ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

大阪城 ~黒田組~

「さあ待ちに待った大阪城ばい!」

 こぶしを振り上げて、隊長に任命された博多藤四郎は元気よく威勢を上げた。だがほかの面々はどこか冷めたような表情をしている。

 頭の後ろに両手を組んで厚藤四郎が呆れた声を出した。

「おまえ大阪城もう何回目だよ。いい加減飽きねえか?」

「なにいっとーと。大阪城といえば小判ばい! あの黄金の輝きがたくさん本丸に増えると。小判のためなら飽きるはずなか!」

「極になって帰ってきても変わらねえな、お前。いやもっとひどくなってるか?」

「僕たち刀の中でも唯一特殊能力を持っている博多さんですよ。しかも今回からはさらに小判発見能力が上昇したと喜んでいました」

 めったに感情を顔に表さない小夜左文字は眉すら少しも動かさずに淡々とした声音で厚に語りかけた。

「あー、大将がそんなこと言ってたっけな。いいよな、俺もなんか特殊能力欲しいぜ」

「僕は別にいいですけど。なんでそんなに欲しいと思うんですか?」

「だってカッコいいじゃねえか。敵を一撃必殺みたいな必殺技なんかがいいけどな」

「おまえたちにそんなものは必要ない」

 後ろから別の声がして彼らはそろって振り返った。背後にはいつの間にそこに来たのか相変わらず無愛想な表情を浮かべたへし切長谷部が腕を組んで立っていた。

 長谷部は抑揚を抑えた低い声で話を続ける。この黒田ゆかりの刀を集めた部隊の中でも厚に次いで古参の長谷部は冷徹に皆の特性を見極めていた。

「厚と小夜は我が本丸にいる極になった短刀の中でも練度が高い。刀ならば己の本分で勝負すべきだろう。小手先の技に頼らねば貴様らは勝てない敵でもいるのか?」

 手厳しい彼の言葉に厚がかすかに目の色を変えた。

「俺たちの強さを疑ってんのか。なんなら今ここで勝負してもいいんだぜ」

「つまらんな。俺は仲間内で争うつもりはない」

「へえ、そんなことよく言うよな。道場で一番真剣立合いしているくせにさ。俺が短刀だから相手しないとか言わないよな。俺はあんたに比べたら体格で負けるかもしれないけどさ、戦闘ならそんな不利を有利に変えてやるぜ」

 厚の手が腰に帯びている己の刀にのびる。だが長谷部は両腕を下に垂らしたまま、構える気配もない。ただ苛立つ厚を静かに眺めているだけだ。

 刀に触れようとする彼の手を横合いから誰かがつかんだ。

「厚さん、落ち着いてください。戦場で気が立っているのでしょうが、長谷部さんの言うとおり仲間内で争っている場合ではありません」

 真摯な目で小夜に引き止められて、軽く目を見開いた厚はきつくかみしめた口をわずかに開き、息をこぼした。だらりと力を抜いて腕を下に垂らす。

「すまねえな、小夜。お前の言うとおり俺もちょっと気が立ってたみたいだ。でも言われっぱなしってのもなあ」

「なにしとーと! さっさと大阪城ゆくばい!」

 さっさと先に進んでいた博多が自分たちに向かって早く来るように叫んでいる。

「なあ、長谷部。直接やりあうのがダメなら、決着はどちらが誉をとるかでどうだ?」

「いいだろう。戦場で俺は極の短刀に負ける気はないからな」

 

 

「おっしゃー、全弾命中!」

 銃の刀装の銃撃が目の前の敵を打ち抜いた。こぶしを握り締め厚が歓喜の叫びをあげた。

「甘いな。まだ敵が倒せてないぞ」

 長谷部の冷静な声が戒める。彼が軽く右手を上げると、両側に現れた投石の刀装が石を振り回し、高速で敵に投げつけた。石は狙いをあやまたずに敵の顔面を打ち抜き、そのまま倒れて動かなくなった。

