ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

秘宝の里~隊長 同田貫正国~

「こいつで最後だ」

 地面に横たわったままわずかに動いていた敵の短刀に容赦なく切っ先を突き刺した。

 情けは無用だ。殺らなければ殺られる。情にほだされて逃せばいずれまた自分たちの命を狙いに来る存在だ。

 こいつらと俺たちの間には相容れるものなど何もない。

 完全に動かなくなったのを確認して、突き刺した自身の刀を引き抜く。刃にこびりついた血は黒く変じて刀を忌まわしく呪う文様のようにも見える。

 ただ現実しか見ない同田貫にとって盲信ともとれる迷い事は信じるつもりなどなかったが。

「それで今日はあたしらにあと何周しろっていってるんだい?」

 汗で頬にまとわりついた長い髪を後ろに払いのけて、次郎太刀がけだるげに声をかけてきた。

 乱暴に刀を宙に一振りして同田貫は刃についていた血のりを吹き飛ばした。

「知るか。一日に琴を最低でも一個は持って来いって言ってるぞ、奴らは。見つけねえと本丸に入れてくれねえんじゃねえか?」

「琴以外はたくさん出ているんだけどねえ」

 次郎が流し目で見た先には先ほど拾った三味線を持った蜻蛉切がいた。先ほどまでは笛が連続して見つかった。笛を大量に持って帰った時などは主の傍にいるあいつらは口でこそ何も言わなかったが、その眼はあきらかにまたかと心の本音を映し出していた。

 俺たちのせいじゃねえと歯ぎしりする。てめらだって自分たちが出陣した時はどれだけ同じことをしでかしたかわかっているだろうに。だから口では言わないのだろうが。

 巨大な大太刀を鞘ごと地面に突き立てて次郎太刀は一息ついた。

「正直なところ、あたしゃあんたが真面目に楽器集めなんてするとは思ってなかったね。ただ単純に出陣できればいいなんて考えてんだろと思ってたんだが、どうやら違ったようだ」

「勝手に決めつけんじゃねえ。俺はただ戦場で暴れられればいいんだ。そこでたまたま何拾おうが知ったこっちゃねえよ」

「ふうん、素直じゃないねえ。知ってるかい、あんた結構顔に出るタイプだってこと。今だって言ってることと表情が全然違うけどね」

「なっ! 馬鹿言ってんじゃねえ!」

「鏡がなけりゃ自分がどんな顔をしているかなんてわかんないものだからねえ。何の楽器が出てくるかで、一喜一憂しているのこっちはしっかり見てんだからね。そうそうかわいいうちの主にはあんたの様子ちゃんと報告しておくから」

「いい加減なことを言うなぁ!」

 怒号とともに刀を抜きはらった同田貫の刃から、ひらりと身をかわして次郎はいち早く逃げ去った。あの幾重にも花魁のごとく着飾った戦闘衣装でどうやったら彼の本気の刀筋を避けられるのか。

 今までの戦闘で集まった楽器を抱えている蜻蛉切が追いかけ合う二振りに眉をひそめてやんわりと苦言を呈した。

「次郎太刀殿、同田貫殿、遊んでいる暇はありませぬぞ」

「やらせればいいだろ。面白いじゃねえか。俺たちだって今日はどれだけ敵を倒したと思ってんだ。少しくらい休憩したって罰は当たらねえよ」

 腰に下げていた酒瓶をむんずとつかむと、その徳利の注ぎ口から直接煽るように飲み干した。

「かー、やっぱ勝利の美酒は格別だな。まじめな顔をしてないでおめえも飲まねえか、蜻蛉切。酒は弱くはねえだろ」

「遠慮しておきます。まだ戦闘は続きますゆえ」

「堅物だな。まあそこがおめえのいいところなんだろうが」

 からからと笑いながら再び酒をあおる。この部隊にはいつも日本号の酒豪ぶりをとがめる口煩い長谷部も誰もいない。蜻蛉切はたとえこの日本号が酒に酔っていようがその切っ先を決して鈍らせないことを知っているがゆえに、多少ならば止めることはしなかった。

 酒にまつわる逸話を持つ天下三名槍が一振りはたかが酒ごときでその切っ先を曇らせたりはしない。むしろ酒を飲めばさらに興がのって、凄味が増す。

 霧がかる景色に視線を向けて、日本号が目を素面に戻してつぶやいた。

「楽器ねえ。俺は別に近侍曲なんざ自分のだろうとどうでもいいとは思っているが、なんであの主は全員のをとるのにこだわってんだ?」

「それはただ得られるならば皆の分をとお思いなのでは。あの方は誰か一人を特別扱いにはしないように心がけていますからな」

「みんな平等にってか。なるほどなあ。だが生真面目すぎるだろうが。もっと世間の機微ってもんを教えたほうがよくねえか。いいことばかりじゃなくて、悪いこともちゃんと教えたほうがいいだろ?」

 意味ありげに口元をゆがめる日本号に、蜻蛉切は冷ややかな視線を浮かべたまま小さくため息をついた。

「その言葉をそのまま長谷部殿に申し上げてはいかがかな」

「げっ、あいつにだけは口が裂けても言うかよ。言ったが最後、本気で押し切られるぜ。主のこととなると見境なくなるからな」

 なんせ練度が違いすぎる。さっさと最高値に到達した長谷部はあの豪快な一振りを振るいながらも機動はすさまじく速い。日本号とて槍の中では速く動けるほうとはいえ、槍を突き出すよりも先に踏み込まれて最初の一撃を決められでもしたら防ぎようがない。

 それにあちらの方が顕現して長い分、人の身体にも慣れている。こちらはまだ己の槍ですら満足に動かせないというのに。

 生意気な口と小賢しい態度を崩さないあいつとは一度とことんまでやりあう必要を感じてはいたが、今はまだその時ではないとわかっている。やるならば互角にまでもつれ込まないと意味がない。

 黙りこくってどこか遠くを眺めやる日本号を、傍らにいる蜻蛉切は何も言うこともなく静かに待っていた。そこへ豪壮な高い笑い声が霧の中に響き渡った。

「ふむ、なにやらにぎやかだがいかがした」

 山伏国広と太郎太刀が連れだって彼らの元へ近づいてきた。

「どうやら次郎が同田貫殿をからかったのでしょう。戯れで誰かで遊ぶなと何度も言ってはいるのですが」

 うつむいて表情を曇らせた太郎太刀の背を山伏が力強く叩く。

同田貫殿もいささか固くなっているところもあったからな。あの程度ならちょうど気分がほぐれてよいと思うが」

「あれでちょうどいいと言えますかね・・・」

「一人ですべてを抱え込むよりは良い。我々は仲間ゆえ、頼られねば思うように助けるにも助けられぬ」

「ありがたい言葉ですが、おそらく次郎にはそこまで考えて行動したとは思えません。あとで私から同田貫殿に謝罪しましょう」

 

 筋肉自慢の刀を集めてみました。ここに長曽祢さんが入るとこなんだけど、別部隊で隊長をするから今回はのぞきます。

 次郎さんはなんであたしがここに入るのと文句を言いながらも一番豪快に敵を吹っ飛ばしているポジション。これだけそろうと絵的にも圧巻でした。

 

近侍曲 同田貫 二〇一七年四月二十四日 取得

秘宝の里卯月 第三陣 同田貫部隊

 隊長 同田貫

    太郎太刀

    次郎太刀

    山伏国広

    日本号

    蜻蛉切

 ボスマス到達 88回 笛10個 琴4個 三味線7個 

 

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