ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

連隊戦 ~出陣~

 審神者の自室の奥にある襖を開く。いつもは閉ざされたままのその襖の先にあったのは薄暗い廊下。なぜか足下からほの白い明りの漏れる細い廊下を主は厳かな足取りで歩く。

 歩くたびに袴の衣擦れの音が聞こえる。

 行き止まりとなった壁には奇妙な紋が描かれている。文字をかたどった形のそれに主はためらいもなく触れた。

 ほのかな光を発して壁が消える。

 その先に現れたのは日本家屋の様式に基づいて建てられたこの本丸にふさわしくない、洗練された機械の巨大な装置が三方を囲むようにすえつけられていた。本丸の周りの様子をパネルのような半透明の画面が代わる代わる瞬きながら映し出している。

 その装置の前にしつらえられた椅子の上にちょこんと座るのはふわふわとした毛並みの狐だった。

「こんのすけ、ご苦労様」

 主はそばによるとにっこりと笑って声をかけた。

「これは主さま! お体の具合は大丈夫なのですか」

 狐は主の姿を認めると、素早く椅子から主の足下へ降り立った。狐が話したというよりも、たぶん話したい事柄が主の脳の中へ直接伝わるのだろう。狐の口は人のようには動かないのだから。

 心配そうに見上げるおつきの狐は主が審神者となった時に右も左もわからないところをサポートをしてくれた。

「大丈夫だよ。それに今日からは私は彼らの出陣中ここにいないといけないだろう?」

「そうではありますが・・・」

「私の事は気にしなくて大丈夫。あと、外の様子はなにもないかな」

「はい、おとなしいものです。時間遡行軍の新たな動きも見受けられません」

「ならばこちらも集中できるね」

 大きくうつされた画面の向こうには転送装置である鳥居の前に集まった刀たちがいる。出陣を命じられたもの以外も集まっているようだ。これから行く戦場の困難さを感じ取っているのか、皆一様に張りつめた表情をしているのがわかる。

「・・・もう戦わなくてもいいなんて言えば、彼らの存在理由を否定してしまうだろうな。たぶん私がここにいる理由も」

「何か言いましたか、主さま」

 こんのすけには聞こえなかったらしい。主は何もなかったかのような笑顔を浮かべて振り返った。

「いや。そういえばこんのすけ、先ほど鳴狐たちが油揚げを甘辛く煮こんでいたものを作っていたよ。こんのすけの分もあるそうだから、あとで厨に行ってみよう」

「おお、それはうれしいです!」

 

 

「国広や、今回は俺も出陣だそうだ。当然、同じ部隊だろうな?」

 手元の書面に集中していて接近に気付かなかった山姥切は心底嫌そうな顔で隣にひょっこり現れた三日月を睨んだ。

 さすがにここまで近寄られてはもう逃げるわけにはいかない。寄ってくるのをじりじりと後ずさりながら避けつつ、冷たく言い放った。

「そんなわけあるか。俺は第一部隊、あんたは第二部隊だ」

「あなや。今から俺を第一部隊に入れてもらうことはできぬか?」

「できるか! だいたい第一部隊は極の短剣を中心に編成された夜戦専門部隊だ。あんたは太刀だから夜は目が見えないだろう。足手まといになるだけだ」

「む、そこまで言うことはないではないか。じじいは哀しいぞ」

 袂の袖で顔を隠して嘆くそぶりをする三日月を見ながら、呆れたようにため息をついた。意を決したようにグイッと自分の顔を三日月の目の前すぐそばに寄せた。

「俺たちの役目はあんたたち部隊の露払いだ。俺は第一部隊隊長として次の部隊の隊長であるあんたに必ずつなぐ。天下五剣が一振り、三日月宗近。あんたなら、次を任せられるからな」

 長い前髪から双眸がまっすぐ射抜くように三日月を見上げる。宝玉の翡翠を思わせるその色合いは見たものを深く引き込ませるかのよう。

 三日月はしばしその眼の強さに見とれ、しばし我を忘れかけた。

 だが山姥切のほうはその隙に布を引き下げて顔を隠すと、三日月にこれ以上邪魔をされぬうちにとさっさと第一部隊の者たちの元へと行ってしまった。

 我に返った三日月がそのあとをあわてて追おうとしたが、第二部隊の者たちにこれから作戦会議だと捕獲されてどこかへ引きずって連れ去られて行った。

「まったく、油断も隙もあったもんじゃないよね」

 植え込みの陰から様子を窺っていた堀川が自身の本体を手ににっこりと笑った。手元の鞘からほんの少しのぞいた刀身が陽光にきらりと煌めく。

「こえーよ、おまえ。まずは刀を鞘にしまおうぜ、な?」

 背後から堀川の肩に軽く手を乗せて疲れた様子で和泉守がたしなめた。

 突然、本丸内に清らかな音が響き渡る。出陣を告げる鈴の音。

『これより戦場への門が開かれます。皆の者、準備はいいでしょうか?』

 どこからか審神者の声が聞こえた。刀たちの顔つきが一斉に変わる。

 目の前の鳥居の間に囲まれた空間が揺らぎ歪む。この本丸との境目が虚ろとなり、新たなる道が開かれてゆく。

『まずは第一部隊、出撃せよ』

 白い布が宙に翻る。その背に従うように短刀たちがついてゆく。

 新たな戦が始まろうとしている。鳥居の中へ彼らの姿が消えた。

 空間を捻じ曲げられて繋げられたその先で、見知らぬ敵が彼らを待ち受けていた。初めて出会うはずなのに、言い知れぬ殺気をこちらに向けている。

 ゆっくりと鞘から刀を引き抜き、気迫を込めて刀を構える。どこからか主の声が聞こえた気がした。

 ――――連隊戦、開始。

 

 

 今年最後のイベント連隊戦始まりました。

 刀全部とれるかな。頑張りましょう。

 公開された大包平、予想外のカッコよさと声で盛り上がってるなあ。

 今回は極の短刀たちが活躍しそうなので太刀勢はお休みかなあ。

 まんばちゃんは三日月苦手だけど、実力は認めているのでしょうな。

 普段はぐだぐだ言ってますが、戦を前に戦意が高揚しているので結構強気です。

 

 第二回連隊戦 二〇一六年十二月二十日 出陣

 

                = TOP =