「狙うというはこういうことだ」

「何言ってんだよ。俺たちが銃で最初に打ったから倒せたんだろ」

 厚が長谷部に文句を言っていると、その視界の隅でゆらりと倒れたはずの敵が動くのが見えた。

「まだ生きとると。遊んでる場合ではなか!」

 真っ先に飛び出したのは博多だ。両手で短刀の柄をきつく握り締めて、誰よりも速くためらいもなく敵の顔面へ迫った。

 小柄にもかからわず、見事な跳躍を見せると自分の倍はあろうかという敵と視線を合わせた。

 敵も黙ってはやられはしない。飛び込んできた博多めがけて空気を切り裂く轟音を立てて白刃が振り下ろされた。だがそれよりも本丸一の機動を誇る刀の動きは素早かった。

「それでは遅いと! 資本主義は勝ぁつ!」

 刃が宙に煌めいた。一瞬遅れて鮮血が当たりに飛び散る。軽やかに地面に舞い降りた博多は一刀のもとに敵の首を遠くへ跳ね飛ばしていた。

 そのあまりに素早く鮮やかな手際に襲い掛かろうとしていた敵の足が止まった。

 博多は敵が動かなくなったのをすばやく確認して長谷部たちの方へ振りむき、自信満々に親指を上に突き立てて片目をつぶった。

「僕たちも続かないと」

「ああ、俺たちのほうが博多よりも練度が高いんだ。負けちゃいられねえよな」

 厚と小夜は小さく頷きあうと、互いに別の方角へ駆け抜けて巨大な太刀の敵の懐へ身を潜らせた。

 敵は巨大がゆえに動きは鈍い。極の短刀の素早さに動きを追う目が追い付いていない。一瞬姿を見失った時、二振りの白刃が剣戟の残光を輝かせた。ゆらりと敵の巨体が左右に揺れてゆっくりと崩れ落ちる。

 刀を振り払って刃に残された血のりを振り払った小夜が感情のこもらぬ目でまだ立っている敵を見定めた。

「残るは一体」

「あとは任せたぜ、長谷部」

 にやりと笑って厚が刀を手に静かにたたずんでいる長谷部に向けてつぶやいた。

 残された敵は巨大な大太刀を振り上げて、立ち尽くす長谷部に向けて襲い掛かる。怒りか憎しみか、不気味に光る赤い目がさらに輝きを増す。

 目を閉じたまま長谷部は引き抜いた長身の刀を横に構えて上段に掲げた。敵が近づいてもそのまま微動だにしない。

「その程度の強さで俺に挑んでくるとはな」

  開かれた長谷部の眼に好戦的な光が宿る。腰を低くし、一歩足を前に出した。

 地面を思いっきり踏みしめて長谷部が動いた。襲い掛かってきた敵の胸元めがけて上段から全力で刀を振り下ろす。その一撃は鎧すらも打ち砕く。

 敵の動きが止まった。長谷部は刀の柄を握りなおして両の手で握りしめる。腰の位置から素早く一閃、今度は敵の胴を打ち払う。

「これで仕舞いだ」

 切っ先を敵の胸部に向けると容赦なく刀を突き立てた。雄叫びとともに敵は後ろに崩れ落ちた。

 敵に突き立てた刀の付け根から鈍い感触とともに生ぬるい血があふれ出る。しばらく痙攣していた敵は気づけばもう動かなくなっていた。

「ふん、たわいもない」

 刃を抜き去って軽く血のりを振り払うと鞘に収めた。

 敵を倒したのに面白くなさそうな顔を浮かべる長谷部に博多が笑顔を浮かべて近づいてきた。その眼は賞賛で宝石のように煌めいている。

「なんだ、博多」

 粟田口の刀だというのに、なぜか博多は長谷部の傍にいることが多い。本丸でも夜はさすがに粟田口の部屋に帰るとはいえ、それ以外はほとんど目の届く場所でくっついている。自分の何を気に入っているのか、当の長谷部ですらよくわからなかった。

「やっぱ長谷部は強かと」

 今回の誉は長谷部のようだ。彼が倒した敵は敵の部隊の大将だったらしい。だが博多の賞賛も彼は無表情のまま素直に受け取らなかった。

「俺などまだまだだ。それよりも先を急ぐぞ。今回は猶予の時間が短いからな」

「わかってると! さあペースば上げてがんがんいくばい!」

 

 

