秘宝の里 ~札~
本丸から転送されて舞い降りたそこは深い霧の立ち込める寂れた山里だった。
どこまでも白く先は見通せない。
ここが昼なのか、夜なのか、それすらもわからなくなる。
「感覚が狂うな、ここは」
誰かがそうつぶやいた。
「道もわからねえ。どうすんだ、隊長」
あまりに霧が濃いゆえに、隣にいる者の姿すら霞んでよく見えない。ただその声から短刀の厚藤四郎だということはわかった。
「あまり離れるな。はぐれれば見つけるのは困難だ」
するとくいっと布が軽く引っ張られた。
「あれを、見て」
山姥切の布をつかんだまま、小夜左文字が前を指示した。
霧の向こうから黒く四角い何かが現れる。
手のひらよりも大きなそれは宙に浮かびながら彼らの前に顕現した。
「これは・・・札か?」
「主が仰っていたこの地特有の道しるべだな。このまま立ち往生してもしかたないだろう。何が出るかわからないが、引いてみるしかあるまい」
長谷部に促されて、うなづくとその札に手を触れた。
触れたのを合図にして、札が宙に浮かびながら回転する。
現れた図柄は黒くて丸い何か。
不意に札が消え、山姥切の手元に導火線に火のついたそれが現実化する。
「焙烙玉だ! 伏せろ!」
叫び声とともに、爆音が響き渡る。あたりをもうもうと立ち込める煙に咳き込むと、慌てて後ろを振り返った。
「無事か!?」
「うー、すげえ音だなあ」
「音と煙はすごいけど、怪我はしてないみたい」
「いや、確かに怪我はないが、俺の刀装が一つ飛んで行ってしまったぜ」
けろっとした顔で鶴丸が愉快そうにつぶやいた。
「貴様、主から預かった大切な刀装をなくしておいてその態度はなんだ!」
「いやー、なくなっちまったもんは仕方ないだろ。それにしても面白いな。次は俺が引いてみてもいいか、山姥切」
一歩下がってその場を譲ると、新たに表れた札の前に鶴丸が片腕を腰に当てた姿で軽く首を横に傾げた。
「さて、次の驚きはなにかな」
くるくると札が回る。現れた図柄は山に描かれた道。
「道か? なんだずいぶん普通だ・・・うおっ!」
突然、彼らの足下の地面が消えた。折り重なるように落下する。
札の図柄に大きな穴が開いていた。
「なるほど・・・落とし穴というわけか」
青筋を立てながら長谷部が起き上がる。
「ふっ、こいつは驚きだぜ。なあ、この札を本丸まで持って帰ってもいいか? 他の奴らにもこの驚きを見せてやりたいんだが」
「馬鹿を言うな、そんなことできるはずもないだろう!」
「あんたは本丸ごと壊す気か」
そろって非難の声を上げる長谷部と山姥切に、鶴丸はあらぬ方を向いて取り合わない。
「そうですよ、鶴丸殿。本丸にこのような危険なものを持って行ってはなりません」
厳しい顔でたしなめる一期一振に向かって、鶴丸は人差し指を立てて左右に振った。
「そのままで持っていくわけじゃないぜ。主に頼んでちょっと審神者の力でちょっと改良してもらうんだ。たとえばそうだな、札の中に菓子が出てくるのを仕込んでみるとか。おまえの弟たちはそういうの好きそうじゃないか?」
「・・・確かに、弟たちは喜ぶかもしれません。包丁は特にお菓子が好きですし」
「だろ?」
弟の事となると見境のなくなる一期とそれをわかってて企みをする鶴丸に、長谷部の怒りが爆発する。
「貴様ら、まじめにやれ! 主の力をそのような不届きな行為に利用するのは許さん!」
「いいじゃないか。あの主ならやってくれると思うぜ」
「主が許そうと、この俺が許さん。そこになおれ、鶴丸国永。そのふざけた性根を叩きなおしてやる!」
刀を抜き放って鶴丸を切りつけながら追いかける長谷部を、山姥切たちは呆れた目で見つめた。
「どんな時でもあの二人は変わらないね」
「あの様子じゃ、一兄も本気で札を本丸に持っていきかねないな」
ため息を一つついて、再び現れた札に手をかざす。
「・・・遊ぶのは後にしろ。次の札をひくぞ」
いかなるときも驚きを求める鶴さんです。
あの札を見たら絶対食いつきそうな気がします。
一期ははっきり言って弟のこととなると見境をなくします。大阪城は怖かった。
弟たちを喜ばせるのが無上の幸せ。うちではよく暴走します。
2016年秘宝の里探索部隊(初期メンバー)
第一部隊 隊長 山姥切国広
へし切長谷部
厚藤四郎
小夜左文字
鶴丸国永
一期一振
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