ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

装い ~乱・加州~

「主さーん、乱藤四郎、ただいま帰還しました!」

 入口のところでくるりと軽やかに一回転をして、乱はウインクをした。前よりも短くさらにフリルのついた戦装束がふわりと浮きあがる。

 先日刀たちより贈られた綿入りの暖かな半纏をまといながら、主はにこにこと笑った。

「乱、修行ご苦労様。それが新しい戦装束かな、かわいらしいね。とても似合っていますよ」

「でしょ! 僕のお気に入りなんだ。いち兄もとってもかわいいってほめてくれたんだよ。・・・でもあいつらときたら」

 嬉しげに話していた乱の顔がとたんに曇る。突然こぶしを握り締め、怒りを吐き出した。

「薬研と厚と後藤! 厚は僕を見て明らかに引いてるし、後藤はすんごい変な顔をしてたし。それに薬研、あいつはこの僕のかわいい衣装を見てなんて言ったと思う? しばらくお前と一緒に外で歩きたくない、一緒になっても他人のふりをするからなってどういう意味だっていうの!」

 頬を膨らませて不機嫌にな乱を主が困ったように見ていると、廊下の向こうからひょっこり誰かが顔を出した。

「あ、いた。乱やっぱり帰ってきてたんだ」

 非番らしく内番服の加州が主の部屋に入ってくる。

「それが新しい服? かわいいじゃん。さすが乱、センスいいよね」

「わーん、加州ならわかってくれると思ってたー」

 急にしがみつくように抱きつかれた加州は、わけがわからずに主に救いを求めた。

「どしたの、こいつ」

「薬研たちにその衣装が不評のようなんですよね。特に薬研にはかなりきつく言われたみたいで」

「あー、あいつは兄弟同士でも容赦ないからなあ。ほら、そんな顔をしているとかわいくなくなるって」

 ぽんぽんと慰めるように乱の頭を叩いた加州は、片手に持っていた雑誌を上に掲げた。

「それよりこれ、おまえがいなかった時に発売した雑誌。買ったんだけど見る?」

「あ、見る見る!」

 顔をぱっと輝かせて手渡された雑誌を真剣なまなざしで見始めた。

 

 

 主の部屋でくつろぎながら、二人は 雑誌を広げて眺めていた。時折、この化粧品が、とかこの服は今の流行だよね、とか聞こえてくる。

「やっぱ乱がいないとこういうの話せないんだよね。安定はなにそれって冷たい目でみるしさ。あいつ服装とかそう言うのあんまり興味ないんだよね」

 はらりとページをめくりながら加州が小さくため息をついた。

「粟田口もそうだよ。おおざっぱな薬研たちは問題外だし、着れればいいって感じだから一緒に洋服とかの流行を話せる兄弟はいないもん」

 畳の上にうつぶせに寝転がりながら乱は足を軽く上下に動かした。

「だいたいこの本丸で身なりに気を使っている刀少なすぎない? 燭台切とか歌仙なんかは自分のこだわりがすごいけどね。あの人たちはまあ例外かな。他が無頓着すぎる」

「そうそう、男所帯だからってそれでもひどすぎるよ。このあいだお風呂で和泉守さんが石鹸で髪を洗っているの見たよ。あんな長い髪をそんなので洗ったらごわごわになるのに!」

「・・・マジで。どうせあとで堀川に怒られているんだろうけど」

「だいたいきれいな髪をしているのにちゃんと手入れしないなんてどうかしてるよ。加州だってもったいないなって思う時ない?」

 体を乗り出すように乱が力説する

「そうそう、きちんとトリートメントすればきれいになるのにもったいないなって思うことはあるかな」

 つややかな赤い爪をかざして眺めていると、その向こうに怪訝な表情を浮かべてこちらを見ている視線とぶつかった。

 縁側の方の廊下から現れた彼は障子を開けたまま、足元で邪魔な二人を見下ろした。

「主の部屋で何をしているんだ」

 あきらかにくつろいでいる二人に呆れた声を出した。

「ああ、切国。頼んでいた書類もうできたんだね。ありがとう」

 部屋の向こうから読んでいた書籍から顔を上げて、主が手招く。

 たくさんの書類を抱えて彼は主のところへ近づいた。どさりと音を立てて机の上にその束が積み上がる。

「昨日までの連隊戦の戦闘報告書だ。第一部隊から第三部隊までの分がそろっている。ただ長篠で修練中の第四部隊の分はこれからまとめる予定だ。あとは・・・だからなんださっきから」