「よーし、これで40階は制覇っと」

「小判ぼっこばーい!」

 箱から黄金色の光をこぼす小判を前にして博多が両手を上げて歓喜の叫びをあげた。

「これだけあれば当分足りるんじゃないか?」

 何気なくつぶやいた厚にご機嫌だった博多の表情が一変する。眉間に思いきり皺を寄せて腰に腕を当てたままきつい目を向けて厚に詰め寄った。

「なにをいっとーと。年末年始の連隊戦と秘宝の里でどぎゃしこ小判がなくなりよったか忘れたんか。まだこれだけでは足らんけん」

「わかった、俺が悪かったって。だからそんなに本気で怒らないでくれよ」

 かみつかんばかりに迫った博多を両手を上げて押し返した。それを後ろで見ていた長谷部が両腕を組みながら重々しく頷く。

「博多の奴に小判の件で意見を言った厚が悪い」

「あの時は小判が湯水のようになくなっていって、博多さんが悲鳴を上げていましたからね」

「ああ、おかげ毎日あいつをなだめるのが大変だったな」

 小夜の言葉にその時の苦労を思い出したのか、額に手を当てて頬をひきつらせた。

 残りはあと10階、すさまじい速さで敵をなぎ倒してゆく長谷部たちは疲労の影を見せやしなかった。軽く腕を回して隊長の博多が声を上げる。

「さあ、次もいくばーい! 小判が俺を待っとるけん」

「ちょっと待て・・・少しは休ませてくれ」

 己の槍に身体を預け、引きずるようにして弱々しく声を上げたのは日本号だった。精悍な彼にふさわしくなく、面立ちは疲労のためかやつれている。

「ふん、この程度の敵でだらしがないな」

 腕を組んで不遜なまなざしで見下ろす長谷部に、彼はおもいっきり顔をしかめた。

「何言ってんだ。てめえとは練度が違いすぎるんだよ! ついこのあいだ来たばかりの奴にこんな過酷な行軍させるのかよ!」

「何を甘いことを言っているんだ。伊達の太鼓鐘は来て早々前回の大阪城で最下層まで駆け抜けたぞ。黒田の位持ちの槍ならばこの程度やすやすとできて当然だろう」

「昔はもう少し可愛げがあったんじゃねえか、長谷部よう」

「思い違いをするな。だいたい昔のことなど忘れたわ」

 冷たく突き放した長谷部を日本号は歯をきつくかみしめながら睨み付ける。

「そういえば日本号って攻撃してねえよな」

 二振りの言い合いを眺めていた厚がふと思い出したようにつぶやいた。それを聞いて小夜も小さく頷いた。

「僕たちの銃と長谷部さんの投石の刀装で敵の半分が倒しています。あとは機動の速い短刀の僕たちだけで十分ですから」

「だよなあ。戦っていると気分が高揚しているっていうのかなんでか疲れを感じないんだよな。俺たちは攻撃できないってあまりねえけど、攻撃できなかった場合ってどうなるんだ?」

「兄様の話ですと戦っていないのになぜか疲れがたまってくると言ってました」

「そうなのか? そういえばいち兄もそんなこと言ってたような。でも戦ってねえのに疲れるって不思議だよあ」

「日本号さんが憑かれているのもそのせいかもしれませんね。ここに来るまで一度も攻撃できていませんし。それと僕たちの部隊にはあと誰かいませんでしたか?」

「そういや小狐丸がいたはずだよな。どこに行ったんだ?」

 きょろきょろとあたりを探し始めた厚は日本号が何やら薄汚れた何かをつかんでいるのに気付く。

「俺はまだいいけどよ、こいつはどうなんだよ。俺よりも練度が低いうえに、機動だってそんなにないんだぜ。速すぎるお前らについていくので精一杯で力尽きちまったみたいだぞ」

 日本号に体を抱えらた小狐丸はうつむいたままピクリとも動かない。どうやら疲労で気を失っているらしい。

 無表情に動かぬ狐を見下ろしていた長谷部は重々しくつぶやいた。

「これでは自力では動けないな。しかたがない、一度本丸へ帰還するか。歌仙にでも頼んでこいつの好物の油揚げでも用意してやらないとな」

「ちょっと待て、俺と扱いが違いすぎるだろ。俺には酒を用意してくれねえのかよ」

「油揚げと酒とどっちが金がかかると思っているんだ。酒が飲みたければ働け。まあ、俺よりも先に攻撃できればの話だがな」

 意地悪げに微笑む長谷部に日本号の堪忍袋の緒が切れる。

「言ったな、その言葉覚えていやがれ。貴様よりも強くなった暁には浴びるほどの酒を用意してもらうからな!」

 

「素直じゃないよなあ、長谷部は。もっと言い方ってものがあるだろ」

「でもああやって喧嘩腰の時はすごく楽しそうですけど」

「それが相手に伝わればいいんだけどな。ま、日本号も本気で真に受けたりはしないだろ。俺たちより長谷部とは付き合い長いんだからな」

 やれやれと言った様子でため息をついた厚の背中に突然飛びかかった博多が泣きついた。

「そげなこつ言うてなかで。日本号に本気で酒ば飲まれたら本丸は破産ばい!」

 

 

 今回の大阪城は黒田組で編成してみました。

 極の短刀三振りと長谷部の遠戦攻撃が正確なのと速すぎるので、練度の低い日本号と小狐丸の出番が最後になるまでほとんどないという。おかげで最大の敵は疲労でした。

 最近は50階までしかないのでまたあの気の遠くなる大阪城100階マラソンが懐かしくなるなあ。

 

第10回大阪城探索(黒田組部隊+α) 

 隊長 博多藤四郎

    へし切長谷部

    厚藤四郎

    小夜左文字

    日本号

    小狐丸

    

 

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