ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

顕現 ~数珠丸~

「切国、みんなは・・・」

 手入れ部屋の前で立っていると、息を切らして主が廊下の向こうから現れた。そういえば主がついてくるのを待たずに外へ飛び出したのをいまさらながらに思い出す。

 打刀の中でも機動の早い山姥切に、人間の、しかも体力などかけらもない主がついてこれるはずはなかった。それでも必死にここまでたどり着いたであろうことはその顔を見ればわかる。

「一応みな帰ってきた。今、手入れ部屋に入っているところだ。今剣と小夜は重傷で傷が治ってもしばらく休ませた方がいいが、他の者はすぐ出てこれるだろう」

「そう・・・」

 力なくつぶやいて主は手をぎゅっと握りしめる。主の手に絡みつくように糸の幻が表れて消えた。

「大丈夫です。仏は見てくださっているのです」

 山姥切の後ろから優しく諭すような声が聞こえた。主の耳にも届いたのだろう、不思議そうな顔をしている。

「切国・・・の声ではないよね。誰?」

 後ろの障子がすっと開いて声の持ち主が姿を現した。

「私は天下五剣が一振り、数珠丸恒次と申します。人の価値観すら幾度となく変わりゆく長き時の中、仏道とは何かを見つめてまいりました。貴方がこの本丸の主ですね」

 数珠丸の顔を見るなり、主の動きが止まった。

「え、え?」

 声が震えて明らかに混乱している。ため息を一つついて、山姥切は簡潔に説明した。

「あいつらが江戸城で見つけてきたそうだ。最初の制覇でな」

「・・・うそ」

 突然滂沱のごとく涙が主の両目から零れ落ちる。突然泣き出して崩れ落ちた主にぎょっとして声をかけた。

「おい、しっかりしろ」

「だって、私にもわかるくらいひどい傷を負って、それでも敵を倒してくれたのに。その上、新しい刀を連れてくるなんて・・・ごめんなさい、そしてありがとう」

 両手で顔を覆いながら止まらない涙を抑えようとする主をどうしていいかわからず、ただじっと見つめるしかなかった。

 気づかぬうちに上がりかけた右腕を何もできぬまま軽く握りしめて下げる。

「御仏の導きです」

 静かにそばに控えていた数珠丸が穏やかな風貌で言葉を発した。

「彼らの仲間を思う心が私を呼んだのです。いたわりに満ちた清らかな声でした」

「・・・導き」

「貴方も本来刀である我らのために、そのように素直に涙を流せるというのは心が美しい証拠です。あの者達があなたを主と認めるのもわかる気がします」

 手入れ部屋の障子があいてすっかり元通りとなった五虎退が大きな虎とともにひょっこり顔を出した。

「主さま! ただいま!」

 その後ろから次々と短刀たちが元気に姿を現す。

「よう、また泣いてんのか、大将」

「薬研兄さん、主にそのようなことを言っては失礼ですよ」

 いつもみたいににぎやかな彼らを見て、涙をぬぐった主は彼らに抱きついた。

「みんな、おかえりなさい」

 

 

 数珠丸さんはどこまでもたどりつけない悟りの境地にいるような気がする。

 短刀たちはどんなに傷ついてきても、心配かけまいと笑ってくれそうだ。江戸城でボロボロにしてごめん。

 でもやられた分ひそかにリベンジを心に刻んでそうだ。

 

 太刀 数珠丸恒次  二〇一七年一月二〇日顕現 

 

                = TOP =