ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

黒田組 ~へし切・日本号~

「よう、長谷部。相変わらず堅苦しそうなつらしてるな」

 今日も気安げな日本号の言いざまに、長谷部は思わず顔をしかめる。無言で睨み付けているにもかかわらず、気づかないのか気づいていないふりをしているのか、日本号は日参して長谷部を酒に誘う。

「まずは酒でも飲まねえか。黒田では殿様も家臣もなに口実がありゃすぐに一緒に飲んでたもんな!」

「・・・貴様と飲む酒などない」

 ぷいと視線をそらすとそのまま長谷部はその場を立ち去った。

 残された小夜と厚が茫然としている日本号に謝る。

「ごめんなさい」

「てめえらが謝る必要ねえよ。俺のことが気に食わねえのはわかるが、なんだってあんなに怒るんだ。黒田の時はあそこまで露骨じゃなかっただろう」

 問われて厚と小夜が何か言いたげに眼を交わす。

「・・・それはたぶん、あなたのせいだと思います」

「俺か? 俺は何にもやってないぞ」

「だからなんにもやってないのが問題なんだよ」

「なんだそりゃ」

 謎かけのような彼らの言葉に日本号は顔をしかめるだけだった。 

 

 

「あんた飲みっぷりがいいな、さすが天下に鳴り響いた正三位の槍だな!」

「おう、酒ならたくさんあるぜよ。もっと飲まんがのー」

 酔いが回って機嫌のいい和泉守と陸奥守の声が聞こえた。それにこたえるようにひときわ大きな声が鳴り響く。

「これじゃ俺には足りねえぜ。もっと大きな盃を持ってこい。呑取り槍と呼ばれた俺の飲みっぷりを見せてやる」

 日本号の笑い声が大広間から離れている廊下まで聞こえていた。

 書類をわきに抱えた長谷部は小さく吐息を吐く。日本号を歓迎する宴とは反対方向に足をすすめようとしたその時だった。

「あんたは参加しなくていいのか」

 背中に無造作に言葉を投げつけられて、長谷部は冷ややかな視線を後ろに向けた。声の主は山姥切だった。平静な視線で感情など感じさせずただじっとこちらを見つめている。

「なんのことだ」

 口から出る言葉も自然と低くなる。明らかにこちらは不機嫌だと示したはずなのに、彼は全く動じる気配すら見せなかった。

「今度来た日本号はあんたのいた黒田の槍だろう。そいつの歓迎会だ、おまえは行かなくていいのかと言っている」

「貴様に指図される筋合いはない。俺は忙しいんだ、やるなら勝手にやればいい」

 会話を無理やり断ち切って踵を返そうとした。だが、こいつは珍しく話すのをやめなかった。言葉が心の内に入り込んでくる。

「それは本心なのか、長谷部」

「当たり前だ」

 何をこいつはずけずけ俺の事に踏み込んでくるのか。いつもなら必要なことすら話さないくせに。

 踵を返した長谷部の後ろでわかった、と小さくつぶやく声が聞こえた。

「かつての仲間を避けて後であんたが後悔しなければいいけどな。失った時にはもう、遅い。俺たちの刃生は必ずしも永遠に続くものじゃない」

「・・・貴様っ」

 主への不敬の念を感じ取って長谷部は怒鳴った。その言いざまは主の力を信じていないと受け取れる。

 だが再び振り返った時には山姥切はもう長谷部から背を向けていた。ところどころ破れた布をまとった後姿が言葉を紡ぐ。

「前の俺は些細なことで意地を張って大事なはずのものに目を背けた。失いかけて本当に大切だったとやっと気づいた。あんたにはいろいろあるが一応世話になっているからな。同じことで後悔してほしくなかっただけだ」

 それっきり口をつぐんでそれ以上こちらを見ることはなかった。

 去りゆくその後ろ姿を睨み付けていると、廊下の向こうから彼の兄弟刀である堀川国広が現れた。何事か山姥切が話しかけて、堀川が笑う。そしてそのまま並び立つようにどこかへ去って行った。

「くそっ!」

 全てが面白くなくて、長谷部は手を握り締める。いつもは何かあるとすぐ卑屈になって落ち込むくせに、時折わかったようにあんな生意気な口を叩く。

  歩き出そうとして足が進まず立ち止まる。うつむいて唇をかみしめた長谷部は意を決したように広間へと戻って行った。

 

 

 勢いよく障子が開けられて大広間で騒いでいた連中が一斉にそちらに目を向けた。

「おー、長谷部。こげん怖い顔しちょってどうしたんじゃ」

 盃を片手に顔を赤く染めた陸奥守が問いかけた。だがそれにこたえることなく、長谷部は足を踏みしめて奥へ、日本号のそばへと歩いていった。

 そこにいた次郎太刀の手から一升瓶を取り上げ、それを日本号の前に勢いよく置いた。転がっていたコップを手に取ると、それに酒をなみなみと注いで一気に飲み干した。

「いい呑みっぷりだねー。さすがこの本丸の酒豪!」

「ほお、お前さん程度が酒豪とはな」

「だまれ、今日は酒の実力で黙らせてやる」

 長谷部の酒に任せた威勢のいい啖呵に、日本号は面白いと舌で唇をなめた。

「そうじゃなきゃ面白くないよな。黒田家の家宝、へし切長谷部よ」

 互いに酒を注ぎ合い、一気に飲み干した。

 主演の片隅でこっそりのぞいていた短刀たちは飲み比べを始めた彼らを見て、ほっと溜息をついた。厚は腕を組んで満足げに幾度も頷いた。

「やっと来てくれたな。いやー、日本号が来てからずっと無視してたもんなあ。なかなか来なかったから捜索途中からものすごく怒ってたし。その反動で来たら来たで素直に喜べなくなってどうしようかと思ったぜ」

「長谷部はプライドが高いから、そう簡単に喜べないとは思ってたけど。歓迎会に来るなんて何があったのかな」

 突然の長谷部の参加に厚と小夜が不思議そうに顔を寄せ合って話し合っている。だが博多だけはそんな些細なこと気にするでもなく満面の笑顔でうれしそうだ。

「何があってもよかばい! 長谷部と日本号がああやって一緒に飲んでるだけでうれしかばい!」

「でもペース早すぎるぜ。この本丸の酒蔵が空になんなきゃいいけど」

「大丈夫ばい! 日本号の歓迎会のために大阪城の小判へそくりしとっと。使うべきところで使うのが博多商人ばい!」

「いや、博多。おまえ商人じゃなくて刀だから。だいたいへそくりってなんだ。主に小判全部引き渡してなかったのか!」

「へそくりはその辺に落ちていたものを拾ったばい! 宝箱じゃないから問題はなか!」

「・・・落し物を自分のものにするのはいけないんだけど」

 

 

 悩んだけどうちの黒田はこんな感じで!

 なかなか来なかった日本号との距離感に悩む長谷部ですが、酒を飲めばそんなの関係ないですよね!

 山姥切が少々ほかの刀に踏み込みすぎな気もしますが、長谷部とはずっと一緒に仕事してますし、多少は親近感というものが育ってるといいなという願望。でも喧嘩するときは本気だけど。

 なんにせよ、長谷部は面倒な性格していると思います。素直じゃない。

 

 

槍 日本号 二〇一七年一月十七日顕

 

 

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