ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

捜索 ~江戸城~

「で、俺たち短刀は次どこへ行けばいいんだ?」

 先ほど無事日本号を見つけて本丸に帰ってきた第三部隊の短刀たちは主の部屋で次の指示を待っていた。

 いままでの出陣記録を閉じた記録帳をめくりながら考え込んでいた山姥切が難しい顔をして厚たちの方を見た。

「残るは延享の江戸だが、今確認されている戦場はすべて昼間だ。そうなると短刀が有利とされる夜戦ではない。そこでまだ出陣したことのない江戸城はどうかと主は考えている。ここは前の戦場での時間経過を見る限り、おそらく夜になる推測される。ここを戦場を知るためにも一度行ってもらいたいところだが、ただ敵がどのような強さかはわからない。それでも行ってくれるか」

「どうせいつかは行くんだ。遅いか早いかの違いだろ。俺たちは行くぜ」

「そうか、ならば後藤と信濃は抜けて、控えの極になった短刀を入れよう。江戸城は手ごわい敵が多い、現状ではお前たちだと練度が不足している」

「俺たちが弱いっていうの?」

 むっとして頬を膨らませた信濃だったが、それを見て山姥切は小さく首を振った。

「そうじゃない。同じ延享の白金台を周回している第一部隊はあれだけの高い練度なのにいつも刀装を壊して傷を負って帰ってくる。そうなると刀装が一つしか装備できないお前たちではあの時代は厳しいだろうからな」

「そうそう、総隊長殿のいうことはちゃんと聞けよ」

 山姥切の言葉を継いで厚が言い聞かすように二人を見やった。

「一番最初に極修行に行ったからってずるいや。僕もはやく修行に出たいよ」

 ふてくされる信濃と後藤の頭をあやすように薬研が手を乗せる。

「おとなしく待ってろよ。俺たちがきっちりやっておくからな」

 なでられた頭に手を当てて、後藤が顔を赤くして怒鳴った。

「だから年下扱いすんなって言ってんだろ! お前とは身長だってそんなにかわんねーじゃねえか!」

 

 

 江戸を見渡せる櫓からこれから向かうべき江戸城を彼らは見つめていた。暗く落ちた夜を背にして江戸城は黒い影を闇に溶け込ませてはっきりとした姿を捕らえることはできなかった。

 月の出ない夜の闇に落ちた眼下の江戸の町はどこまでも暗く、そこに息づく人間の気配ですらどこかに覆い隠してしまっている。

 犬の鳴き声もせず、町はしんと静まり返っていた。

「静かですね」

「ああ、だが嫌な気配はさっきからずっとまとわりついて離れねえ。俺たちが来ていることはやつらも感づいているだろうな」

 櫓の上で小夜と薬研がひそやかに言葉を交わした。その眼は江戸の町をこえて、城へと向けられている。

 軽やかな足取りの音を響かせて、下から誰かがやぐらの上へ登ってくる。梯子の最後の段から飛び上がって宙で一回転すると、きれいに着地した。

「えどじょうはてきがうろうろしていますよ。たぶんなかにもいます。にんげんたちにはみえないみたいですけど」

「近道はあったか?」

「はい、まっすぐなのになんでかわかりにくいみちが」

「一番わかりやすい道はあまりに遠回りだからなあ。やっぱりよく探せば近道があったな、でかした今剣」

「あたりまえです。ぼくをだれだとおもっているんですか」

 今剣は自信満々に胸を張った。ずっと口を閉ざしていた小夜が小さくつぶやく。

「行こう、敵を倒しに」

  櫓から降りてあたりを偵察していたほかの短刀たちと合流すると、小夜を隊長とした部隊は初めての江戸城に足を踏み入れた。

 

 

「うう、また銃兵の刀装さんが壊れましたー」

 涙目になりながら五虎退が粉々になった玉を手のひらで見せた。小人のような刀装は壊されるともとの玉に戻り粉々となってしまう。冷たい物言わぬ欠片を手にしたまま、ぐすぐす鼻を鳴らして落ち込む彼を厚はぽんぽんと頭を叩いた。