 表情を険しくして後ろをにらむ。その視線の先には自分をじっと見つめる加州と乱の目があった。

 主の報告中も加州と乱はずっと山姥切の顔を見ていた。あきらかにやめろと言っている拒絶の視線を受けても二人は見つめるのはやめない。

「これは許せないよね」

 じっと顔を見つめたまま乱がポツリとつぶやく。それを受けて加州も口を開く。

「うん、許せないかな」

 自分の顔を凝視されて、人に自分の顔を見られるのがなれることができない山姥切はかぶっていた布を目深に引き下げて怒鳴った。

「じろじろ人の顔を勝手に見るな! 主、残りは今日中に終わらせてもってくるからな」

 視線にいたたまれなくなったのか、山姥切は逃げるように部屋から出て行った。

 入れ替わりに畳んだ洗濯物を抱えた堀川がやってきた。

「あれ、兄弟なんであんなに慌てて出て行ったのかな。主さん、洗濯もの届けに来ました」

「わざわざありがとう」

 洗濯ものの入った籠ごと主に渡すと、なにやら体を寄せ合って相談している加州たちの背後から声をかけた。

「何を話しているの?」

「うわっ、いきなり近づくなよ。つまり、おまえの兄弟の髪の手入れがなってないって話。あいつトリートメントとか絶対してないでしょ」

「あんなにきれいな金髪なのに、手入れしてないからつやがなくなってるし、もったいないよ」

 手をパタパタさせて乱が訴える。だが堀川は困ったように笑うしかなかった。

「兄弟は綺麗って言われるのすごく嫌がるからあまり身だしなみとかわざと気にかけないし。でも確かに髪については最近ちょっとひどいかも。自分では絶対に手入れなんてしないからね」 

「一度本気であいつの髪の手入れやってみたいんだけど、堀川も実は見たくない?」

「んー、・・・見たい」

 顔をしかめて思いっきり迷ったようだが、最後に我欲に負けた。堀川派随一の傑作と言われた刀が加州達の手で身綺麗になったところを見てみたくないわけはない。むしろ見たい。

 堀川が来たときにはすでに彼は数多の戦場に出ていて、戦塵にまみれた布をかぶっていたから。


「じゃあ、手始めにあいつからかな。だけどまんばは無駄に強いからな、俺だけじゃ厳しいんだよね。誰か手助けほしいんだけど」

「だったら燭台切さんに頼めばいいよ。いつもそんな恰好でもったいないとか言ってるし。太刀だから力強いし山姥切さんぐらいだったら十分抑え込めるでしょ」

「だとしたら歌仙さんにも助力を頼みましょうか。このついでにそろそろあの布を洗濯したいので。あと本人は山伏兄さんにも抑えてもらいます」

 部屋の隅でなにやらよからぬことを企み始めた三人にさすがにのんびりした主も気が気ではない。

「・・・あまり騒ぎにならないように、ね?」

「大丈夫だって、主。本丸は絶対壊さないように気を付けるからさ」

「僕たちの腕で絶対にきれいにして見せるね!」

「そうですよ、兄弟の刀は使わせないように僕がちゃんと確保しますので」

 にっこりと主に満面の笑顔を向けて、三人は立ち上がった。主の心配は通じてない。

「じゃあ、役割分担ね。俺は道具の準備をしてくるから、乱は燭台切たちに頼んできて。堀川はうまいぐあいにまんばを風呂場に連れてきて」

「了解。それが終わったら、次は薬研お願い。極修行でかっこよく帰ってきたはずなのに、がさつだからもう髪が傷んできてるんだよ」

「あー、あいつは勘がいいからな。うかつな対応するとすぐ逃げそうだよな。一期に協力を頼むか」

「兼さんもいいですか? このあいだ兼さんが石鹸で洗ってから髪をすくのが大変になっちゃって」

「和泉守はやり方教えるから堀川がやってやんなよ。どうせあいつはまた同じことするんだから、堀川が手入れ覚えておいた方がいいと思うよ」

「わかりました、そうします」


 

 

 

  乱ちゃん帰ってきました。衣装、ピンクです。かわいいけど、これ着せるってすごいな。

 加州と乱は本丸でおしゃれに気を使いそうな二人。趣味も合いそう。

 花丸で21世紀の流行語を理解しているのにはびっくりしました。ゲームの本丸はもっと未来の設定ですよね。

 この後髪の毛をきれいにされてしまった山姥切がしばらく顔が見えないように布をかぶって部屋の隅ですねていたのはまた別の話。

 

短刀 乱藤四郎  二〇一六年十二月二十八日 極修行帰還

 

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