ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

秘宝の里 ~獅子王~

「これで終わりっと。玉はちゃんと残さず拾ったか?」

 敵の血が付いた刀を一振りすると赤い粒子が宙に散った。敵の姿が消えるとともに、刃を赤く染めていた敵の血もまるでなかったかのように消える。銀色の輝きを取り戻した刀を高く掲げて再び鞘に収めた。

 彼の部隊が切り捨てた敵の姿は霧散し、地面にこぼれたわずかな赤黒い染みだけがその痕跡を残す。

 このたびの出陣は秘宝の里でも最も困難な敵に遭遇する場所だが、練度が高い彼らにとってはそれほど困難な戦場ではなかった。幾度となく重なる戦場の周回も順調にこなしている。敵の札が出れば、問答無用で切り捨てるのみ。

「あとどれくらい回れば終わるんだろな」

 玉を拾い集めた秋田藤四郎が笑顔で獅子王の下へ駆けつけてきた。兜の下の桃色の髪が動きに合わせてふわふわと揺れる。

「落ちていた玉を拾ってきました。これでもうすぐ目標達成ですね」

「ああ、さっき主から連絡があったからな。玉の数がそろそろ十万に到達するみたいだぜ。もうすぐ新しい奴がその辺にでてくるから歓迎してやってくれってさ」

「新しい方はどんな刀でしょうね、わくわくします」

 胸の前で両手を拳にし力をこめて目を輝かせる秋田は初めて出会ったころから何も変わらない。修行から帰って来てもその純真さは失われていなかった。好奇心旺盛なところもまた相変わらず。

 どんよりとした空を仰いで獅子王は考え込む。

「物わかりのいい楽しい奴ならいいよなあ。最近来るやつらは正直なにがなんだか」

 ここのところ本丸に新しく迎え入れられた刀はどうも自己主張が強い奴らが多くて、その趣味を語られてもさっぱり良さが分からなかったりする。かといってこちらの言うことを聞かないわけではなく、本丸の事や戦いのことについて教えれば素直に理解しようとしてくれるから悪い奴らではない。むしろ古くからいる奴らの方が状況を分かっている分、反論するし意固地だったりするが。

 そう言いながらふと獅子王は何かを思い出すように真顔になった。

「ま、いろいろ抱えてて面倒な奴らでもそれはそれなりに楽しかったけどな」

「何の話ですか」

 獅子王の独り言をちゃんと聞きとっていた秋田が首を傾げて問いかけてきた。

「ああ、昔の話。昔っつってもまだ二年くらい前か? 俺がほっつき歩いているじいちゃん探して第一部隊で山をぐるぐる回ってた時のやつ」

「ええと、三日月さんを探して阿津賀志山へ第一部隊で出撃していたときの話ですよね。たしかあの山に多数の時間遡行軍が現れて毎日出陣していましたよね」

 適当でいい加減な獅子王の説明を秋田は丁寧に言い直した。

「あの時の僕はまだ練度が低くて部隊に入れなくてよく知らないんですけど、第一部隊の方にその時のことを聞いてもみなさん苦い顔をして話してくれないんですよね」

「げ、おまえあいつらに聞いたのかよ。度胸あるな。まあどうせまともには話してくれなかっただろ。思い出したくねえんだよ、まじで苦行だったからなあれは」

 倒しても倒しても出現し続ける時間遡行軍。政府からは奴らに天下五剣である三日月宗近を見つけられる前に保護しろと命令が出された。

 山への出撃は毎日とどまることなく繰り返された。幾度となく通い詰めた道、逸れる曲がり角、そして山に出現する時間遡行軍の大将を何度切り倒したか。

 終わらない、いつ終わるかもわからない。やっとの思いで山の奥地にたどり着いても、またいないと思い知らされる日々。

 そしてその三日月は山をふらふら彷徨っているばかりで見つかることはなく、結局は。

「しかも三日月さんは鍛刀で直接本丸に来てくれましたからね」

「そうそう、あの時は山姥切の奴が思いっきり落ち込んでたなあ」

 やはり俺が写しだからとお決まりの言葉をつぶやいて、本丸の片隅でひっそり落ち込んでいた彼の背を黙って叩いて慰めたなあ。

 今でもそうだが、あの時からずっと三日月に振り回されてばかりだ。はっきりいってあのじいさんは時折何を考えているのかわからなくなる。ああもあっさり出て来られると、俺たちの苦労はなんだったのか。山を駆け巡ったおかげで相当強くなったのは事実だったが。

