ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

不安 ~堀川・和泉守~

「国広、お前あいつにだけちょっと違う態度とるよな。なんかよそよそしいっつうか、態度が明らかに冷たいよな」

 外で洗濯を干していると、シーツを手渡されながら兼さんに突然そう言われた。堀川はシーツを竿に広げながら何気なく聞き返した。

「誰の事?」

「ほら、三日月宗近

 その名を聞いた瞬間、胸の奥が少し軋んだ。

「そう? そんなことないと思うけど」

 笑え。いつものように笑わないと。動揺を見破られる。

 でも兼さんは僕の心の奥を見透かすように笑いもせずじっと見つめていた。

「無理しなくていいんだよ。お前がそんな風に笑う時は心の中に何かを抱えてる時だ」

 干したシーツを浮き上がらせた風は、兼さんの長い髪をもなびかせる。

「だけどよ、俺はお前の相棒だろ。言いたくなけりゃ言わなくてもいい、だがな、俺にまで嘘をついた顔を見せるな」

 お見通しか。隠すのはうまいはずなのに、わかってしまうほど僕は心が揺れ動いていたわけか。

 堀川は知らぬうちに口が言葉をこぼしていた。

「・・・不安なんだ」

「不安、何がだ」

 堀川は風に気持ち良く翻るシーツを見つめながらつぶやいた。

「あの人は僕の兄弟に興味を持っている。現世の事に対してどこか浮世めいた感じを見せるあの人が、唯一執着するのが兄弟、山姥切国広なんだよ」

「ああ、確かによくあいつのことを追いかけているような気はするが、そこまで気にするようなことか?」

「あの人の瞳の中にある月はなんか心を不安定にさせるんだ。自分の信念が正しいのか、その判断をわからなくさせる」

 あの時、三日月宗近の首筋に自身の刀を突きつけて、間近でその瞳を覗いた。危うく引き込まれそうになった。囚われたらもうきっと逃れられない。

 だからなのか、兄弟は彼から逃げている。無意識にどこかで恐れながら。

「僕はあの人を兄弟に近づけていいのか、わからない。だから」

「おまえは兄弟と会えてすごくうれしそうだったものなあ」

 兼さんの大きな掌が頭にのせられた。ぽんぽんと軽く頭を叩かれる。

「だって、僕を受け入れてくれたんだよ。本当に国広の刀かわからないのに」

 山伏兄さんも山姥切も、ただ微笑んで手を差し伸べてくれた。当たり前のように兄弟と呼んで呼び合える、それがただ嬉しい。

 そこに至るまでいろんな葛藤はあったけれど、でも今はこの関係を守りたい、壊したくない。

 だから、兄弟を危険にさらす可能性のあるものは近づけたくない。たとえそれが天下五剣であろうとも。

「だがな、国広。もし山姥切の奴が三日月を受け入れようとしたら、お前はどうするんだ?」

 ふっと目を見開いて兼さんを見つめると、堀川はさびしそうに微笑んだ。

「兄弟が選んだなら、僕は黙って認めるよ。それは僕が止めていいことじゃないもの」

 たとえ誰かを選んでも、同じ国広としての絆は変わらない。きっと。

 兄弟として対峙したあの時、差し出された手。

 よろしく兄弟、とぶっきらぼうに言いながらも、その手のひらはとても暖かかった。

「でももし傷つけるのであれば、僕は絶対に許さない」

「・・・そういうところは昔からかわんねえよな、お前は」

「兼さんだって、土方さんのことになると夢中になるじゃない」

「そりゃ、としさんは俺の憧れだしな・・・って俺のことはいいだろ!」

 赤くなって怒りだした兼さんを笑いながら堀川は上を見上げた。冬の気配をまとった空はどこまでも遠く澄んでいる。

 そばにいて、そばにいられて、こんな平和な時間がずっと続けばいいのにと思った。

 

 兄弟と三日月の件についての堀川君の気持ちの話。

 出自の不安定さゆえに、兄弟たちへ危害を加える者は許さない。

 でも山姥切も山伏もちゃんと同じ刀派として堀川君のこと大事にしている。

 山伏さんはこの件に関して察してはいるけれど、何事にも修行というスタンスなので、笑って見守っている感じ。堀川君ほどは警戒してないでしょうし。でも兄弟たちが危なくなればきっと駆けつけて容赦はしない。

 

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