ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

秘宝の里 ~隊長 大倶利伽羅~

 縁側に座っていた大倶利伽羅の目の前にいきなり皿が差し出された。皿の上にはこぶしほどの白いまんじゅうが二つ乗っていた。

加羅坊、今日のおやつを持ってきたぞ」

 聞き飽きるほど聞いた軽快なその声に、大倶利伽羅の眉根が上がった。こんな風に自分へ親しげに声をかけるときは何かしら企んでいる。

 断りもなく傍らにしゃがみ込んだ白い鶴を冷たい視線で一瞥すると、黙ったままふいっと視線を逸らした。

 だが鶴丸は冷淡なその態度も慣れ切った様子で、さらに大倶利伽羅の顔面へまんじゅうを差し出す。

「いいのか? これは光坊と貞坊がつくったまんじゅうだ。最近貞坊が料理に目覚めたみたいでな、今日のおやつもあいつらが作ったみたいだぜ。さっき味見したが結構うまかった」

 他人となれ合うつもりのない大倶利伽羅でも、見た目が子供の短刀の者達に対してはそう邪険な態度は取れない。それに太鼓鐘のことだから、おそらく食べたかどうか味はどうかなどうるさいぐらい聞いてくるに違いないだろう。

 だがそれでも鶴丸が持ってきたという一点が手を出すのをためらわせた。

 険しさを増した大倶利伽羅の疑いのまなざしを受けて、鶴丸はにやりと笑った。

「どう見たって普通の饅頭だろう。そんなに疑うなら俺が一つ食べてみるからな。・・・そら、何もないだろう?」

 半分食べた饅頭の断面を見せられる。たしかに餡子の入った何の変哲もないまんじゅうだ。得体のしれない正体不明の何かが入っている様子はない。

「本当に貞宗たちが作ったものだろうな」

 初めて大倶利伽羅が口を開く。ただその口調はどこまでも低く鶴丸に対する疑念に満ちてはいたが。

 やっと反応を返した大倶利伽羅鶴丸は形の良い口の両端をくいっと上にあげた。

「そうだ。今の俺は天に誓って嘘は言ってないからな」

 神妙に誓っているはずなのに、どうしてこいつはこうも信用できないのか。

 同じ伊達の刀にここまで疑われるほど、鶴丸には前科がありすぎた。だがそんな疑いの目にも一向に頓着しないのが鶴丸国永が大物たるゆえんだったが。

  しばし無言で目線をぶつけ合っていたが、先に視線をそらしてため息をついたのは大倶利伽羅だった。

「どうせ食わなければあいつらに言うんだろう? 特に光忠は口うるさいからな」

 どこが口に合わなかったとか、何なら食べるかとか、食べ物に関してとにかく付きまとって煩わしいことこの上ない。おせっかいめと何度毒ついたか。

 大倶利伽羅は皿に乗った最後の一つに手を伸ばす。

 その様子をじっと見つめる鶴丸。大倶利伽羅の口にそれが入ろうとするほんの刹那、彼の眼が満足げに細められた。

「嘘は言っていないが、本当のことも全部は言ってないからな」

 謎かけのようなその言葉が耳に届いた時にはもう、口を閉じていた。がりっと固いものが歯にあたった。

 これはなんだと口から取り出してみると、それは金色に光る丸い物体だった。表面にはどこか異国の顔立ちをした横顔と見慣れぬ文字が刻まれていた。怒っていた顔をさらに険しくして鶴丸を睨み付ける。

「なんのつもりだ」

加羅坊はこういう単純な手のほうが驚いてくれるみたいだな。おっと、刀は抜くなよ。ただの戯れでそんなに怒るんじゃない。あとその金貨の意味は主のところへ行けば教えてくれるからな」

 それだけ言い残すとあっという間に逃げ去ってしまった。太刀のくせになぜか逃げ足だけは速い。

 手には謎の金色の物体が残された。饅頭の皮に案の代わりにこいつが入っていたらしい。見た目では全くわからなかった。こういういたずらにおいては無駄な器用さを発揮するやつだ。

 あいつは主のところへ行けと言った。

 苛立たしく乱暴に立ち上がると、本丸の離れにある審神者の部屋へと向かった。

 

