本丸 ~山姥切・堀川~
これでもう幾日あの霧の立ち込める地へ向かったことだろう。
日の光も夜の闇でさえもすべてが閉ざされたあの地にいると時間間隔すら狂いそうになる。
軽やかに重なり合う聞きなれた音が聞こえた。今日もまた、涼やかな出陣の鈴の音が本丸に響き渡る。
「今日も出陣?」
本丸の仕事部屋から出てきたところで、堀川国広に声をかけられた。
内番の姿ではなく戦装束をまとっているところを見ると、彼もまた出陣を命じられたのだろう。
「ああ、そっちは池田屋か?」
「そうだよ。日本号さんの探索が終わらなくて」
困ったようにはにかんで笑う彼の表情にはもう以前のような距離を感じるためらいはない。
敵を切り伏せた戦場で見つけた一振りの刀から顕現した彼と出会った時は、互いにどうしてよいかわからなかった。もう一人の兄弟も現れてはいず、兄弟だと心の中ではわかってはいても接し方を知らずにいた。
粟田口の者達のように親しくもなれず、左文字の者達のように語りあわずとも分かり合えるでもなく。最初の擦れ違いで互いにどうもできなくて、距離を置いていた。
だけどそれももうずっと昔の話だ。
「山姥切、先に行く。出陣には遅れるなよ」
あとから仕事部屋から出てきたへし切長谷部が自分の後ろをすり抜け、去ってゆく。
「近侍の仕事もやっているんだよね。それに秘宝の里の探索は連日連戦だし、しかも第一部隊を率いる隊長の任務にも就いている。兄弟は疲れても我慢して黙っているから心配なんだけど」
「大丈夫だ。この探索もあと数日で終わりだからな。・・・それに出陣していたほうがあいつのいる本丸にいるより気が楽だ」
「・・・もしかして三日月さんのこと?」
「他に誰がいる。練度が最高値になった俺は本丸でずっと三日月宗近の世話を押し付けられているんだ。行動の読めないあいつに付き合うぐらいなら、戦場で敵の大軍と戦っていたほうがましだ!」
不意に背にいやな悪寒が走った。俺は写しだから霊力などないが、この勘だけは外すことはない。
本丸の向こうから呼ぶ声が近づいてくる。
「この声は三日月さんだね。兄弟を呼んでいるみたい・・・・ってもういない!?」
堀川が声の方を向いて視線を戻した時にはもう山姥切の姿はそこにはなかった。さすが機動値が高いだけあって逃げるのも速い。
ほてほてと優雅な足取りで縁側伝いに三日月宗近が堀川のそばにやってきた。
「さきほど国広の声がこちらから聞こえたような気がしたが、どこにいるか知らぬか?」
袂で口元を隠しながら三日月はゆったりと微笑んだ。そのしぐさは優美で一部の隙もない。
「あ、兄弟ならもう出陣しましたが」
さすがに逃げたとは言えない。それを聞いた三日月は目に見えて落ち込んだ。
「あなや、今日こそはと思ったがまた会うことができなかったか。しかたない、いべんととやらももうすぐ終わるゆえ、それまで待つとしよう。堀川の、邪魔をしたな」
「は、はい」
堀川の横を音もなくすり抜けてゆく。その並び立ったほんの一瞬、三日月の細い目が笑みながらも油断ない光を帯びてこちらに投げかけられた。
その視線に体を凍りつかせた堀川は去ってゆく三日月のその後ろ姿を見送っていた。
(よく迷子になったり、あちこちでいろんなトラブルを引き起こすから、ほかのみんなは三日月さんのことを世話の焼けるおじいちゃんのようにあつかっている。でもあの人はどんなときでもちゃんと兄弟のいるところに現れるんだ。僕だって兄弟とはたまたまここで出くわしたのに)
秘宝の里に向かう第一部隊は向かう場所の特殊性ゆえか、つねに不規則な時間で帰城する。だからいつ帰ってくるかは誰にもわからない。堀川も通りがかりにこの仕事部屋の前で会って、帰ってきていたのかとびっくりしたぐらいだ。
それをあの人は兄弟を探すそぶりを見せながら、あきらかにどこにいるかわかったうえで狙いすましたように現れた。
堀川はふうと息をついてつぶやいた。
「三日月宗近、天下五剣にして最も美しいとされる刀、か」
うつむいた彼の瞳が剣呑な光を帯びる。闇夜の戦場を駆け抜ける時と変わらぬ顔がそこにはあった。
2016年秘宝の里イベントの合間での一幕。
うちの本丸では山姥切国広がおもいっきり三日月宗近を避けています。それをわかっててなおかまわれにゆく三日月。完全に確信犯かな。
彼が避けている原因の一つはあれだけ厚賀志山を周回したのに出てくれなくて、別目的の鍛刀でさらっと出てきたから。苦労したにもかかわらず全然関係ないところで天下五剣が気まぐれに出てきたがゆえにこじらせました。
刀剣乱舞で二次創作書くのは初めてだったけど、ちょっと楽しかった。
言葉づかいとか性格とか違うかなーって思ったりもするけど、自分なりに書いていきたいなあ。
= TOP =