ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

軍議 ~日本号・太鼓鐘捜索~

「本日各部隊の隊長に集まってもらったのは現状報告と今後の方針を確認するためだ」

 主の部屋に集まった各隊長を前にして立ち上がっていた長谷部は冷静な態度を欠片も崩さずに厳しい声音で言い放った。その隣には彼に全権をゆだねた主が目を閉じて静かに正座して控えている。そしてさらにその横には布にくるまれた丸い塊が一つ。

 主の向かって左より第一部隊の隊長から第四部隊までの隊長たちが扇を広げるように順に座っていた。ひとしきり彼らを眺め渡して長谷部はいちばん左に目をやる。

「まずは現状の確認だ。第一部隊の任務は延享の江戸で太鼓鐘貞宗捜索だったな。幾度か出陣したようだが、状況はどうなっている? 第一部隊隊長、三日月宗近

 名を呼ばれて、正座をして背筋を正しながら優雅に茶を飲んでいた三日月がゆったりとした面持ちで顔を上げた。しばし動きを止めた後、ふんわりと柔らかく目元が笑う。

「さてどうだといわれるが大して変わらぬ。相変わらず江戸の町を小賢しい槍と虫のような短刀が飛び交っておるよ。時間遡行軍とやらもいくらやられても湧いてくる。懲りぬものだな」

 隊長の任を受けようが三日月は三日月だった。どんなにせかされようともその調子を崩すことはない。他人がどうかしようとしてできる刀ではなかった。

 ゆえにさすがの長谷部も彼の率いる第一部隊に対して口出しするのは無駄だととうに諦めていた。だが今回に限ってはどうしても行っておかなければならないことがある。

「それはわかった。だが貴様の部隊は刀装の損耗がもっとも激しい。第一部隊は金色の刀装を多くつけているため、壊れればどうしても資材が大量に必要となる。本丸の資材も限りがあるんだ。刀装の破壊はどうにかならないか」

「それはいささか無理というものだな。とにかく敵の力が強いのだ。刀装で防がねばいかに練度が高い我らとて無事ではいられんな」

 長谷部は目を細めて強い光で睨み付けた。

「三日月」

「できぬものはできぬ」

 きつい口調で問いかける長谷部を気にもせず、三日月は膝の前に置かれた菓子入れから餅菓子を一つとった。

 己のペースを崩さない三日月にやがて長谷部もこれ以上行っても無駄と悟ったか、軽く舌打ちをした。

「あともう一つ、出陣時、太鼓鐘貞宗の気配は感じられたか」

「ふむ、それはわからぬな。俺は太鼓鐘とやらを知らぬ。第一部隊の者は皆そうだ。だが伊達の者ならば気配を感じ取れるのではないのか。めんばーとやらを交代するか?」

「それは以前やったな。前に第一部隊に伊達の奴らを前に組み込んだが、どうもうまくいかなかったのだ。刀装を三つ装備できる貴様らなら安定して出陣できるからな。ほかの奴らの練度が上がるまで現状維持だ、文句は言わせん。その上で、太鼓鐘をさがせ、わかったな」

「あいわかった。長谷部殿は相変わらず手厳しいことだ」

 最後までつかみどころのない三日月に長谷部は心持ち不安を覚えたが、ここは信じて任せるしかないと思い切った。

 平時はのんびりしたこの風情でもやはり天下五剣、戦場でのその風格と強さは本物だ。半年ほど前にこの本丸へ来たはずなのに、ほかの刀たちを飛び越してとうに練度は最高値に達している。今現在、彼と手合せすれば自分とて無事では済まないとわかっていた。

「次は第二部隊と第三部隊だ」

 隣へ視線を動かし、かしこまって座っている短刀たちを見やった。

「お前たちは池田屋周回だったな。状況はどうだ」

 冷ややかに長谷部に問われて、少し左右に視線を動かした小夜がまず口を開いた。彼は第二部隊の隊長を任されている。

こちらも何も変わらない。少し検非違使の出現が増えたことくらいかな」

 黒田家で多少ゆかりのある小夜は長谷部の気迫に動じることはない。小さいながらはっきりと現状を伝える。

「そうか、池田屋で時間遡行軍の動きが活発になっている恐れがあるな。では引き続き警戒しながら周回にあたれ」

 手短に話を切ろうとした長谷部の足に誰かの手がしがみついた。

「な!」

 驚いた長谷部を下から見上げながら包丁は必死にしがみついて涙目に訴えた。

「まだ池田屋回らなきゃいけないの。ぐるぐるぐるいつまで続くのさ。せっかく京のはんなりした美人の人妻に会えると思ったのに夜だから誰もいないし。もういやだよー」

 顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。ぐずっと鼻をすすると長谷部の足にこすり付けた。

「おい、汚いだろうが! 紙でふけ!」

「包丁ってば落ちけよ」

 横合いから手を伸ばした厚が腰を抱え込むように長谷部から引きはがした。

「厚兄~、だって~」

「だってじゃねえよ。そりゃおまえは顕現してから難易度の高い戦場へ行かされてればつらいだよな、わかるぜ。しかも第三部隊の隊長だもんな。でもおまえだけじゃねえよ。最初はみんなそうやって強くさせられてもらってんだ。それに隊長させられても俺が補佐してやってだろ」

