ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

秘宝の里 ~隊長 小狐丸~

「おー、すげえな五虎退。懐入り込んで一撃か。機動速くなけりゃ出来ねえ技だよな」

 敵に止めを突き刺した太刀を引き抜いて獅子王は感嘆の声を上げた。

 襲ってきた槍の部隊はすべて地に倒れ伏せさせた。この程度の強さならば高速で攻撃を仕掛けてくる槍とて問題なく撃退できる。

 虎を労わるように撫でながら、五虎退はゆるゆると首を振った。

「僕だけの力じゃありません。この虎くんが敵の注意をひきつけてくれるおかげです。その隙を狙って攻撃しているだけですから」

「それでもすげえよ。俺だとさ、この刀は太刀の中ではじっちゃんが持てるくらいだから軽いほうだけど、そんなに素早くはうごけねえもん。鵺も俺の傍で戦ってくれるけどお前のところの虎みたいには動けねえからな」

「でも鵺さんは獅子王さんの動きにぴったり寄り添って戦ってくれているじゃないですか。息があうっていうか、そういうの憧れます」

「そりゃあ、けっこう長く一緒にいるからなあ。お互いなんとなく考えが分かるんだろうな」

  周囲の偵察に行っていた浦島が亀吉を抱えて戻ってきた。動きに合わせて後ろでちょこんと結わえた髪が尻尾のように跳ねている。

「お、戻って来たな。どうだった?」

「見つけてきたよ。今回は鈴だったみたい」

 しゃらんと涼やかな音が鳴りひびく。浦島が差し出した鈴を獅子王と五虎退が覗き込んで眺める。

「お、足りなかった楽器だな。これで結構集まったな。先にここに来ていた奴らに聞いたら鈴みつけるにはかなり苦労してたみたいだけど、思ったよりも簡単に集まるもんだな」

「それはたぶん運がいいんだと思います。そうですよね、浦島さん」 

「俺もそう思うよ。もしかしたら誰か神様のご加護がある刀でもいるんじゃないかな。神様に近いってなると、やっぱり隊長の小狐丸さんじゃない?」

 彼らは一斉に鳴狐となにやら話し込んでいる小狐丸を見つめた。

「なんじゃ、いきなり」

 眉をひそめた小狐丸に向けて、柏手を叩いた獅子王が深く頭を下げた。

「いや、なんかご利益ありそうと思ってな」

「私は石切丸のような御神刀でないぞ。加護を期待しても無駄じゃ」

 神妙に拝む獅子王を手を振ってあしらうが、五虎退と浦島に期待を込めた眼で見られるとそれ以上何も言えなくなった。

「なんとなく拝むといいことがありそうな気がするんです」

「そうそう、楽器がたくさん集まってるのってきっと小狐丸さんのおかげじゃないかなあ? 俺はそう思うけどな」

  そこまで言われれば小狐丸も悪い気はしない。さらにいつの間にか後ろにひょっこりやって来た蛍丸まで聞き捨てならないことを言い出す。

 「いいんじゃない? 小狐丸のおかげで楽器が早く集まったって聞いたら、主さんだって喜ぶでしょ」

ぬしさまのためならそれは致し方ありませぬ。確かにあの三日月よりも早く集めたとあれば私のほうが役に立つと認めてくれるかもしれませぬな」

 主の話題になったとたん急に小狐丸の機嫌がよくなった。それを見ながらこそっと蛍丸が浦島に耳打ちする。

「ねえ、なんでうちの小狐丸は三日月と張り合ってるのかな? あっちはのらりくらりとかわしてろくに相手にしてないじゃん」

「たしか小狐丸さんと三日月さんは本丸に来たのがほぼ同時なんだけどね。来て早々に三日月さんが練度を上げきっていた山姥切さんと近侍を交代したんだ。それで三日月さんだけ優遇されたと思って気に入らなかったんじゃないかな」

「えー、近侍なんて雑用ばっかりでめんどくさいだけじゃん」

 蛍丸の言う通り、近侍用の仕事部屋には日々書類の山が積み上がっている。机に向かって書類仕事など一部の刀をのぞいて面白くもないのが普通だろう。ちなみに三日月が近侍の時はただのお飾り状態で、書類仕事などの雑事は他の刀が全力で補佐をしていた。

 呆れてつぶやく蛍丸に、浦島も何ともいえない笑顔を浮かべるしかなかった。

「たぶん主さんの傍に無条件でいられるからなりたいんじゃないかな」

 短刀ならば見逃してもらえるが、大きい刀が主の傍に用もなくいると見咎めた長谷部に追い払われるからだろう。近侍ならば常に共にいても誰も文句は言われない。

 蛍丸はふと視線を流して、大きな虎の頭を撫でている五虎退に目を止めた。

「そういえばさ、この部隊って生き物に関係する刀を集めているよね。どうしてそうなったのかな。俺は蛍って名前がつくだけで動物連れていないし、小狐丸だってそうでしょ。誰の提案?」

「それはですね、こちらの鳴狐の提案でございます」

 後ろから狐の声が聞こえて、蛍丸はびっくりして後ろに飛びあがった。

「ちょっといきなり話しかけないでよ。でもそれってほんと? なんかあんまりそんなことかんがえるなんて想像できないんだけど」

「本当でございますよ。最近、主様がこの秘宝の里の出陣で変わった部隊編成をしたいとお考えでしたので、でしたらと鳴狐が小狐丸殿を通じて提案なさったのです」

「ほんとに?」

 信じられないと疑いのまなざしで見つめる蛍丸たちに、鳴狐は小さく頷いて右手で狐を形作った。

「意外・・・」

「でもなんでこの顔ぶれ? こんな編成をよく許してもらえたよな」

 浦島の問いに狐はもっともですと大仰に頷いた。

「あまりにもふざけていると一部の方には一蹴されかけたのですが、主様の一言で決定いたしました。面白いからいいのではないか、と。主命により文句を言っておられた刀がたも納得されました」

 その言葉に彼らは思いっきり脱力した。

「面白いからってだけで部隊決めないでよね。今回の里は敵強いんだからそこのとこ分かってるのかな、あののんびり屋の主さんは」

「そこは大丈夫じゃないかな。主さんけっこう俺たちがどれだけ強くなった見ているよ」

 

 

 動物に関わりのある刀を集結させた部隊。

 小狐丸は鍛刀の伝説の逸話から、蛍丸は蛍が集って刀を直した逸話からここに入れてみました。 

 御加護があったのか楽器の集まりは一番良かったかもしれません。

 

2017年秘宝の里 水無月

  第5陣 隊長  小狐丸

         鳴狐

         蛍丸

         五虎退

         浦島虎鉄

         獅子王

 出陣回数18回 笛6個 琴5個 三味線1個 太鼓4個 鈴3個 

 

                                               = TOP =