ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

聖夜 ~贈り物~

「で、みんな集めて何の話だ?」

 片膝を立てて豪快に座る薬研が粟田口の部屋に集まる短刀たちを見回して尋ねた。大きく欠伸した彼はまた昨夜の織田の集まりに遅くまで参加していたらしい。

 いまだ残る酒に眠そうな目をこすりながら、真っ先に勢いよく手を上げた乱に話をするよう促した。

「ほら、もうすぐあれがあるでしょ。クリスマス」

「もうプレゼントのリクエストは主に伝えたはずじゃねえか。当日の宴会は燭台切の旦那が去年以上の料理を作るって張り切ってるみたいだし、他に何かあるのか?」

 乱に言われて薬研はそういえばそんなことがあるなと思い出した。たしか去年はささやかながら主から贈り物をもらって、燭台切が気合を入れて作った西洋の料理が食卓に並んでいた気がする。

 短刀の小さい子たちは華やかな行事に喜んでいたし、出陣のせわしないこの時期に昨年いなくて体験していない子もいるしひと時の休息をということで今年もやることに決まっている。

「そう、そのプレゼントだよ。僕たち何か忘れてない?」

 ずいっと身体を乗り出すように乱が薬研に詰め寄った。

「・・・何かあったか?」

「もー、薬研はそういうとこ抜けているんだから。クリスマスはサンタっていうひげのおじさんがプレゼントを子供にプレゼントを配る日だよ。うちの本丸の主さん、いくつに見える?」

「年はわからねえって言ってるが、そうだなあ、だいたい人間でいうと13、4才ぐらいか?」

 主の口調はどこか大人びているが、見た目からし審神者としては若すぎるほうだ。審神者の集まりに行くと、小さい体つきとその幼顔に必ずといっていいほど浮く。

「そう! だから主さんは僕たちに配るんじゃなくてもらう方でしょ!」

「僕たちいつも主様からいろいろなものをもらっているじゃないですか。去年は僕たちもどんな風習かよく知らなくて贈り物することができなかったけど、今年はって思っているんです」

 大きな虎の傍で五虎退が小さな声を少し振り絞りながらいった。

「大将に贈り物をねえ・・・」

 顎に手を当てて薬研は考えた。あの無欲そうな主が喜ぶものってなんだ? いつも欠かさない菓子では主が自分で大量に買っているだろうし。

「去年のあの時、初めて主から贈り物をもらったんだよな。刀全員に手袋。本丸の資金にあまり余裕がないから大したものはあげられないけれどって言ってたけど」

「そうです。みんなに合わせて主が探してくれたんですよね。僕たち粟田口は同じ形で色違いの毛糸でできた手袋でした。雪の日でもこれをしているととても温かいんですよ」

「なんだよそれ。俺、去年居なかったらもらってねえよ!」

 厚と秋田の会話に、慌てて後藤が割り込む。そういえばこいつはこの間やっと大阪城で迷子になっていたところを確保されて来たばかりだったな。

「大丈夫ですよ。新しく来た短刀たちには今年のプレゼントとは別にちゃんとみんなと同じ手袋をくれるみたいです。主様がおっしゃっていました。よかったですね、後藤」

「本当か、そっか・・・」

「じゃあ俺のもあるんだ、やったー!」

 昨年いなかった後藤と信濃と包丁が手を取り合って喜んでいる。やはり皆が主からの贈り物を持っていて自分だけないのは嫌なのだろう。

「・・・相変わらず短刀には甘いなあ、うちの大将は」

「僕たちにこれだけしてくれるんだよ。しかも今年は資金に余裕ができたからって、みんなの好きな物をくれることになったでしょ。だったら僕たちも主さんにあげなきゃダメじゃないの?」

「だったらそれぞれが大将に好きな物をあげりゃいいだけの話じゃねえのか? その方が数もたくさんになるだろ」

「んー、それでもいいんだけど。それだとなんかバラバラじゃない? みんなの中にはきっと的外れなものをあげそうな刀もいるし」

「それはわかる、あきらかに自分の個人的趣味なものをあげて大将が絶対使わなそうなのとかな。なら乱はどうしたいんだ」

「ほら、僕たち修行に出てた時、主さんに毎日手紙をあげたじゃない? その手紙を主さんとてもうれしそうに見てたんだよ。だからみんなで主さんへの気持ちを言葉にしてあげたらどうかなって」