「うう・・・でも僕は人妻になでてもらいたいよ・・・」

「おまえはほんとそればっかだな」

 頭を抱えた厚の後ろで、主も顔を手で覆っていた。

「ごめんなさい、主の私の運がわるいから・・・。それに男の審神者で人妻ではなくてごめんね・・・。せめてのお詫びにお菓子をあげるよ」

 着物の懐からきれいな包み紙に包まれたお菓子の袋を出すと、途端にぱっと顔を輝かせて包丁が飛びついた。

「わーい、お菓子だー」

「鍛刀もついていないけど、戦場で刀もなかなか見つけられないのは私のせいだよね」

「いや、それは違う。見つからないのは俺の出陣の指示が悪いからだ。俺が写しなばかりに与えられた役目すらうまくこなせなくてすまない・・・」

 先ほどからずっと片隅でうつむいたまま重い雰囲気を漂わせていた山姥切がやっと口を開く。軍議が始まる前から、ここ最近の出陣の成果のなさを自分のせいだと思い込んでいつものうつ状態に入り込んでいた。本当なら軍議にすら資格がないと言い張っていたが、長谷部が無理やり引きずって連れてきていた。

 主も傍らの彼を見やって深いため息をついて表情を暗くする。

「私の運がないせいだよ、きっと・・・」

 それを見た小夜がポツリとこぼす。

「なんか、主と山姥切はだんだん似てきた気がする・・・」

「あ、それわかるかも」

 同調した厚とは反対に、長谷部は眉間に青筋を立てて沈む二人を怒鳴りつけた。

「いえ、決して主のせいではありません。それと山姥切国広! 軍議の席で卑屈になるな。何でもかんでもそれのせいにするのはやめるんだ!」

「いや、俺が写しだからだ」

「・・・この!」

 いつもの意地の張り合いがおきそうな気配がする中、一人冷静さを絶やさない小夜が長谷部に声をかけた。

「日本号のことは聞かないのですか。彼はあなたと同じ黒田家の・・・」

 小夜のその言葉に、完全に布をかぶって自分の殻に閉じこもってしまった山姥切を怒鳴りつけようとしていた長谷部の動きが止まった。

 何か言おうとしてうまく言葉が見つからず、両手をきつく握りしめる。

「そうだぜ、長谷部。あんたが黒田であいつと関わりが深いはずだろ。池田屋を周回しろとは言うが、ずっと日本号のことは一言も言わないよな。どうしてだ?」

 厚にも問い詰められて、どうも言えずただ歯をかみしめる。黙った長谷部に厚がさらに畳み掛ける。

「嫌いか、あいつのこと。そんなわけないよな」

「あの方は口は悪いですが、いつもあなたのことを気にかけていたと思います」

 感情の乏しい小夜が背の高い長谷部を見上げる。

「さびしくはないのですか?」

「そんなことはない。この俺があいつがいなくてさびしいなどありえん!」

 長谷部は思いっきり吐き捨てるように言い放った。厚が呆れたように見上げている。

「・・・素直になれないのは知ってるけどさ。いいよ、俺たちがきっと連れてくるから。長谷部はここで待ってて」

「おい、厚、誰が連れてこいと言った!」

「僕たちが会いたいからですよ。なにを慌てているんですか?」

「ぐっ・・・」

 小夜に言葉尻をうまくとられて長谷部は言葉をなくす。

「おや、顔が赤くなっておるぞ、長谷部」

 にこにこしながら部外者の三日月が余計なことを言う。そのせいで長谷部の怒りがそちらにも飛び火した。

「貴様、それ以上何かを言ったら明日の茶菓子はないものと思え。ただでさえ三条は間食代がかさんでいるからな」

「おや、じじいの楽しみを奪う気か。おやつなしは困るな」

 茶を手にしながらさして困った様子を見せない三日月は軽く笑った。

「もういい、貴様の相手をしているといくら時間があっても足りん。最後、第四部隊、隊長は大包平か。どうだ、もう人の器には慣れたか」