 

 審神者の部屋へ向かう途中の廊下で顔を合わせた山姥切はどこか疲れた顔をしていた。喉元の衣服を軽く仰がせながら、大倶利伽羅が歩いてくるのに気付くと珍しく向こうから近寄ってきた。

「あんたもやられたのか」

 鶴丸が饅頭に仕込んだ金貨を、審神者の部屋にいた山姥切に見せた時の第一声がそれだった。かぶった布で顔が見えなくなるくらいにうなだれてすまないと小さな声で謝られる。

 それを見た大倶利伽羅の右の眉根が上に吊り上る。

「これはお前らの差し金か」

「それは違う。だが原因をつくったことに間違いない。だから謝っている」

「なんだそれは。仕掛けたのは鶴丸だ。だとしたらなぜお前が謝る。悪いのはあいつだろう」

「それはそうだが・・・」

 口ごもる山姥切を見て、大倶利伽羅は軽く舌打ちをする。はっきりしないその態度がなぜか苛つく。

 普段は冷静に対処するくせに、すぐこういった卑屈な態度をとる。

「ああ、それが書置きにあった『金色の丸くて光る幸運』ですね」

 山姥切の布の後ろからひょっこり主が顔を出した。外を出歩いているのはこちらも珍しい。今日はだいぶ調子がいいのだろうか。

 まだ成長しきれていない少年の主の手が上にのばされてぽんぽんと慰めるように山姥切の背中を優しく叩く。

「貴方が悪いわけではないですよ、切国。鶴丸に話を聞かれてしまったのは私も一緒ではないですか」

「だが主」

鶴丸の処遇は歌仙に任せましょう。相当激怒していたのでもう今頃つかまっている頃ではないでしょうか。・・・それに鶴丸もきっと自分が怒られるのは覚悟してやったことだと思いますし」

「なんだそれは」

 胡乱げに大倶利伽羅が主を見返すと、山姥切もまた背後に冷ややかな視線を向けた。

「前から思っていたがあんたは鶴丸を買いかぶりすぎじゃないのか。怒られるのを覚悟しているなら初めからあんなことはしないだろう」

 だが主はにっこりと笑うだけで何も答えはしなかった。

 ふいっと身をひるがえすと、主は二人を自室へといざなった。

「大倶利伽羅には大事な話があります。来てください」

 部屋の奥の定位置である座布団に座った主の正面へ、大倶利伽羅は無造作に足を組んで座りこんだ。

「話とはなんだ」

 用件を切りこんだ大倶利伽羅に主は一片の紙を渡す。そこには見慣れたどこかの誰かの字で数行書き連ねてあった。その中の一番上の文章に大倶利伽羅は目を止めた。

「壱番目、金色の丸くて光る幸運だと?」

「はい、たぶんそれがあなたの持ってきたその金貨のことだと思います」

 大倶利伽羅は手にしていたそれを指で軽く掲げて見せる。煌めいて金色に光るそれは指に触れている限りは冷たいただの金属の塊にすぎない。何が特別だというのか。

「あいつは何のまねでこんなふざけたことをしたんだ」

「それは今回の特別任務である秘宝の里の出陣の順番を決めるためです」

 主の言葉を傍らに控えていた山姥切が補足する。

「正月に開いた秘宝の里への入り口が再び開くとの通達が政府からあった。今度は四名の近侍曲が追加された。大倶利伽羅同田貫、長曽祢虎鉄、鳴狐の該当する四名に部隊長を任せ、出陣してもらうことになっている」