「手紙だけか? それだとなんかひねりがねえっていうか」

「だから調べたんだけどこんなのどうかなって。もちろんみんなからもらうつもり」

 各刀派へ支給されているタブレットで調べたその画像を皆に見せる。乱いわく、メッセージボードというものらしい。小さな模様をした紙片に相手へのメッセージが集められて一枚の紙に綺麗に張られている。

「つまりこれって大将へのみんなからの伝言板ってこと?」

伝言板っておまえ、そうじゃなくて普段言えないことを紙に書いて伝えるってことだろうな、信濃。物だけじゃなくて言葉でか、考えはいいがこれをここの刀全部から集める気か?」

「とうぜん」

「結構難しいぜ。普段から主へ素直に言えない奴らがいるからな。紙を渡して書けって言ってもやってくれるかどうかわからないぞ」

「それは交渉役の腕次第かな。そっちは任せて、うまくやるから」

 乱は自分からまとめ役を買って出た。やる気は本気だ。確かに高価な品物をあげるよりもこの方があの主は喜ぶかもしれない。

 袖を引かれて薬研は後ろを振り向いた。五虎退と秋田がすこし心配そうな目で見上げていた。

「なんだ」

「あのですね、僕たちそれともう一つ主さんに贈りたいものがありまして」

「主は僕たちに手袋をくれたじゃないですか。あれって僕たちが初めて雪のなか外で内番していたのを見てとても寒そうだからあげようって決めたそうなんです。ほら、僕たち刀の時は雪があんなにも冷たいものだとは知らなくて、身体を得て初めて素手で触ってたら真っ赤になっちゃったんですよ。だから温かいものがあればってくれたそうなんです」

「だから僕たちも主さんにみんなからって温かい何かを送りたいんです」

「何にするんだ?」

「はい、主は普段は着物のことが多いから、綿入りのもこもこの温かい半纏なんかどうかなって。僕たちが生地を選んで、裁縫はもう上手な人に頼んであるんです。いいですか?」

「いいんじゃねえか、気持ちがこもってるってわかるはずだ」

 立ち上がった薬研が皆を見回して宣言した。

「では、みんな主へのプレゼント作戦、開始だぜ!」

 


「主の普段の装いに相応しい生地ならこういうものはどうだろう」

 歌仙は畳の上にいくつもの反物を広げた。藍や濃紺など青い色味で濃い風合いの生地だ。

 目を輝かせながら秋田と五虎退はその鮮やかな生地を見比べている。

「主は青味のある淡い色合いの着物を着ていることが多いからね。だったらこのあたりがどの着物を着ていてもなじむのではないかな」

「さすが歌仙さんですね。とてもいいと思います!」

「作るのは半纏だというから採寸はなくてもいいとして、仕立てるのは誰がやるんだい?」

「堀川さんが衣服を繕うのがとても上手なので、教えてもらいながら僕たちが作ろうと思いまして」

「そうだね、彼に任せれば安心だろう。君たちも真面目で手先が器用だし。多少不恰好になったとしてもそれは趣があると思うね」

 歌仙は先ほど二人から渡された薄紅色の紙片を手に取り眺めた。

「僕もこれに主への雅な歌でも詠おうかな」

 


「主へのメッセージ?」

 書き物をしていた筆をおいて、長谷部は乱たちに向き直った。

「そう、今この本丸のみんなから集めているの」

「だから長谷部さんもお願いします」

 前田が頭を下げながら薄紅色の紙片を差し出す。

 渡されたそれを裏表に返して探るように眺めてから、彼は再び二人に向き直った。

「この小さな紙に書くのか? 俺の主への想いは到底この紙に書ききれんのだが。せめて紙一帖は・・・いや巻物にしてかなり長くしないと足りないのな・・・」

 長谷部は本気でどうしたものかと考え込んでいる。

 口の端をひきつらせた乱は言いたいことを全てこらえて、何とか笑顔を浮かべた。

「それは個人的に手紙で渡してよ! これはみんな同じ紙に書いてもらってるの。絶対に入るように書いてね!」

 


「えーと、伊達組は渡した。三条は今剣に任せたし、左文字は小夜が、他の奴らもみんな行ったから・・・あとは」

「残っているだろう、面倒なのが」

 指を数えて確認していた厚を胡乱な眼で薬研がねめつけた。

「ん? あと誰かいたか」

 ぽかんとした顔でこちらを見てくるので、確認に忙しくて自分の担当を忘れていたらしい。薬研は呆れて深くため息をついた。

「厚、おまえがここで一番付き合い長いくせに忘れるなよ。山姥切の旦那だ。こういうことをすると一番いやがるじゃねえか。しかも今回の相手は主だぜ」

「あー、そういえば俺に任されてたな。たしかに他の短刀じゃあうまく話せないもんな、向こうが。で、なんでお前も一緒なんだ?」

 厚は初鍛刀されて本丸に顕現した刀だ。だからこそ最初から共に戦ってきているから相手のこともわかっている。あのいろいろとこじらせている初期刀相手にも厚の竹を割ったきっぱりとした性格ならば、上手く距離を取りながら気兼ねなく接することができた。それは他の短刀ではまず無理だ。