 先日苦労を重ねた末、やっと連隊戦の最後に現れた太刀は緊張した面持ちで室内を見回した。普段態度は大きいくせに、どこか人目を気にするようなところがある。

「ああ。だが自分が己の刀を手にして戦うことになろうとは刀の時は思ってもみなかった。人の身体というのは便利なようで不便なことも多い」

 そういいながら自分の大きな掌を見つめている。

 長谷部は同意を込めて頷き、声高に言い放った。

「それは誰もが思うことだ。中には戦場で振るわれることなく飾られていただけの刀もいるしな。だがここに顕現した以上、そこにおられる主のために戦ってもらう」

「主・・・」

 大包平はちんまりと目の前に座っている主に目を移す。まだ上に立つには幼い年齢の主は急に見つめられて困ったようにはにかんだ。

 いぶかしげに見つめながら大包平はあきらめたようにため息をついた。

「刀も振るえない病弱な主ではいささか頼りないところだが、約定を交わしたからにはしかたがない」

「・・・貴様、主に対する不敬は許さないぞ」

 彼のその態度が癇に障ったようだ。長谷部は腰に差した刀に手をかける。さすがにそれはまずいとすかさず他から制止の声が入った。

「大将の部屋だぞ、抜刀禁止!」

「大包平さんも気を付けてください。主の事となると長谷部は容赦しませんから」

「あ、ああ・・・」

 厚と小夜に必死になだめれられてやっと長谷部が刀から手を放す。だが目は大包平を忌々しげに睨み付けたままだ。

「ちっ、どいつもこいつも言葉遣いというものなっていない。・・・とにかく第四部隊は練度の低い刀を集めた部隊だ。どの出陣場所も検非違使が出るところばかりだから無理はしなくていい。長篠から厚賀志山目指して体を慣らしながら練度をあげていけ、わかったな」

「やるべきことはわかった。がさっきからずいぶんと偉そうにしているな。あんたは」

「ほう、文句があるのか。ならばさっさと練度を最高値まで上げてこい。それから俺が相手をしてやる」

 睨み付けてきた相手を顎をあげて余裕の顔で見返した。

 力の差では太刀にはかなわないが、長谷部は打刀ではもっとも機動値が高い。先制を取れば太刀でも練度が低ければ一撃で抜いてしまう。

 さすがに今の状態では敵わないとわかったのか、かすかに顔をしかめて大包平は立ち上がりかけた腰を再び下ろした。

「これで任されたことは全部だが、いい加減に卑屈でいじけるのをやめて戻ってこい、山姥切。本来、部隊の作戦総指揮は貴様の仕事だろう。俺に役目を押し付けたままにするな。戦略変更点は貴様が決めただろう、それぐらいは自分で言え」

 白いまんじゅうのように顔を隠して丸まっている物体に冷たく言い放った。

「切国」

 心配そうな声で主が声をかけて布越しに彼に触れる。それでも彼は顔を上げない。

 丸まったままなおも自分をけなし続ける。

「・・・俺がいなくても長谷部が全部やっていただろう。そうなると写しの刀はもう必要ないな」

「おい、こんどこそ押し切られたいらしいな。軍議だというのにやる気のない貴様の代わりをしていただけだ。俺は貴様の仕事を引き受けられるほど暇ではない」

「ちょっ、山姥切も煽るつもりないんだろうけどそういう風に言うのはやめてくれよ」

 青筋を立てた長谷部の前に厚が遮るように立つ。一方、小夜は片膝をついて目線を山姥切の顔のあたりに合わせた。

「何が今のあなたの心をふさがせているのか僕には本当のところまではわかりません。でもあなたは自分のやることをするべきだと思います。あなたはいままでそれをちゃんとやってきました。それは僕たちがわかっています」

 せかすでもない、ただ静かな小夜の声が届いたのだろうか。

 山姥切はうつむいていた顔をほんの少しだけあげて上目づかいに小夜を見た。彼が小さく頷くのを見て、もう一度顔を下げる。力強く布をつかむと、意を決したように顔をあげた。

