ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

秘宝の里 ~隊長 大和守安定~

「さあ、誰と一緒に出陣しようかな」

「おまえねー、万屋に行くみたいに気軽に言ってんじゃないよ」

 貸してもらった名簿を見ながら、大和守は顎に指を当てて暢気な声をあげた。隣にいた加州がすかさずそれを諌める。

「あそこは相当強い敵が出るって言ってただろ。練度とか適正考えずに適当に部隊を組むと痛い目みるからな」

「・・・清光って結構心配性だよね」

「はあっ!? 誰のせいでそうなったと思ってんの!」

「もー、怒ってばっかじゃかわいくないよー。うーん、よし、決めた!」

 名簿をぱたんと閉じると、突然立ち上がって勢いよく飛び出して行ってしまった。

「ちょっ、待てよ!」

 慌てて加州も後を追う。本丸の廊下をまっしぐらにかけていく大和守はどこへ行くつもりなのか。

 皆の部屋の前を駆け抜けて、彼が飛び込んだのは本丸の道場。

「おお、お前たちそろってどうした?」

 木刀を肩にかけて長曽祢虎鉄がいきなり入ってきた大和守たちの方を眺めた。

 

 彼の足下では疲れ切って動けない弟がへたり込んでいた。息は荒く、声も擦れてうまく出せずにいる。

「速さでは負けないのにいくら打ち込んでも効いてくれないなんて」

「一撃に力がこもっていない。実戦では最初の一打が肝心だ。もっと打ち込みしたほうがいい。まず毎朝素振り五百回は最低でもするんだな」

「五百・・・ううう」

 力がなくなったのか床にぱたりと倒れこんだ。床に沈んで動かなくなった彼を眺めながら大和守がつぶやく。

「手合わせしてたの? 浦島となんてめずらしいね」

「こいつがやりたいと言ってきたからな。しかしいかんな、池田屋への出陣がなくなったら腕がなまってきたようだ。鍛錬をもっとせねば。それで俺に何か用か?」

「うん、僕、次の秘宝の里で隊長をすることになったんだ。だから長曽祢さんも僕と清光と一緒に行こうよ!」

「俺がか? ううむ、別にかまわないが、あそこならば天下五剣の奴らと出陣したほうが有利なのではないのか?」

 さすがに長曽祢も秘宝の里に出る敵の特殊性については聞いているようだ。新撰組の組長の刀だっただけあって、隊の人選も深く考えて配置する。けっして大和守のようにノリで決めたりはしない。

「それじゃつまらないでしょ。簡単に敵を倒していくなんて楽しくないじゃん。僕たちの戦いはいつも危険と隣り合わせだったじゃないか。だから僕は清光と長曽祢さんとまた一緒に戦いたいの!」

 大和守の意思の強さをみなぎらせたその言葉に、長曽祢の目が大きく見開かれる。しばらくそのまま動かなかったが、不意にくっくっくと笑いをこらえるようにうつむいた。

「まったく、変わらないなお前は。・・・で、加州もそうなのか?」

「俺はただの付き添い。こいつが突っ走って暴走しないように見張ってろってさ」

「どうだか。お前もこいつと同じで戦闘では真っ先に切り込んでいくだろうが。俺から見ればどちらも危なっかしい奴でしかないな」

「ちょっと、俺は清光ほど馬鹿じゃないよ 」

 長曽祢の評価に大和守が文句を言った。すかさず加州も言い返す。

「誰が馬鹿だって? お前はいつも俺の忠告を無視して突っ走るだろ」

「清光もそうだろ! 自分だけで敵のど真ん中に突っ込んでいくし! 後先見ないで行動しているの君の方でしょ。見てるこっちがひやひやするよ」

 額を付けあうほどにらみ合って言い争い始めた沖田の刀たちを長曽祢は呆れた顔をして引きはがす。

「いい加減にしとけ、お前ら。俺から見ればどっちもどっちなんだよ。・・・それとも何か、お前たち、俺にしごかれたいとでも言うのか。ちょうど道場も空いている。これから存分に相手をしてやるが?」

 薄らと口元で笑いながら見下ろす長曽祢の視線に、大和守たちはぴたりと口をつぐむ。素早く手を握ってにっこりと笑い返した。

「ほら、長曽根さん。俺たち仲良くしてますよ」

「そうですって。喧嘩なんかしてないよね、清光!」

「大和守さんも、加州さんもいつも仲がいいよね。なんかいいなあ」

 いつの間にか起き上がっていた浦島がにこにこしながらつぶやいた。

「おい、こいつらのどこをみて仲がいいなんて言うんだ」

 心底信じられないという顔をして長曽祢が一応同派の弟を見下ろした。

「だってお互いに言いたいことを言い合えるじゃない。喧嘩するほど仲がいいっていうしね。自分の本音を言えるって難しいことなのにさ」

「・・・」

 不意に口をつぐんでしまった長曽祢に、浦島はわざとらしいほど明るい声で話を切り替えた。

「そういえば長曽祢兄ちゃんは出陣できるんでしょ。いいなあ。俺、練度が微妙だから最近戦場に出させてもらえないんだよね」

「じゃあ、浦島君も僕たちと一緒に行く?」

 突然そんなことを言い出した大和守を、皆はえっという顔で見返す。彼は自信に満ちた顔で胸を叩いた。

「今度の里は僕が隊長だから。隊員を選ぶのも隊長権限で僕に一任されているんだ。だから一緒に行こうよ! 君だって長曽根さんと一緒に出陣したいだろ」

「え、えっと・・・」

 浦島がなぜか加州達の後ろを気にしながらちらちらと視線を送っている。ここで加州が止めに入るが、大和守は聞く耳すら持ってなかった。

「こら、待てよ安定。それはまずい・・・」

「じゃ、僕は誰と行くか決まったって報告してくるねー」

 自分の提案に頭がいっぱいの大和守は加州が止めるのも聞かずさっさと主の元へ去ってしまった。

 加州は彼が立ち去って行った方を薄目で胡乱に見つめながら口を開いた。

「ねえ、長曽根さん。俺、さっきから気づいてても言わなかったんだけど、後ろの障子の隙間から俺たちをのぞいているのって、あれ・・・」

「言わなくていい。そこは触れてくれるな」

 苦虫をかみつぶした顔で長曽祢は声を絞り出すように加州の言葉を遮った。

 後ろの障子からこちらをずっと見ているのはおそらく蜂須賀虎鉄。いつからあそこにいるんだか。

 その恨みがましい視線を背に浴びながら、そんなに気になるなら言えばいいじゃないかと思わずにはいられなかった。

「長曽根さん、ごめん。あいつも馬鹿だから、目の前のことしか見えなくて今も気づいてなかったっぽいんだ」

「わかっている。長い付き合いだ、あいつに悪気なんかまったくないことくらいな」

「でもいいの? 浦島も連れて行ったら蜂須賀の奴確実にへそ曲げるでしょ」

「・・・いつものことだ。気にするな」

 

 今日も元気に猪突猛進のうち本丸の安定です。加州をいつも振り回してます。

 加州からするといつもセット扱いされるのが不満。でも一番彼をなだめられるのは事実なので文句言いながらも面倒を見ている。

 でも今の浦島君だとどうしてもやられやすいので、途中からおじいちゃんにメンバーチェンジ。

 

 近侍曲 大和守安定  二〇一七年二月八日獲得

 二〇一七年新春秘宝の里 第二陣 

   隊長 大和守安定

      加州清光

      長曽祢虎鉄

      石切丸

      次郎太刀

      浦島虎鉄 → 三日月宗近

出撃84回  笛 6  琴4  三味線1

 

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