 なのにそれをいまだによくわかっていない厚が不思議そうに薬研を見返した。薬研は肩をすくめて両手をお手上げという感じで上に上げた。

「俺が一番ガキっぽく見えない短刀だからだろ? たしかに旦那はオレッちのことを子どものようには見てねえもんな」

 確かにお前はよく織田の刀と飲んでるしなあ、と軽やかに笑いながら厚は薬研と共に探しに行った。いつもなら近侍の部屋か主の部屋かそのあたりにいるはずだが、どうも姿が見えない。

「さて、どこへ行ったか」

 縁側から探るようにあたりを見まわしていると、遠く本丸の庭の片隅の植木の向こうに枝葉の影に隠れながら、白い影がかすかに動くのが見えた。

 短刀の眼の良さは他の刀の比ではない。極修行でさらに高まった偵察力でそれが誰だかすぐ察知した。

「あんなとこで何してんだ?」

「さあ?」

 厚たちが足音を忍ばせて近づくと、樹の陰に布をかぶってしゃがんで隠れいている山姥切の肩にぽんと厚が軽く手を置いた。

「うわっ! ・・・なんだ、厚と薬研か。驚かすな」

 近づいてくるのに気づかなかったのか、明らかに肩が驚きで浮き上がった。

 山姥切が振り向いて彼らだと分かった瞬間に、責める言葉とは裏腹にわずかにほっとしたような表情を浮かべたのは気のせいか。

「それはこっちのセリフだ、旦那。なんでこんなところで隠れているんだ」

「・・・別に大したことじゃない」

 大したことではないのにこんなところに普通隠れるかと思ったが、薬研はそれ以上追及するのはやめた。へたにつっこんでよけいにこじらせたらあとがめんどくさいのは経験上重々わかっていた。

 こちらも彼のそんな態度に慣れている厚が何事もなかったかのように例の紙を取り出した。

「なんだこれは」

「主への贈り物のメッセージカードっていうものだ。一言でもいいから何か書いてくれ」

「主に・・・?」

 顔をしかめて眉間にしわが寄るほど難しい顔になる。やはりなと思って厚の後ろで控えていた薬研は空を仰いだ。

(旦那ももう少し素直になれりゃいいんだが)

 普段主への本音をなかなか言えなくて、結局反抗的な言葉をぶつけてしまう現状で、彼が形に残るものへ本当の気持ちを書けるとは到底思っていなかった。

 恨めし気に響く声で恐る恐る聞いてくる。

「どうしても書かなければいけないのか?」

「そうだ。もう本丸のほかのみんなには渡して了解をもらってある。あとはあんただけだ」

 厚がぐいっと押し付けるように差し出す。さすがに厚に遠慮はない。山姥切も付き合いの長い短刀の言葉には反抗しづらいようだった。

 それでもなかなか受け取らないのを見てとって、薬研が助け船を出す。 

「別にむずかしく考える必要はないんだぜ。たった一言でいいんだ。軽い気持ちで感謝の言葉を書けば・・・」

「普段迷惑ばかりかけられている奴に、感謝の気持ちなど嘘でも書けるはずないだろう」

 薬研の助け舟はすっぱり叩き切られた。

(融通がきかねえ)

 あまりの頑固さに頭が痛くなってくる。だがここで一人欠ければ乱たちの案は瓦解してしまう。主がそれを見た時のことを考えれば、やはり全員分は何としても揃えたい。

 さてどうやって懐柔するか、薬研が思案していると突然厚がとんでもないことを言いだした。

「なら無理して書かなくてもいいだぜ」

 厚の言葉に何言ってんだと薬研が目を向いた。山姥切を見下ろしたまま真面目な顔で言葉を続ける。

「これは俺たちの気持ちを言葉にして書くもんだ。だからなければないでそれはその刀の本心だろ。でも俺はたとえ文句でもそれをそのまま書いた方がいいと思うけどな。あんたがこれに書いたらよほどのことだって大将も思い知るんじゃねえのか」