 まず目線を合わせたのは第一部隊隊長。

「・・・三日月宗近、第一部隊隊長にして現在の近侍だったな」

「そうだが。俺に何をしろというのだ、国広」

 余裕の笑顔を浮かべる三日月に、山姥切は誘いを受けるそぶりもなく冷淡な表情を浮かべて告げた。

「これから消耗した分の金の玉の盾兵を全部作ってこい」

 目を丸くした三日月の顔から笑みが消える。部屋にいたすべての者が何を言い出したと山姥切を見つめ返す。

 だが本人は至極真面目な顔で言葉をつづける。

「あんたの部隊が壊したんだ。その分を補うのは隊長の役目だ。少なくとも俺は隊長の時はいつもやっていた」

「金の盾兵をこの俺が一人で全部つくれというのか?」

「そう言ったつもりだが聞こえなかったのか。それに延享の敵は金の刀装でないと役に立たない。それは出陣しているあんたの方がわかっているはずだ」

 急に態度を豹変させた彼をしばらく見つめていた三日月は口元でふっと笑った。

「ほう、ずいぶんとこの俺に言えるようになったではないか。前までは目すら合わせられなかった刀が」

 人のよさそうな柔和な口調で答えているが、その眼だけは対峙する相手を油断なく見つめていた。

 いつもはいたたまれずに目線をそらすはずなのに、今日は真っ向から受けて睨み返している。

「・・・前に逃げていてはなんにもならないと言われたからな。たとえ天下五剣だろうと、主と縁を結んだ以上この本丸での役目は果たしてもらう」

 誰もが黙って二人の会話を見守っている。状況がよく呑み込めないのは来たばかりの包丁と大包平だ。つんつんと厚の服を引っ張ってこっそり耳元にささやいた。

「ねえ、なんであの二人、すっごく怖い雰囲気なの。仲悪いのかな」

「あー、仲悪いっていうか、相性がよくないってとこか? なんでああなったかはどうもよくわかんねえんだけどさ」

 皆に見つめられたままにらみ合う二人だったが、先に視線を逸らしたのは三日月だった。緊迫した雰囲気が霧散する。

「そこまで言われては仕方あるまい。だが俺一人でやるのか。国広は手伝ってはくれぬのか?」

「一人でやれ、俺は絶対に手伝わない」

「・・・ふむ、ひどいな。まったくそなたはつれない」

 名残惜しげな三日月の視線を振り切って、今度は包丁に目を向ける。

「包丁藤四郎は練度が六十を超えたな」

「うん、やっとそこまであがったんだ。大変だったんだよ」

「必要練度までは上がったからしばらく休んでいていい。代わりに第三部隊隊長として信濃藤四郎を入れる」

 その人選を聞くや否や、嫌そうに顔をしかめたのは厚だった。

「げ、信濃? 今だって俺んとこには後藤がいるんだぜ。なんでほかの極になった短刀じゃないんだ?」

池田屋ではお前たち極の奴らは経験値が稼げないからな。極の短刀ではなかなか練度をあげられないでいるだろう。だったら極になれない短刀を強くさせたいからな」

「だからって信濃が隊長かよ・・・。あいつ、ある意味やりにくいっていうか」

「部隊状況を考慮した結果だ。それも池田屋の探索が終わるまでだ。長谷部のためにもさっさと日本号連れてこい。正直、最近のあいつの相手をするのは俺だけでは無理だ」

 いきなり話を振られて長谷部が焦りの色を浮かべた。

「な、貴様まで勝手なことを言うな!」

「事実だ」

「さっきまで落ち込んでいたくせに、吹っ切れたらこれか。貴様の方がよほど面倒な性格をしているだろう」

「それはお互い様だ。あんたと同じにされるのは不本意だけどな」

 長谷部の顔が強張るや、それを冷ややかに眺めていた山姥切も思わず体を乗り出す。彼らの間に張りつめた緊張が走ったその時、すべてを打ち砕くかのような甲高い音が主の手から鳴り響いた。

「では軍議はこれでおしまいにしましょう。長谷部も切国もご苦労様」

 主の制止が入っては二人ともこれ以上いさかいを続けられない。長谷部は明らかに不本意な顔をしたが口をつぐみ、山姥切は乱暴に布を目深にかぶり表情を隠す。

「まだ厳しい戦いが続くけど、みんなの力を信じています。私の願いはいつも同じです。決して折れずに皆無事に帰ってきて、それだけですから」

  

 

 連隊戦後の出陣のための軍議です。隊長は結構練度上げ重視な選択しているから結構無茶をしている。

 目的はレベル上げと来てない刀の捜索です。

 来ていない刀は見つかるまで結構時間かかるだろうなあと思っていたんです、このころは。

 

第一部隊 太鼓鐘貞宗捜索部隊  出陣先:延享 江戸・白金台

 隊長 三日月宗近

    蛍丸

    鶯丸

    一期一振

    江雪左文字

    太郎太刀

 

第二部隊 日本号捜索部隊その一 出陣先:池田屋 一階

 隊長 小夜左文字

    愛染国俊

    長曽祢虎鉄

    蜂須賀虎鉄

    浦島虎鉄

    同田貫

 

第三部隊 日本号捜索部隊その二 出陣先:池田屋 一階

 隊長 包丁藤四郎

    後藤藤四郎

    厚藤四郎

    五虎退

    平野藤四郎

    今剣

 

第四部隊 練度訓練部隊 出陣先:戦国 長篠

 隊長 大包平

    大典太光世

    小狐丸

    小烏丸

    髭切

    ソハヤノツルギ

    

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