ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

池田屋 ~安定・清光~

 夜の静寂を引き裂くような掛け声とともに池田屋新撰組隊士が白刃を抜いて乗り込んでいった。

 浅葱色に染めただんだら模様の羽織が闇夜にひらめく。その様子を池田屋の屋根の上から冷めた目で眺める者たちがいた。

「行ったみたいだね」

「今回も何とか間に合ったってとこかな」

 赤と青の色彩が暗闇の中に溶け込んで潜んでいる。彼らのここでの戦いはすでに終わっていた。

 歴史遡行軍という敵の血にまみれた刀はすでに鞘に納められ、あとは正しき歴史に向けて人が戦いの中を駆け抜けてゆくのを見届けるのみ。

 この屋根の上から幾度同じ光景を見てきたことか。

 加州は自身の憑代である刀の柄をそっとなでた。帰ろうと声をかけようとしたところで、傍らの相方の様子がいつもと違うのに気付く。

 何かを思うかのようにじっと下を見つめている安定に向けて清光は問いかけた。

「もしかしてあの人の後を追いかけていきたくなった?」

 からかいの混じったその声に、安定はきっと厳しい目を向けた。

「そんなことはしないよ、清光。僕だってしていいこととしてはいけないことくらいわかっているからね」

「だけどさ、おまえ、あの話見たときちょっと顔色変わってたよ」

 顔をむっとさせて安定はふいっと加州から視線を逸らした。

「そりゃ、僕だって沖田君を助けたいって気持ち忘れたわけじゃないよ。だけど、今の僕にはもうあの花丸の僕みたいにただ助けたいからって、あの人を追いかけて手を伸ばすことはできないんだ」

 階下の池田屋では激しい剣戟と人の怒号が響き渡っている。

 あそこでは新撰組の仲間とともに、自分たちの前の主も刀を振るっているだろう。

「沖田君はこの池田屋で戦ったんだ。あの人は新撰組の局長や土方さんやみんなとずっと戦っていたかった。一人だけ病床で寝ているのは本望じゃなかったのは僕がそばで見て知っているからね。だけど沖田君はもしかしたら戦いの場で果てたかったのかもしれない。冷たい一人きりの病床のなかじゃなくて。それは僕の想像でしかなくて、沖田君しかわからないことだけど」

 清光はただ静かに黙って安定の言葉を聞いている。彼の赤い瞳はじっと安定の青い瞳を見つめていた。

「僕が追いかけることで歴史が変わってしまう。そうなったら本丸にいるほかの刀たちの運命も変えるかもしれない。それは、できないよ」

 あの本丸に顕現して、いろんな時代の刀たちとの出会いがあって、それらをすべて振り切ることはもうできない。

 歴史はほんの些細なことで変わってしまうのだから。

 ふとした衝動で歴史を変えてしまったとしたら、たとえ無念の果てにつきようともここで命の限りを尽くして戦った彼らの存在を踏みにじる行為にしかならない。

 平静だった加州の口元がくっと上を向いた。

 「へえ、安定にしてはちゃんと考えてるみたいじゃん」

「きーよーみーつー、僕だって考えなしで行動しているわけじゃないよ。だいたい君だってさっきの戦いはどうなの? 一人で勝手に階段に駆け上ったりしてさ。長曽祢さんの指示無視してただろ」

「そういう安定だって敵陣に無理やり突っ込んでいったでしょ。人のこと言える?」

 言い合う二人の視線が激しく交錯する。舌鋒は調子よくさらに鋭さを増していった。

「だいたいうちの安定はかわいげがないよね。あっちを見習いなよ」

「清光だって、向こうのほうがしっかりしてるじゃん。どうしてこんなに違うのかな!」

 ぎゃんぎゃんと言い合っていると、どこからか彼らに呼びかける声が聞こえた。

「おーいうるせえぞ。喧嘩するなら帰ってからやれって」

 和泉守兼定が相棒の堀川国広を連れて屋根の上に現れた。

「「だってこいつが!」」

 指で互いに相手を指し示しながら、思わず二人の声が合わさる。驚いて一瞬見つめあうと、すぐぷいっと視線を逸らした。

 くくっと声を押し殺しながら和泉守が二人に向かって笑いかけた。

「ほんとに仲がいいよな、お前ら」

「ダメだよ、兼さん。そういうことは本人の前で言わないの」

 堀川がたしなめるが、和泉守は聞きはしない。

「だってよ、国広。こいつらいつもいつも喧嘩しているけど、それって喧嘩するほど仲がいいってことだろ」

 それを聞いて加州がむっとして頬を膨らませる。

「そんなわけないじゃん。夫婦みたいなそっちと一緒にしないでよ」

「そうそう、最年少の和泉守に偉そうに言われたくないよね」

「なんだと、おまえら!」

 怒りだした和泉守から逃げて、二人は堀川の背に回り込む。

「まあまあ、兼さんも怒らないの」

 困った様子で堀川がなだめるが、和泉守はまだ怒っているのか大人げなく頬を膨らませた顔で安定たちをにらみつけている。

「おーい、おまえら何を遊んでいるんだ。次、行くぞ」

 下の方から長曽祢虎鉄が呼んでいる。そう、敵はまだ三条大橋の方にも残っているのだ。

「次は敵の大将だ。俺たちも向うぞ、国広」

 ひらりと身をひるがえして和泉守が飛び降りる。そのすぐ後を堀川が追った。

 安定も飛び降りようとして、ふと足を止める。それに気づいた清光がこちらを振り返った。

「どうしたの。行くんじゃないの?」

 自身の本性である刀に手を添えたまま、安定は目を閉じた。

「ねえ、清光。僕は止めなかったことを後悔しているつもりはないんだ。だけど、ほんの少しだけ、何も余計なことを考えずにあの人について行ったもう一人の僕がまぶしくて、羨ましかった」

 前の主と同じ浅葱色の羽織が夜の宙に翻る。

 軽やかに地面に舞い降りて、仲間の後を追ってかけていくその背を見ながら清光は小さく息を吐いた。

「そうやって言えるお前が俺にはうらやましい、かな」

 朝の光が天と地の境目から差し込んでくる。池田屋の裏の人気のない場所に降り立った清光は顔を上げて一瞬二階の方を振り仰ぐと、すぐさま思いを振り切るように身をひるがえして三条大橋へと向かっていった。

 

 

 アニメの花丸を見ていたら、な話です。

 うちの本丸は開始から二年近くになり池田屋周回もかなりこなしているため、二人ともここにきても結構割り切っているのかなと思われます。じゃなきゃ、何度も同じ過去を繰り返し見ていられないだろうから。

 花丸と違ってささいなことですぐ二人は喧嘩しあう仲な気がします。

 ケンカするほど仲がいいって言いますよね!

 日本号出るまで新撰組陸奥守は池田屋周回続けてもらうしかない。ごめん。

 

 池田屋強襲部隊(日本号探索班)

  第二部隊  隊長 長曽祢虎鉄

           和泉守兼定

           堀川国広

           加州清光

           大和守安定

           陸奥守吉光

  

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