「書かなくてもいいとか、文句でもいいとかお前な。乱れが怒るぞ」

「なんでだ? 俺は文句でもいいと思うけどな。それって相手のためを思って言っている言葉だろ。黙ってる方が不親切じゃないのか? あの大将なら気持ちをちゃんとくみ取ってくれると俺は思うぜ」

 厚の肩に手をやって何か言おうとしたとき、彼の手から紙片が消えた。

 小さな紙を見つめながら立ち上がった山姥切は視線を落したまま、驚いて見つめている厚たちに言った。

「わかった。あとで書いて届ける」

「ちょっと、旦那・・・」

 すいっと身をひるがえして去ろうとしている彼の背に薬研は声をかけようとしたが前にいた厚に手で牽制された。

「ちゃんと書いてくれるよ。あの人は。多分だけど」

「・・・おまえな、よく自信ありげに言うが、本当に根拠があって言ってるんだろうな?」

 

 
「わー、いっぱい集まったねー。すごいすごい」

 本丸の刀剣たちから集めたカードを広げて、短刀たちは感嘆の声を上げた。

「でもこれ主様へのメッセージですよね。僕らがこうやって見てしまってよろしいのでしょうか?」

 心配そうな前田の問いかけに、乱は大丈夫と請け負った。

「これを大きな台紙に貼り付けて壁にかけられるようにするつもりだから。きっとあの主さんなら部屋の目立つところに飾ってくれるはずだよ」

 だから主のところへ行けばみんな見ることになるから大丈夫とにっこり笑った。

「それにしてもこうやって見るとみなさんそれぞれ個性と言いますか、いろいろな書き方をしていますね。面白いです」

「本当に一言だけって奴もいるし、紙からはみ出しそうなくらい細かく書き込んでいる奴もいるしな」

「長谷部なんてこんな真っ黒になるくらい書いてるんだぜ。こんなに小さい文字で書いて主、読めんのかな」

 薬研に引っ張り込まれるようにしてこの企みに巻き込まれた不動が文字で黒く見える紙を掲げて軽く笑った。

 隣で薬研が目の前に散らばる紙片の中の一枚を抜き出した。

「まあ、書いてくれただけでも上出来だが、これはどうかと思うぜ」

 ひらりと皆に見せたのは最後の最後に届いた山姥切からの一枚。

 楷書の墨で一筆、『いい加減におとなしくしていろ』

 はねやはらいが力強くしっかりした見事な達筆だった。

「ほんと言葉も文字も男前よね。見た目はあんなに綺麗系なのにものすごい中身とギャップがあるっていうか」

 薬研から向けられたそれを乱は呆れたようにじっと見つめている。

「大将も大丈夫と言いながら動き回って結局具合悪くなってどこかで倒れるのはいつものことだし。近侍やってる旦那が一番いいたいこともわからなくはないんだが。病弱な主が倒れるたびに世話をするのが旦那だからなあ。だけどほんとにこれでいいと言ったのか、厚」

 それを受け取った厚は薬研に声をかけられて、こちらに顔を向けた。

「何が?」

「おまえがこの言葉でいいって言ったんだろ。責任取れんのか」

「ああ、まだ見てないのか、後ろ」

 その紙の後ろを見ろと言われて、薬研は紙をめくる。目立たなくて気付きにくいが、そこには隅っこの方に小さく文字が書かれていた。

「あ・・・」

 それを見た短刀たちの眼が一斉にそこへ釘づけにされる。

「でも、これ、台紙に張るんじゃないんですか。裏は見えませんよ」

 慌てる五虎退に、口に指を当てて何やら考え込んでいた薬研がふいに目を煌めかせた。

「まあ、俺に任せておけ」

 

