ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

秘宝の里 ~第一部隊~

 霧が立ち込める。先など何も見えない。

 彼らの行く先に待ち受けるものを決めるのは引かれた一枚の札。

 第一部隊隊長、山姥切国広は手を伸ばし、宙に現れた一枚の札に手を触れた。

 

「玉、だな」

 玉の描かれた札を確認して手を放す。すると札は輝く数個の玉に変じて彼らの手元へと転がり落ちた。

「これ以上、玉が増えてもなんにもご褒美ないんだけどなあ」

 頬を膨らませながら文句を言いつつ蛍丸が袋に玉を集める。

「目的の小烏丸殿は無事本丸にお迎えすることができましたからね。ですが玉を集めることはこの戦いの規則ですので拾いましょう」

 長身の体をかがめながら太郎太刀が拾った玉を蛍丸の袋に入れた。その隣で次郎太刀が玉を掲げて眺めている。

「この玉で酒が買えればいいんだけどねえ。きれいな石だから価値があるんじゃないのかい?」

「残念だがその玉はこのイベントが終了次第、消えることになっている。そもそも次郎太刀、貴様は飲みすぎだろう。それもわきまえず、それ以上酒を買うつもりなのか!」

「なにいってんだい、長谷部。この戦いが終わったら新入りの歓迎会するんだろ。酒なんていくらあっても足りないじゃないか」

「だから、飲みすぎだと言っているんだ、俺は。本丸の予算を酒好きな貴様たちの酒代でどれだけ食いつぶしていると思っている!」

「ああ! あんただって一緒になって飲んでるじゃないか!」

 言い争う二人をあきれた様子で山姥切は眺めていた。この争いもここにきて何度目になるか。

「幾度も幾度も同じ道を繰り返せば、長い時を生きる我ら刀とて憂鬱にもなる。このくらいの発散は必要だろう、隊長殿」

 のんびりとした風情で鶯丸が手にした陶器の湯呑で茶をすすった。敵がいつ来るかわからないこの場で本丸にいるのとまったく変わらないその態度がある意味すごい。

「そういえば先ほど出陣するとき、ひどく慌てたように現れたがなにかあったのか」

 まったく意表を突かれて鶯丸に問われた山姥切はぐっと喉を詰まらせた。

 あんたの茶飲み友達の三条の刀のせいだ、とは言えるはずもない。鶯丸も三条の刀もあいつのことを言ったところでどうにかしてくれるやつらではない。面白がって眺めているのが関の山だ。

「別にたいしたことじゃない。あと、くつろぐのは本丸に帰った後にしてくれ。とにかく俺たちは先に進まなくてはならないんだ」

 思わず胸のあたりを抑える。きりきりと痛みが増してくるようだ。

 とにかくこの第一部隊は良くも悪くも個性的な刀が集まっている。そもそもまとまってはくれないし、人の話すらろくに聞かない。あの長谷部ですら冷静さを失って振り回されている。

 足を踏み出すと目の前の霧がわずかに薄れ、そこに再び札が見えた。

「引くぞ」

 目の前に現れた札に手を触れる。

 触れた瞬間、黒くまがまがしい何かが体の中に入り込もうとする感じがして、思わず差し出した手を引っ込めた。

 不意に彼らに向けられた激しい殺気が周囲に立ち込める。他の刀たちも気配を察知して警戒態勢に入った。

 

