ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

連隊戦 ~休息~

 

 連隊戦で本丸が活気づく中、本丸の厨房はいつにない緊張感に満ちていた。

 その渦の中央となっているのはこの厨房を任されている刀の一人、歌仙兼定。彼が厨房の責を担っている時、誰一人逆らうことは許されない。

 袂をひもで丁寧にまとめた姿で、今も厨房の手伝い人員を指揮して迫りくる食事の準備に奮闘していた。彼の目の前には大鍋で煮こまれる煮物やら、油で揚げねばならない揚げ物のタネやらが並んでいた。

「くっ、燭台切が厨房にいないとこんなにまで忙しくなるとは。しかも出陣続きで皆が食べる量もかなり増えている。ああ、また量を米の量を増やさないと足りないだろうか。そちらの方はもう終わったかい、和泉守!」

 後ろで皮むきをしていた和泉守が自信ありげに剥いたじゃがいもの山を指さした。

「どうよ。全部やったぜ」

 歌仙は籠に山積みされた芋を一つ手に取って思いっきり顔をしかめた。

「なんだい、この芋は。これは本来このように四角い芋ではないはずだろう。どういうむき方をすればこんなに四角くなるんだい」

 見事に真四角に角ばった芋を手にして和泉守に詰め寄る。だが言われた方も黙ってはいない。

「なんだよ、之定。人手が足りないから手伝えって言ったのおめえの方だろ! 俺だって言われたことをちゃんとやったんだ。少しは誉めてくれたっていいだろう!」

「僕は皮を剥いてくれとは言ったが、四角くしろとまでは言っていない!」

 言い合う同派の二人をよそに、寡黙な大倶利伽羅はもくもくと器用に任された野菜の皮をむいていた。薄く丁寧に剥かれてゆく皮は途切れることなく下に落ちてゆく。

 怒られて頬を膨らませた和泉守はふんとそっぽを向いた。

「へん、俺は刀なんでね。こんなちまっこいこと性に合わねえんだ」

「何を言っているんだ、これを見なさい。お前と同じ刀種の大倶利伽羅はこんなにも綺麗に剥けるんだよ。野菜の皮剥きに刀がどうこうと言う理屈は通用しない! 彼を見習え!」

「・・・俺を巻き込むな」

 兼定二人の争いに図らずも巻き込まれた形となった大倶利伽羅は渋い顔をさらにしかめてつぶやいた。

 四角くなってしまった芋は他の料理に使うしかないいけないなと、歌仙が献立の変更を考えている時、視界の端にぼろきれのような白い布まんじゅうのようなものがよぎった。目立つ姿をしているのに巧妙に彼らから隠れながら厨房のすみでこそこそと何か不審な動きを見せている。

 台所に忍び込んだ不審者を見つけて顔をしかめた歌仙は振り向きざま思いっきり怒鳴った。

「山姥切国広! また君は高い隠蔽の能力を使って厨房にこっそり入り込んで。それはやめろと何度言えば分るんだ!」

「・・・歌仙」

 見つかったと顔をひきつらせた山姥切はおひつの前で米を山盛りに盛った茶碗を手にしたまま固まっていた。

 歌仙はずかずかと近寄ると、険しい顔をして詰め寄った。

「いいかい、ここは皆の食事を作る厨房だ。料理を作るには衛生を保つことが何よりも大事なんだよ。だからこそ、出陣した戦装束のままここに入るなと、何度言えば分るんだ君は。特にその布、そこまで汚しておいてよくそのままで平気だね? それと君はそれだけで食事をすます気かい?」

 顔は笑っているのに目は全く笑っていない。あまりの迫力にぐっと詰まって山姥切はあとさずる。

「僕はね、君がいつもいつも白米をこっそり食べるのをやめろと怒っているわけではないよ。出陣後にお腹がすくのは人の身を得た以上しかたないからね。ただ栄養のことも何も考えずに、ただ腹がたまればいいと米だけ食べようとする君の姿勢を怒っているんだよ。わかるかい?」

「別に空腹が満たされればそれでいいだろ。米を食べていれば戦いでも動ける・・・」

「だからその考えを改めろと言っているんだよ、僕は!」

「そうだよ、兄弟。歌仙さんのいうことはちゃんと聞こうね」

 手に洗い立ての衣類を持って厨房の戸口からひょっこり堀川が顔を出した。屈託のない笑顔で手にしたそれをずいっと突き出す。

「着替えを持ってきたからこれ着てから食べてね」

「どうせまた出陣するんだ。別に俺は汚れたままで・・・」

 ―――ダァァァン!