「前回と同じか。そこでなぜあいつがからんでくる」

 不機嫌さを隠さない大倶利伽羅を前にして、主は少し困ったように答えた。

「それなんですが、ちょっと決め方に私と切国で悩んでいるのを鶴丸が聞いていたらしくて、それなら俺がいい方法を思いついた、と」

「・・・それであいつに任せたのか」

 冷ややかな視線を主に向け、そして傍らの山姥切に動かす。大倶利伽羅の視線に一瞬ひるんだが、すぐさま強い光を帯びた目で睨み返された。

「任せるわけがない。捕まえようとしたが逃げられた」

鶴丸はこういう時は行動がすばやいですからね。特別任務の方が急ぎなので先に順番を決めてから探そうとしたんですが」

「犠牲者たちが駆けこんでくる方が早かったな」

 額に手を当てて山姥切の口から重いため息がこぼれた。

 犠牲者とはいったいなんだ。

 だが目を細めて大倶利伽羅はこれ以上事情を聴くまいと考えた。これ以上、余計なことには関わりたくはない。特に、鶴丸がらみの案件は。

「主、用件を言え。俺は何をすればいいんだ」

 困ったように笑っていた主の眼からすっと色が消えた。

 普段は頼りなげな人間の子供が、刀に命令を下す決意を決めるほんの一瞬だけは気配が変わるのを大倶利伽羅は知っていた。こちらを見つめ返す時にはいつもの穏やかな表情に戻っているから注視していなければわからない。

 ほんのわずかな変化だ。気づいている奴はどれだけいるか。

 傍らの山姥切は気配が変わった瞬間、緊張した面持ちで主に一瞥を投げかけていた。こいつは長く近侍を務めていたくらいだ。とうにわかっているだろう。

「あなたには第一陣の部隊長として皆を率いて最初に出陣してもらいます。鶴丸のくじの結果に従うことになりますが、彼がせっかく命がけで体を張ってやってくださったので無駄にはしたくありません」

「・・・わかった。誰と行けばいいんだ」

「大太刀を二振り入れていただければ、あとは大倶利伽羅の好きにしてかまいません。伊達の方々と一緒でもいいですよ」

 主の提案には黙ったまま、視線を山姥切の方へ向けて手を差し出した。

「おい、出陣候補の奴らの名簿があるだろう。貸せ」

「確かにあるが、どうするつもりだ」

 差し出された紙を無造作に奪い取ってざっと目を通す。机の上に置かれた筆をとって名のところに印をつけた。

「こいつらでいい」

 受け取った紙を見て山姥切の眼が軽く見開かれる。

「これでいいのか? それにこの組み合わせは・・・」

「時間がないんだろう。さっさとそいつらに出陣の支度をさせろ。俺も準備をしてくる」

 それだけ言い残して大倶利伽羅審神者の部屋から去って行ってしまった。

 主が膝をすり寄らせて彼の手元に残された名簿を覗き込む。

「ああ、なるほど。大倶利伽羅にしてはめずらしく気の利いたことをしますね。浦島虎鉄と蜂須賀虎鉄を一緒の部隊にしたのですか」

「浦島は蜂須賀よりも長曽祢と池田屋で出陣することが多かったからな。蜂須賀は何も言わないが、心の中で不満に思っていたのをあいつも気づいていたんだろう。そうでなければわざわざ一緒にはしない」

 浦島と蜂須賀の名のところに丸が付けられた名簿を見ながら、山姥切の口元がかすかに笑うのを主は見ていた。

 主は己の初期刀を見上げながら優しく語りかけた。

「あの性格なので誤解されることもありますけど大倶利伽羅は自分の立場をわかっています。無愛想で周りと自分から関わらない彼ですが、ちゃんとほかの刀たちのことは見ているのですよ。彼だって長くからいるこの本丸の仲間なのですから」

「確かにあんたの言うとおりだな」

「だから彼とは仲良くしてくださいね。伊達の刀以外となかなか打ち解けない彼でも、あなたとだったら似た者同士うまくやっていけそうな気がするので」

「・・・似た者同士とはどういう意味だ」

 

 金色に光る丸い幸運は壱番目。

 ある意味あたり。これ以外は・・・。

 うちの鶴丸さんはこういう騒動を頻繁に起こしている。

 なんせカンストしてから隠居状態で暇なので。

  

 

 近侍曲 大倶利伽羅  二〇一七年四月十四日取得

 二〇一七年卯月 秘宝の里 第一陣 

   隊長 大倶利伽羅

      太郎太刀

      次郎太刀

      長曽祢虎鉄  ⇒ 宗三左文字

      浦島虎鉄 ⇒ 薬研藤四郎

      髭切

ボスマス到達 69回  笛 7個  琴 4個  三味線 5個

 

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