「何を引いた、山姥切!」

 長谷部の叱責の怒号が背中に飛ぶ。

「槍、しかも三枚目だ」

  嫌な気配だ、気に入らない。

 目を閉じて深く息を吐く。

 心を静めて、霧の向こうに潜む敵を感じ取れ。読め、敵の陣形を。

 この第一部隊は本丸の中でも練度が高い刀揃いとはいえ、高速槍に当たって油断すれば一撃でやられる。薄く目を開け、禍々しい気配のする方を凝視する。

 霧の向こうに見える黒い影、それらは規則正しく斜めに流れていた。

「敵陣形は雁行陣! 先制攻撃が来る、防御態勢をとれ!」

 叫んだその横で、黒い影がすり抜けた。風圧で頭にかぶった白い布がはためいたのを振り向くと、鋭い刃を水平に向けた敵が仲間めがけて突き進んでゆく。

「太郎太刀!」

 誰かが叫んだ。鈍い金属音が鳴り響いて、何かが砕ける音がした。大太刀が空中をうなり、敵はすぐさま飛び下がった。

「・・・大丈夫です。大した傷ではありません。刀装は全て砕けてしまったようですが」

「いいよ、どうせ本丸に帰ったら元通りになるんだから!」

「まったく、兄貴になんてことしてくれんのさ」

 負傷した太郎太刀をかばうように、蛍丸と次郎太刀が立ちふさがった。

 二人とも体躯よりも大きな刀を構え、険しいまなざしで敵を威嚇する。

「何を呆けている、反撃するぞ!」

 長谷部の掛け声に我に返る。すでに彼は敵陣の只中へ突入していた。やはり速い。あの速さにはまだかなわない。

 手の中の本体である刀を握りしめる。己に向かってきた敵を下から素早く切り上げた。

 繰り返される霧の里で幾度仲間が傷ついたか。時には全滅の憂き目も見た。

 はたして俺が隊長などでいいのか。

 所詮、俺は写しだ。写しだからダメなのではないのか。

 他のやつならもっとうまく戦うことができたのではないか。天下に名だたる名刀、そう月の名を持つあの刀なら。

「山姥切、なんだそのざまは。主から総隊長を拝命しておいて、今更ここで疑っているのか。貴様が隊長がふさわしいかどうかなど知ったことではない。だが我らが主がその信を預けるに足りると判断したからこそ、俺は貴様に従うのだ。その主の信頼を裏切るのか!」

 意識の沼へ沈みそうだった己の意識は長谷部の怒声によってむりやり引きずり出された。目の前の敵が叩き潰される。長谷部の有無言わさぬ一撃によって粉砕された敵の血が宙を舞った。

「隊長を下りたいのであれば、すぐさま主に言うがいい。代わりにこの俺が隊長職を拝命させてもらう」

「ふざけるな、誰があんたの指図に従うか。この作戦における第一部隊隊長は俺だ!」

 何を迷っているんだ。ここは戦場だ。一瞬の隙が命取りになる。俺だけではない、仲間の命まで危険にさらす。

 俺たちは刀から主によって現身を与えられた。

 人の形をしても所詮本性は刀。

 美しく研ぎ澄まされた刀は戦場で鮮やかな血の華を咲かせるために乱れ舞うのだ。

 残された敵はもうあと一体のみ。激しい憎悪をむき出しにしてこちらをにらんでいる。その視線に負けるつもりはない。山姥切は柄を握りしめ己の刀を水平に構えなおす。

 ただ今は戦え、それがこの現世に現れたその意味。

「参る!」

 

 

「ふう、これでやっと主命を果たし主の元へ帰ることができる」

 刀身についた血を振り払って、長谷部は刀を鞘に納めた。

 幾人かけがを負っているとはいえ、今回は重傷者もなく終えることができた。

「今回もなかなかの激戦だったな」

 ふらりと気配もなく鶯丸が隣に現れた。自分たち打刀よりもはるかに長い時を経た刀は同じ刀の付喪神だとしてもその存在は時にひどくあいまいに感じる。

「先ほどの隊長殿への発言はなかなかのものだった。あれは長谷部なりの激励だったのだろう?」

「何を言っている。あれはそんなものではない。本心からの言葉だ。次にあのようなたわけた姿を見せるようであれば今度こそ隊長職を奪い取ってやる」

 吐き捨てるように言い放つと、身をひるがえして立ち去って行ってしまった。

 それを見送った鶯丸がゆっくりと別の方を向くと、負傷した太郎太刀が立ち上がるのを手助けしている山姥切の姿がそこにはあった。

 本丸では白い布でその顔を隠し、ほかの刀たちと積極的に関わろうとはしない。だがあれでなかなかに仲間への情が厚いのは皆が知っている。本丸最古参の初期刀だからというものもあるが、それだけではないだろう。

 霧で覆われていつまでも晴れることのない空を見上げ、鶯丸は優しげにつぶやいた。

「さあ帰って、穏やかな本丸の縁側で茶でも飲みたいものだな。大包平よ」

 

 

 長すぎて更新が止まって書いてた話が途中で消えて焦った。

 秘宝の里第一部隊出陣記です。今回の第一部隊は初鍛刀の厚や、鶴丸、三日月といろいろ入れ替わりましたが最終的にこのメンバーに固定されました。

 隊長の山姥切と長谷部がこんな風に競いながら戦ってるんだろうなと想像してます。おかげで二人ともカンストなのに、誉とりすぎだよ。

 鶯丸の言葉づかいがちょっと怪しい。後で直そう。

 連隊戦で大包平来るといいですね。

 2000字超えると、更新が危ないなと悟ったのが今回の教訓でした。

 

 2016年秘宝の里討伐部隊

  第一部隊 隊長 山姥切国広

          へし切長谷部

          太郎太刀

          蛍丸

          鶯丸

          次郎太刀

 

                 = TOP =