 
「ではみなさん楽しんでください」

 明日の聖夜への夜更けに行われた宴はにぎやかに執り行われようとしていた。

 宴の中盤で刀たちへのプレゼントを配り終わってにこにこしている主の元へ、目配せした短刀たちが一斉に集まった。

「え?」

 突然の出来事に戸惑う主は両脇に控える長谷部と山姥切を見るが、二人ともしれっとした顔で眼をそらしている。

 短刀一同を代表して発起人の乱が言葉を述べた。

「今日は僕たちからも主さんへプレゼントがあるんだよ」

 戸口の陰から薬研と厚がリボンで飾られたそれを掲げ持って出てきた。

「ほら大将、俺たちみんなからの気持ちだ」

 短刀たちみんなの声が唱和する。

「いつもありがとう!」

 宴会場にいる刀たちからパンという軽やかな音と共に、クラッカーが打ち鳴らされた。

 大きなパネルを抱えさせられて、主は目を開けたまま戸惑って動けなくなっていた。

「え、え? な、何・・・?」

 戸惑いながらも手にしたそれを見て、はっと目が見開かれる。

 桜の花が張り付けられた大きな桜の樹。その花の一つ一つに刀たちの言葉が記されていた。

「主さん、もう一つあるんです」

 秋田と五虎退が可愛く包装された包みを持って差し出した。

「開けてみてください」

 とりあえずパネルを横に置いて、言われるがままに包み紙を丁寧にはがす。中に入っていたのは濃い藍色の綺麗な色合いの半纏だった。

「主さんは前に僕たちに温かい手袋をくれました。だから今度は僕たちが主さんに温かいものを上げたくて作ったんです」

「これを着ていれば温かいから風邪なんかには負けませんよ!」

 たっぷりと中に面を詰めているのか、ふかふかしているそれを主はそっと抱きしめる。秋田たちに促されておそるおそるそれをまとうと、詰め込まれた綿が柔らかく包み込んでくれるようで温かかった。

 黙ってしまって何も言わない主を皆がけげんな顔をして伺う。

「主さん?」

「ああ、いや、こんなこと考えてなかったから」

 手の甲で眼をこすると、主は顔を上げて目の前にいる短刀たち、そしてその向こうに居並ぶ刀たちを見渡した。顔に自然と浮かぶ微笑み。

「どうもありがとう。本当にうれしいよ」

 


 宴が終わり、次の日、部屋に飾られたパネルを見ながら主は感嘆の声を上げた。

「本当にすごいよね。この本丸にいる五十三振りの刀たちからちゃんとメッセージを集めたのか。短刀の子たち結構大変だったろうね。一癖も二癖もある刀が多いからみんな素直に書いてくれたわけでもないだろうに」

 くすくすと笑う主に、憮然とした顔で隣の長谷部が言った。

「だからといってこれはどうかと思うのですが、主」

 長谷部が指を刺したのは筆書きの達筆で思いっきり目立っている山姥切の花の紙片だった。

「ああ、彼らしくていいのではないかな?」

「主はいいとはおっしゃいますが、こういう時くらいちゃんとしたことを書けないのかと思うと・・・今から叩き切ってきてもよろしいですか?」

「それは駄目。この件で喧嘩を仕掛けに行かないで、これは主命だよ。それにここに書いてあることは事実だし、彼の本心からの願いだろうからしかたがないよ」

「はい・・・」

 主命と言われて仕方なく引き下がったが、眉間にはまた青筋が立っている。あとで彼と会ったらきっと一悶着起きるだろう。

「それよりも連隊戦でソハヤノツルギの気配が見えてきているんだ。多分もうすぐ出会えるはずだと思う。ソハヤノツルギについての出陣部隊へ渡す資料を集めてきてくれないだろうか」

「わかりました、では失礼いたします」

 去って行った長谷部を見送った主は、再び目の前の桜のパネルへ視線を戻す。

「いい加減におとなしくしていろ、か。それができればいいんだけど、どうしても自分で動きたくなってしまうんだよね」

 山姥切のメッセージを眺めていた主はその片隅に矢印があるのに気付いた。こんなもの、前にあっただろうか。

「ええと、めくれ? めくってみろっていうことかな」

 他の桜の紙片は綺麗にしっかりと貼り付けられている。だが、その山姥切のだけは上部だけが糊付けされていて、裏側をめくることができた。

 主ははがさないようにそっとその紙をめくる。裏側には小さくて目立たないけど、でもちゃんとその文字を読むことができた。

 鉛筆で書かれた、いつも報告書で見慣れた彼の字。何度も書いては消した跡が残っている。

『もっと俺たちを信じろ』

 普段それほど動揺することのない主の眼が大きく見開かれた。

 これは願いだ。近侍として主の傍に最も長くいる彼が感じていること。

 刀を信じてここで待っていてほしいと願う、彼の心。

 何かをしなければと無理をして動いてしまうのは心のどこかで信じきれなくて不安だから。でもそれを誰かに漏らしたことはない。だがそれを彼は本能で感じ取っている。

 刀たちの言葉であふれた桜を目の前にしながら、主はただ祈りを捧ぐように目を閉じた。

 

 本当は去年までに書きたかったけど間に合わなかった。それでもどうしても季節ネタがやりたかったので。

 短刀たちが主にもクリスマスプレゼントをあげようっていう話です。

 短刀のみんなかわいいです。きっとみんないい子なんだろうなあ。

 ちなみにソハヤはこの数日後に来たため、おりません。

 あとまんばが隠れていた理由は誰のせいでしょう。いつもの人のせいです。

 

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