「ったく、とんでもないところだな。刀装は次々壊されるわ、俺たちも容赦なく傷をつけられるわ。これが昼だったらと思うとぞっとするぜ」

池田屋では余裕だったのにな。この時代になって急に敵の力が増したみたいだ」

 薬研が怪我を負った厚の傷を確かめる。服の下を覗こうとした薬研の手を慌てて振り払うが、彼の眼が怪我を見つけるほうが速かった。

「おい、厚、お前脇腹怪我しているんじゃないか」

「いや、お前の方が怪我してるだろ。いつも平気そうに見せかけて、気づいたらいつの間にか真剣必殺だしているじゃねえか!」

「それはそれだ。さっさと見せろ」

 むりやり衣服をめくって怪我を手当てしようとする薬研を、厚は手足を突っ張って全力で拒否する。

「お前の薬はすぐ効くけどめちゃくちゃしみるんだよ。やめろって!」

「ちょっとじゃれあってないでください。ここはてきのまっただなかですよ」

 粟田口の二振りを厳しくたしなめた今剣は、前を向いたまま動かない小夜に視線をうつした。

「さよくん、てきがみえますか」

「僕も見えない。すごく嫌な気配はするんだけど」

 城内の庭に忍び込んだ彼らは庭木の陰に身をひそめながら、敵の大将がいるとおぼしき部屋の前までたどり着いた。

 江戸城の広大な城内の打ち捨てられた一角。どうやら人間たちはここを使ってはいないようだった。だからこそ戦うには好都合だったが。

 人気のない場所のはずなのに、屋敷の奥の部屋から得体のしれない気配がかすかに漂っていた。だけどそこはどこまでも闇が深く、その異形の姿を隠している。

 いくら目を凝らしても何も見えない。小夜は小声で味方の刀たちに指示を伝えようと後ろを振り向いた。

「敵の陣形は読めないから、いつも通り横隊陣形で・・・」

「・・・さよくん、あぶない!」

 眠りから覚めたように突如、殺気が彼らに牙をむいた。闇の中から銃声が響き渡る。

「今剣!」

 とっさに小夜の前に体を割り込ませた今剣が後ろに倒れこんだ。無意識に手を伸ばして彼を抱きかかえたが、撃たれた傷から吹き出した紅い鮮血が小夜の頬にかかる。

 細くて軽い彼の身体を抱きとめながら、小夜は震える声でつぶやいた。

「どうして、僕の前になんか」

「そんなのあたりまえです。ぼくのほうがきみよりおにいさんだからですよ。だってあなたはぼくのだいじな・・・」

 こほっと咳き込んで、今剣は崩れ落ちるように意識を失った。

 闇の中から刀を手にして時間遡行軍が次々と姿を現す。それらをみた薬研が舌打ちをする。

「ちっ、あの陣形じゃこっちが不利だ」

「どうやら囲まれています。いつのまに」

 短刀を横に構え、平野が薬研の隣に体を寄せた。

 動かなくなった今剣を抱えていた小夜の方がかすかに震えている。

 腕に巻いていた布で手早く止血すると、そっと地面に彼を横たえて小夜は立ち上がった。暗い表情のまま獲物を見つけたかのように迫ってくる敵の短刀を睨み付ける。

「そこだね」

 足が大地を蹴った。素早い跳躍で一気に敵との間合いを詰めた小夜は復讐の怨念にまみれた己の短刀を敵に突き付ける。

「僕の刃、受け止めてよ!」

 鋭い金属の音が鳴り響き、空から折れた刀の破片が地面へと落ちた。自身の先端を折られた敵は残られた力を振り絞り、小夜へと体ごとぶつかった。

「くっ!」

 渾身の一撃に体を揺らめかせたが、握りなおした刀を敵の額に突き刺せて今度こそ沈黙させた。乾いた音を立てて短刀の時間遡行軍は地面へと崩れ落ちる。

 体の支えを失って膝をついた小夜は頬についた血を手の甲で拭った。胸を弾ませながら荒く息をする。手は脇腹を抑えていた。

 戦いながらそれに気づいた厚が叫んだ。

「小夜、怪我しただろう。無茶をするな!」

「動きに支障はない。まだいけるよ」

 小さく息を吐いて再び敵の中へと飛び込んでゆく。自分より大きな敵に刀を構え、懐に入り込もうとした。だが敵もその動きを読み切っていた。横なぎに払った刀に小夜の小さな体が宙に高く吹き飛ばされる。

「虎くん、助けて」

 五虎退が放った虎が落ちようとする小夜の体を受け止めた。駆け寄った彼は小夜の傷の深さを見るなり青ざめた。脇腹に深い刀傷を負い、そこからおびただしい血が地面にこぼれるほど流れ落ちている。意識は飛ばされたときに失ったようだ。