  それでも主から与えられた任務を遂行できなかった責任を隊長のあいつは相当感じていたのだろう。

「三日月を探すのも相当手間取っていたし、それに第一部隊の面子が面倒な奴らが揃っていたからな。隊長があいつでなくたってへこむって」

「あの時の第一部隊は誰でしたっけ?」

「えっと、まず隊長が山姥切だろ。あいつは最初からずっと近侍で隊長やってたからな。それと長谷部と歌仙。こいつらも初期からいる刀だ。あとは俺と江雪、それから大倶利伽羅か」

 刀であるはずなのに世の理からどこか遠いところにいた雰囲気の江雪左文字は争いが嫌いというだけあって言い争いすら皆無だったが、他の奴らは違う。

 どれも血で血を争う戦国の世を潜り抜けた刀だ。戦い方一つをとってもそれぞれに思うところがある。ぶつかり合う彼らを獅子王は年長の刀として言い分を聞いてなだめもし、我慢できなければこっちから盛大に文句をぶちまけた。

 指を折々考えていた秋田はにぱっと笑った。

「結構個性の強い方々ばかりですよね」

「融通の利かないっていう方が正解だと思うけどな。いやー、出陣中だろうとなんだろうといろんなことであいつらとはぶつかったぶつかった。でも今思えば楽しかったよな。出来たらまたあいつらと出陣したいと思ってたんだよ。だから今回は俺が隊長だから隊長権限で編成してみようとしたけどさ。残念なことに俺のところはくじで最後だったから他の部隊に取られちまったんだよなあ」

「それでか。お前が俺をこの部隊に組み込んだ理由は」

 冷やりとした声が背後から投げつけられた。振り向けば目を半目にした大倶利伽羅がこちらを睨みつけていた。

「お、なんだ、聞いてたのかよ」

 鋭利な金色の瞳で不機嫌に睨みつけられても、獅子王はいっかな動じる気配はない。むしろ余裕の表情で褐色の肌をした彼に上機嫌で笑い返した。

「おかしいとは思っていた。わざわざ俺をつれてこなくても他の奴らでもいいはずだからな。俺は慣れあうつもりはないといったはずだ」

「そうかたいこと言うなって。俺たち、ずっと同じ部隊で戦った仲じゃねえか」

「昔のことをいまさら持ち出すな」

 そう言い残すと大倶利伽羅は背を向けて立ち去ってしまった。

「相変わらずだな、あいつは」

 苦笑しながら獅子王が言うと、彼の背を目で追っていた秋田はそれは違いますとふるふる頭を振った。

「ぶっきらぼうで冷たそうに見えますけど、僕たちには優しくしてくれますよ。いつも静かで表情も変わらなくて、最初の内は何考えてるのかわからなくて怖いなって思うこともありましたけど。でも届かないところのものを黙って取ってくれたり、内番で忙しいときも黙って手伝ってくれたりしてくれますから」

「あいつがいい奴だってことは俺たちも知ってるって。でも俺たちがそれ言うとあいつ怒ってかみつかんばかりに睨んでくるからなあ」

 かといってこの部隊が不満というわけではなさそうだ。獅子王の采配も良いと思えば黙って従うし、もし思うところがあれば短い言葉で率直に言い残していく。慣れあいたくないというあいつと多くの言葉をかわさなくても信頼し合える関係は築けたのだ、あの第一部隊の中で。

 過酷な戦いの中でこそ見えるものはある。

 相手など気にもせず自分たちが思うようにばらばらで戦っていたのが、次第に互いの背を預けられるまでには。

 一点の曇りもなく信頼して背後を任せられるというのは何よりも心強い。己も自身の力を存分に振るえる、その喜び。

「やっぱもう一度あいつらと一緒に戦いたいよな」

 柄に手をかけて、獅子王はにっと歯を見せて秋田を振り返った。

「時間たっちまったな。さあ、戦いに戻るか。さっさと任務を片付けて新しい奴見つけたら主のところへ戻らねえとな」

  

 

2017年葉月 第五回秘宝の里

 第六陣 隊長 獅子王

        にっかり青江

        乱藤四郎   →   秋田藤四郎

        日本号

        蛍丸

        大倶利伽羅

 

出陣回数 26回  笛5個 琴3個 三味線4個 太鼓2個 鈴1個

 

最終出撃回数 112688周

 計 笛44個 琴29個 三味線30個 太鼓24個 鈴18個