ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

修行 ~加州・堀川~

 とある部屋と廊下を仕切る障子を半分くらい引きあけて、加州はひょいっと中を覗き込んだ。

 部屋の中は無駄なものもなく、きちんと片づけられているのはおそらくこの部屋の持ち主がきれいに整えているからだろう。こちらを背にしてじっと部屋の奥の襖を見つめているよく知った黒髪の人物に声をかけた。

「ちょっと聞きたいことあるんだけどさ。山姥切がどこにいったか知らない?」

「え、兄弟なら・・・」

 振り向いた堀川が指差したそこは部屋の押し入れの襖。ぴったりと閉ざされているのをみて一瞬にして状況を把握する。

「何、またこもってるの?」

 顔をしかめて面倒くさそうにつぶやいた加州に堀川が同意の頷きを返す。

「そう。主さんのところから帰ってくるなり何も言わずに引きこもっちゃって。僕が何言ってもうんともすんとも言わないんだよ」

「食べ物でつってみた?」

「もうやったよ。でも効果なし」

 うーんと首を傾げて加州は渋い顔をした。

「原因はなにっていってもわかるわけないか」

「ううん、直接聞いたわけじゃないけれど、多分あれのせいかなって。ほら、僕たち脇差もやっと極修行にいけるようになったよね」

「今回四振り同時だったよな。おまえと粟田口のところの鯰尾と骨喰に、あとはにっかりだったっけ。それがどうしたのさ」

「それとさっき政府から通達があって、さらに二振りが修行に行けるらしくて。次もたぶん脇差だろうとさっき主さんから言われたんだ」

「また? 最近ずいぶん急だよね。脇差・・・順番からすると浦島と物吉か。その後は、残りの脇差の篭手切はついさっき来たばかりだからあいつはまだ先だよね。・・・あ、だからか」

「たぶん兄弟は今度の通達があったら自分たちだって考えたんだと思う。審神者が最初に選ぶことのできる打刀が五振りだろうって」

 額に手を当ててどうしたものかと悩む堀川を見下ろしていた加州はうんざりとため息を漏らした。

「それでうじうじ悩んでるってわけ。いつか自分の番も来るんだからとっくに覚悟決めてて当然なのにさ。いいじゃん、修行行けば強くなれるわけだろ。俺はむしろ楽しみだけどね。そりゃ見たくないことも見ることになるかもしれないけどさ。もしかしたらあの人に会えるかもってちょっと期待しているところもあるし。ただおまえは自分の過去に向き合うのはいろいろ思うところがあって複雑かもしれないけどさ」

 閉めきられた襖に向けて加州は説き聞かせるように強く言う。襖の向こうは物音ひとつ聞こえない。でもきっとあいつのことだ、聞いてはいるはず。

 狭く暗い空間でうずくまって膝を抱えて俯いて。そんな姿が容易に想像できる。

「でもさあ!」

 突然加州は声を張り上げた。どんと思いっきり畳を踏みつける。黙って聞いていた堀川も驚いて加州の顔を見上げていた。

「俺たちは今は主の刀だってわかってる!? 主のために強くなって戦うのが役目だろ。それを自分の過去がどうのって悩んで修行拒否するのは許されないんだけど! 特におまえは主の最初の刀なんだから、自分の立場を理解してるよね!」

 加州の叫びが収まると部屋はしんと静かになった。襖の向こうからは無言、相変わらず返事はない。

 閉ざされたまま寸分たりとも動かない襖を睨みつけながら隣の堀川に声をかける。

「なんとかしてよ、おまえの兄弟」

「ごめんね。兄弟は自分の中に籠ったらなかなか浮上してこなくて。・・・でも僕もこのまま」

 だんだんと冷ややかな声になる堀川に加州は背筋が凍りついた。

「え、堀川?」

「僕も修行に行かせてもらって極になったからね。潜伏先が新撰組だったでしょう。修行の間にいろいろ役に立つことを教えてもらったんだ。ひっぱり出すのにそれを試してもいいかなって。何がいいかな」

 この笑顔はヤバいと加州は直感で感じた。目元を和ませ、口元も柔らかに笑っている。ただ細められた目の奥の光がいやに輝きを帯びていた。

 いくら傍から見て甘すぎると思われる兄弟仲でも今回はさすがに腹に据えかねたか。

「おまえ、極の修行から帰って来てから吹っ切れたっていうか、言ってることがさらに物騒になった気がするんだけど」

「そう? 僕は変わってないつもりなんだけど」

 さわやかにさらっとそんなことを言う。堀川は穏やかな声音のまま襖に近づいて中の兄弟に告げた。

「ダメだよ。これ以上みんなに迷惑かけちゃ。まだ引きこもるっていうならどんな手段をとってでも僕は君を引きずり出すよ。極になった僕の本気見たい?」

「だからそういえるところが物騒なんだって」

 

 

 この後、強制執行される前に兄弟は神妙に押入れから出てきました。

 極修行から帰ってきた堀川君は過激になって来たな思いまして。さすが鬼の副長の刀でしたね。