようだ。これを仕組んだのは同一犯なのか」

 考え込む永井に、堀が同意するように頷いた。

「でも推測ばかりでなにも証拠が見つかりませんね」

「じゃーないわ、もう少し探ってみませんか、先生方。もしかしたらさっきの太宰君みたいに俺たち以外の文豪にも会えるかもしれまへんで」

「僕は泉鏡花さんにお会いしました。図書館にはまだいらっしゃってないので、紅葉先生や秋声さんがいたら喜んだだろうなって」

 堀の言葉に織田がそれはありまへんわと笑いながら否定した。

「秋声はんがここにおったら、どうして来ないんだって言って喧嘩しまっせ。紅葉先生と潜書ずっとしとるけど、何か月たっても全然きまへんからなあ」

 永井は話を聞いていないていでコーヒーを静かに飲み、傍らでは堀は何とも言えない顔で苦笑いを浮かべている。

 彼らのにぎやかな声にも静謐な喫茶店の空間は少しも乱されなかった。周りの者は自分たちの世界に没頭したまま、それぞれの時間を楽しんでいる。いや、そのように見せているだけなのかもしれない。

「この間の学園といい、この喫茶店といい何が目的なんだろうね」

「さあ、分かりまへんけど、この物語を読んでいけばわかるはずやないですか。なければ俺たちが続きを書いてしまえばいいんですわ」

「さすが無頼派の織田君ですね。言うだけじゃなくて本当にやりそうですね」

「よく言えば常識にとらわれない、悪く言えば規定概念など無視する乱暴者ということかな」

「・・・永井先生、けっこう言ってくれますな」

「普段の君たちの行動を顧みるがいい。たしかに優雅さには欠けるが、私は君たちの無謀な若さは嫌いではないよ」

 

 

調査任務 カフェ・ロワイヤルの血戦

 第四会派 堀辰雄

      織田作之助 ⇒ 太宰治

      永井荷風

      幸田露伴 ⇒ 武者小路実篤

 永井 13478P 織田13096P 堀16230P

 

                                                = TOP =