 再び吹き飛ばされる激しい音に周りを見渡すと、味方の誰もが多かれ少なかれ傷を負い、強すぎる敵に押されていた。その足元には砕かれた金色の欠片が散らばっている。

 誰ももう戦う余力はない。刀装もほとんど砕かれた。

 だけど気づけば敵は一騎。まだ動ける五虎退に気づいたそいつはゆったりとした動作で近づいてくる。

 この敵の大将を倒せば、自分たちの勝ちだ。

 状況を見ても動けるのはたぶん自分だけ。でも体が震える。相手はまだ余力を残しているのはわかっていた。

 勝てるのか、自問する。崩れそうになる自信。その時まぶたの向こうに見えたのは白い僧衣をまとった凛々しきあの方の懐かしき後ろ姿。

 五虎退は叫びそうになったその名前を必死にこらえた。薄い唇を強く噛みしめる。

「自信をもたなきゃだめです。僕しかもういないんだから」 

 とうに血に濡れた刀を五虎退は横に構え直した。目元に浮かべた涙を振り払って、迫りくる敵を睨み付ける。

「痛いなら言ってください、手加減しますから!」

 腹の底から出した声はいつもの自分からはありえないほどの声量をもってあたりに響き渡った。地面にしゃがみ込んでいた薬研が驚いてこちらを見ている。

 跳躍した五虎退は敵の喉元にその白刃を振りおろた。肉を突き刺す鈍い衝撃と生暖かい息遣いが頬をなぐ。さらに刀に力を込めて深々と力を込める。

 ぐらりと敵の体がかしだ。どこからか刀の折れる音が聞こえたと思うと、敵は目の前で粉々に砕け散った。

 肩で荒く息をして五虎退は慌てて周りを見渡した。

「みなさん大丈夫ですか・・・!」

 今剣と小夜はまだ意識を戻さず動かない。他の者達も深い傷を負って思うように動けずにいる。

 江戸城の雰囲気はまだどこかに敵を潜んでいるかのように恐ろしい。傍らの虎も警戒を解かず、まだ闇を睨み付けて唸っている。

 自分だけで倒れている彼らを担いでいくことは難しい。どうすればいい、早くここから立ち去らなければ。なのに何も考えが浮かばない。

 涙が再び眼のふちににじんでくる。泣いている暇などありもしないのに。

「・・・どうしよう・・・いち兄、僕・・・」

 ―――しゃらん。

 金属が重なり合う涼やかな音に五虎退ははっと目をあげた。闇の中から溶け出すように人影が現れる。

 また敵かと体を身構えたが、現れたその者は敵意など全く身につけていなかった。

 刀を持った手をだらりと下げて言葉を失った五虎退にゆっくりと近づいてくる。

 地面につきそうなほど長くのびた髪が背で揺れた。血にまみれた戦場にはにつかわぬどこか儚げな浮世めいた容姿に、なぜか静寂すら感じさせる。その者は目を閉ざしたままとまどう五虎虎にそっと語りかけた。

「この世は悲しみに満ちています。それを和らげるために私は呼ばれたのでしょう」

 どこまでも長く零れ落ちる髪をたなびかせながら、倒れている仲間に手を伸ばした。

 

 

 時との懸け橋となる鳥居が道をつないだ。

 主に言われて慌てて駆けつけてきた山姥切はそこに現れた彼らの姿を見て息をのんだ。誰もが深く傷を負い、立っているのもやっとというありさまだった。

「すまない、俺が無理な出陣指示をしたから・・・」

 強い自責の念に駆られてうつむいた彼を、出血で青い顔をしながらも大したことはないと笑った薬研が肩を叩いて慰めた。

「気にすんなって、旦那。こんな格好でも俺たちはちゃんと任務を果たしてきたんだぜ。それに今だったらこんな傷、手入れ部屋へ入ればすぐ直るんだろ?」

「そうそう、だけど先に小夜と今剣を入れてやってくれ。あの二人が一番やられてるからな」

 気丈にふるまいながら厚は後ろに目をやった。なんとか自力で歩ける五虎退に導かれれて、見慣れぬ長身の影が鳥居の中より現れた。

 第三部隊は短刀だけのはずだ。あんなに背の高い者はいない。

 地面につこうかというほど長い髪。体には数珠を巻きつけている。見慣れない、いやどこかでこれと似たような雰囲気を知っているような。

 細身の体なのに小夜と今剣を両腕に抱えたまましっかりとした足取りで近づいてくる。戸惑う山姥切の前に立ち止まって、その者は優しげな風貌でその者は穏やかにほほ笑んだ。

「私は数珠丸恒次と申します。この子らに導かれました」

 

 

 まさかの江戸城一回目のクリアで出現しました。

 今まであれだけ鍛刀キャンペーンとか、出現キャンペーンとかやっても一切来なかったのに。あれですね、出るのをすっかり忘れて出陣したのがいいんですね。

 物欲センサーオフって大事。

 大典太の時は思わず叫んだけど、今回は考えもしてなかったので心臓止まりかけました。

 状況は本当にこんな感じだった。体力ぎりぎりで連れてきてくれた短刀たち、ありがとう。

 

第三部隊 江戸城偵察部隊(改め数珠丸捕獲部隊)

 隊長 小夜左文字

    今剣

    厚藤四郎

    薬研藤四郎

    平野藤四郎

    五虎退

 

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