 木の上で硬いものをを叩き切ったものすごい音が厨房中に響き渡った。厨房にいたすべての人間が手を止めて、顔をこわばらせてそちらの方を見た。

 大きな菜切り包丁を手に、歌仙が巨大なかぼちゃを一撃のもとに叩き切ったらしい。まな板の上には切り口の見事なかぼちゃがぱっくりと割れて転がっていた。

 簡単には割れない固いかぼちゃを一撃の下で叩き切るその技にそこにいた者たちは声もなく震えあがる。

 肩を下げて小さく息を吐いた歌仙は額をぬぐった。

「すまない、僕にはたまに物理に訴える悪癖があってね」

 少しもすまなそうではない顔をして歌仙は微笑んだ。

 はたから見ていた和泉守が青ざめた顔で、たまにじゃねえだろと心の中で突っ込んだ。だが口に出せば今度はこちらに矛先が向きかねないので、言葉にはしないくらいは学習していた。

 じりじりと後退して逃げようとした山姥切の背を誰かが両手で押さえた。振り向けばそこには同じく最高の微笑みで待ち受ける堀川がいた。

「どこいくの、兄弟」

 穏やかな声の底にひやりとした響きがこもる。さりげなく手を背に添えていても、逃がす気はまったくないらしい。

「この本丸で最初に練度が最高値に到達したのが君だとしても、この僕と堀川君がつい最近君に練度が追いついたのを忘れてはいないよね」

 歌仙がひたりと目を合わせながら間合いを詰め寄らせてくる。

「打刀のこの僕と脇差の彼にはさまれて、君は逃げ切れると思っているのかな?」

 バキッと組み合わされた歌仙の指が鳴った。

 


「歌仙さーん、忙しいところすみません。ちょっと厨房を貸していただけませんか?」

 にぎやかな声に歌仙が振り返る。

「おや、粟田口の短刀がおそろいで、どうしたんだい?」

「はい、皆さんが出陣で大変だと思うので、残っている短刀で陣中見舞いを作って差し入れしようって相談していたんです。僕たちが後片付けまで全部やるので、お願いします!」

 握り拳を作って懸命に訴える秋田たちに、手を拭きながら歌仙は苦笑する。

「構わないよ。君たちならしっかりしているし。・・・それで、何を作るんだい?」

「はい、これです!」

 差し出された本には色とりどりのおにぎりの図柄がたくさん描かれた本だった。

「おにぎりの本かい? それにしてはずいぶんかわいらしいな。ふうん、色は野菜から色素を抽出して着色するのか。なるほどね」

「あ、このままじゃないんですよ。どんなおにぎりにするかは僕たちで絵を考えたんです」

「デザインは僕が考えたんだよ。ほら、みんなかわいいでしょ!」

 乱が後ろから取り出した紙にはなるほどよく特徴の捉えられた丸い似顔絵が描かれている。これをおにぎりにするのか。

「これだったらみなさん喜んでくれますよね」

 クスクス笑いながら楽しそうに話す短刀たちに、歌仙の顔もほぐれていく。

「足りないものがあったら言ってくれ。ご飯はさっき間食用に炊いたばかりのがあるから全部使っても構わないよ」

「はい、ありがとうございます!」

 ぺこりと頭を下げて、準備をしようと厨房内を各々散った時、ご飯を取りに行った前田がそこに漂う陰鬱な気配に気づいてびくっと肩を震わせた。

 見覚えのある白い布の塊が厨房の隅のテーブルに座ってもくもくと食事をしている。台の上にはちゃんと御飯のほかに野菜の入った炒め物らしきものと小鉢、汁物もちゃんとあった。

「や、山姥切さん。どうしたんですか?」

 食事をしているにはあまりに暗い雰囲気を漂わせる彼に前田はおそるおそる声をかけた。そういえばかぶっている布が珍しく洗いたてのように真っ白にきれいだったのに気付く。

 ジャージ姿の彼はひっそりと動かしていた箸を止めてポツリとつぶやいた。

「歌仙と堀川に負けた。名だたる名刀を相手にすればどうせ写しの俺なんて・・・」
 
 


「差し入れです。どうぞ!」

 先ほど出陣から帰って来たばかりの第二部隊は、次の出陣待ちのために縁側で戦装束を解かぬまましばし休息をしていた。そこへ大きな重箱を下げた短刀たちが差し入れを持ってきたのだ。

