ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

連隊戦 ~部隊交代~

 朱き鳥居の中に一歩足を踏み入れる。

 その境目を越えるその瞬間、ざわりと体の感覚が変化した気がした。

 ここであって、ここでない。

 刀に与えられた器もまた生まれ落ちたときに与えられた本性に変性する。殺める刃を封じる鞘から解き放たれたかのごとく。

 ちらりと後ろを振り返ってみたが、一歩踏み入れただけのはずなのに鳥居の囲いの中にはもう本丸の景色を見せてはくれなかった。

 おぼろげな淡い膜がそこに揺らめいているのみ。

 前を向いた三日月は長い睫の下に隠された月の瞳をすがめた。

 横に居並ぶ第二部隊の面々も緊張した面持ちを隠さない。

 ここは現世との狭間。先行する第一部隊が現れねば彼らはこの先には行けない。じっとここで待つしかないのだ。

 ただ遅い。いつもより彼らが帰って来るのが。

 じりじりと時ばかりが過ぎてゆく。

 弟が第一部隊にいる一期一振などはかろうじて残された理性で自分を抑えつけているようだ。軽く歯を噛みしめ、気を抜けば飛び出そうとする身体を戒めている。だがその心はすでにこの先の戦場へ行っているだろう。

 濃くどこまでも深い霧の向こうで、何者かのおぼろな黒い影が現れた。

 聞き覚えのある大きな声が彼らの耳に響いて届く。

「いち兄!」

 粟田口の脇差がまず霧の中より飛び出してきた。手足にいくつもの切り傷を負いながらも束ねた黒い髪をなびかせて兄の元へ駆け寄った。

「鯰尾、怪我を・・・!」

「俺は平気。でも敵がすぐそばに、早く!」

 ぽんと軽く頭に手を乗せて一期がやさしげな顔で微笑んだ。

「わかりました。後はこの兄に任せなさい」

 脇差の弟と手と手を高く鳴り合わせた。三日月の傍をすれ違うように先陣を切った一期がおぼろに揺らいだ霧の中へ入ってゆく。

 待っていた他の者達も、鯰尾のあとから来た第一部隊の者達と手を交わしあい、交代して後を追っていった。

 各々に傷を負った第一部隊の刀たちはきっと大丈夫という確信のまなざしをこめてその背中を見送りながら、鳥居の境を越えて本丸へと帰って行く。

 だがあと一人、三日月と交代すべき者がいまだ現れなかった。柄に手をかけたまま、その眼はただ霧がかかる向こうを見つめるしかない。

「隊長は自らしんがりを務めています。僕らが先に行けるように」

 足下から声がした。その方を見下ろせば、青色のくせのある髪を結わいた小さな短刀の子供がじっと大事なことを伝えようと三日月を見上げている。

 交代をした後、すぐ立ち去ることなく、第二部隊の隊長である彼に伝えたいことがあると立ち止まったようだ。

 すべてを見てきた落ち着いたまなざしは確固たる信念を持っているのか迷いはない。

「あなたたちがいるから大丈夫だ。そう言っていました。・・・僕も隊長の言葉を信じています。あの人は、嘘は言わないから」

 そう言い残して左文字の流れをくむ短刀は鳥居の中へ消えていった。

 三日月は小さなその背を見送り、再び前へと目を向ける。

 霧はどこまでも深く、先に行った第二部隊の者たちももう姿が見えない。

 黄金の気配が目先をかすめた。閉じかけた瞼をおもむろに開き、前を見つめる。

 そこにはやっと待ち望んだ者の姿が現れた。

 その身をいつも隠すようにまとう白い布が赤く染まっている。敵の血で汚れたむき出しの刀を右手に握り、反対の手は傷を負ったのかかばうように肩口を抑えていた。

 荒く息を吐くごとに胸を上下させ、ゆっくりとこちらに歩いてくる。普段は決して見せようとはしない彼の金の髪が揺れた。

 三日月はその場から一歩も動くことなく、ただ彼を見つめて目を細めた。

「いつも顔を隠している布が外れておるな。そこまで追い詰められたのか」

 うつむいていたその顔がゆっくりと持ち上げられあらわになる。自嘲するように皮肉げな笑みを浮かべている。

「笑いたければ笑えばいい。写しの俺が行った采配が誤ったと、だからこそこのような無様な姿になったと言えばいいだろ」

「誰もそのようなことは思ってはおらぬよ、国広」

 ゆらりとたもとが風もなく揺らめいて、三日月は山姥切に近づく。こちらを警戒しているのか睨み付けながらも、三日月が近づいたことに肩を跳ね上げ顔をこわばらせた。

 見上げたその眼がかすかなおびえに揺れるのが見えた。彼の眼に宿った感情を読み取った三日月はひとつため息をついて静かに語る。

「そなたはともに戦う仲間のために己の身を盾にしながら戦ったのだろう? そなたが口にせぬともそれは伝わっているのではないか。現世の事にうといこの俺ですら気づくほどに」

「みか・・・づき・・・?」

 山姥切は手にした刀で崩れ落ちそうになる体を支えた。だがもうその手にも力が入っていない。極度の疲労でもう身体的にも精神的にも限界が来ているのだ。

 その傍らを三日月は己の本体の柄に手をかけながらすれ違う。もうその眼は彼を見ない。ただ前だけを見据えている。

「そこより除け。山姥切国広。これより先は我らが役目よ」

 三日月の打除けが刻まれた美しき太刀をすらりと引き抜く。背後で崩れ落ちながら彼の気配が消えてゆくのを感じ、静かに面を伏せた。

「そなたはよう戦った。だから今はこの俺に任せて眠るがいい」

 辺りの気配が変わってゆく。あれほどまでに深く立ち込めていた霧が霧散し、現れたのは現実には存在しうるかわからぬ古き街並み。

 偽りの場所に偽りの歴史、誰かに作られたその場所を守るかのように威嚇する敵。

 目の前に並ぶように対峙する仲間の刀たちに向かって、三日月はゆっくりと歩を進める。すらりとした刀身を構え、口元は妖しく笑む。

「やるか」

 

 

 連隊戦の交代のイメージから。

 先に行った部隊が帰ってくるのを待って交代するのもいいかもしれないと。

 実際には飛び込んでいくような感じかなあ。

 隊長同士の交代はこうやって言葉を交わしていると妄想。

 でもゲームで最後のボスは極短刀部隊がさくっととどめを刺してます。夜&室内なんて太刀連中では絶対に無理。

 

2016年第二回連隊戦布陣

 第一陣 第一部隊 隊長 山姥切国広

             鯰尾藤四郎

             愛染国俊

             今剣

             へし切長谷部

             小夜左文字

 第二陣 第二部隊 隊長 三日月宗近

             一期一振

             蛍丸

             燭台切光忠

             御手杵

             蜻蛉切

 第三陣 第三部隊 隊長 厚藤四郎

             薬研藤四郎

             五虎退

             にっかり青江

             骨喰藤四郎

             不動国光

             

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