「ありがとう、ありがたくいただきますね」

 そう言ってにっこり笑いながら一期がそれを受け取る。

「へえ、何が入っているんだい」

 皆が覗き込むようにふたを開ける。重箱の中には第二部隊の者たちの顔が様々な食材で描かれたおにぎりが詰められていた。

「これはキャラ弁ならぬキャラおにぎりというところかな。僕たちみんなの顔がデザインされているね。よく似ているよ」

 新しい知識の取り込みには積極的な燭台切光忠が短刀たちをほめた。

「おお、俺がおるぞ」

 目を輝かせて三日月が自分の顔を模したおにぎりを手に取った。そのまましげしげと珍しそうに眺めていた。

「第二部隊の者すべてそろっておりますな」

「すっごいな!」

 槍の二人も揃って感嘆の声を上げる。

 みんなの反応がうれしいのか、少し頬を紅潮させて前田が代表して言葉を述べた。

「僕たちまだ練度が足りなくて出撃できないから、せめてみなさんが喜んでくれそうなことをしたくて。だからぜひ食べてください!」

 だが一期は弟たちが作ってくれたおにぎりを手にしたまま、感激のあまり打ち震えていた。

「くっ、弟たちが丹精を込めて作ってくれたこのおにぎり。食べてしまうのはあまりにもったいなくて・・・」

「なーにいってんだよ。所詮おにぎりなんだから食べちまった方がいいだろ」

 大口を開けて御手杵が一口でおにぎりを頬張って食べてしまった。愛でる間もないあまりの行為に一期が非難の声を上げる。

「お、御手杵殿! もうすこし味わってもいいのではないのですか!」

「えー、腹が減ってんだよ。仕方ないじゃん。なー、食べないならあんたのもらってもいいか?」

「それだけは絶対に駄目です! 弟たちが心を込めて作ってくれた私のおにぎりは私がいただきます!」

 

 

 鳥居の空間が歪んで、先ほど飛び込んだ第三部隊が帰ってきた。

 うつむきながらとぼとぼと歩く不動国光の背中を励ますように思いっきり薬研が叩いた。

「いつまで落ち込んでんだよ、ゆき!」

「だって短刀の中で俺だけ一撃で敵を倒せなかったんだぜ。無理やりだけど隊長にさせられているのに。どうせおれはダメ刀だよ」

 さらに俯く不動をキョトンとした顔で薬研は見つめた。肩当てに付けられた白くて長い布がさらりとそよいだ風に揺れる。

「当たり前だろ、そんなこと」

「あ?!」

 がんを飛ばしながら不動は薬研を睨みつけようと顔を上げた。だがそこにある彼の顔はさも当然と言わんばかりに落ち着いていた。

「だってゆきはまだ極になってないんだぜ。それでも俺たち極になった短刀と一緒に出陣して、ボスクラスの敵に負けずに戦えているだけでもすごいことだろ。分かんねえのか?」

 一瞬間を置いて、自分が誉められていることにやっと気づいた不動は顔を真っ赤にして口をパクパクさせた。

「な、なにいってんだよ、薬研! 俺はダメ刀っていってんだろ、誉めるな!」

「はいはい。照れんなよ、ゆきちゃん」

 ぐりぐりと薬研に頭を乱暴に撫でられて、さらに不動は真っ赤になる。

「ゆきちゃんって呼ぶなって言ってんだろ!」

 本丸の方から彼らを呼ぶ声が届いた。縁側に集っている刀たちの中で、小さい秋田が大きく手を振っている。

「薬研兄さん! 差し入れありますから食べてくださいー!」

 

 

 連隊戦の合間の休息時間。一人どうも休息していないお方がいらっしゃいますが。

 まんばちゃんの出陣後の盗み食いはいつものこと。歌仙とのし烈な戦いがいつものように繰り広げられます。歌仙はどんな時でも栄養と彩りを考えてますから、白米だけっていうのは雅じゃないから許せない。

 カンスト勢が増えているから話し合いでどうにもならないと物理に訴えるの増えてきて困る。

 不動も早く極になれるといいですけど。イベント始まって、極修行はとまっちゃったなあ。彼のフォローはいつも同じ織田組の薬研がしています。

 ちなみにおにぎり部隊は秋田、前田、乱が中心です。平野君はもうすぐ修行から帰ってくる予定。

 

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