ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

武器 ~鯰尾・長谷部~

 【注】構想開始時よりもキャラ暴走してしまいましたので、気になる方は引き返してください。

 

「本日十七時をもって秘宝の里への扉が開かれたと政府から連絡があった。分かっているとは思うが当本丸の決め事により、楽曲が解放された刀自らが隊長となり必要数の楽器を集めることになる。今回の該当者は鯰尾藤四郎、骨喰藤四郎、物吉貞宗。以上三振りとなる。先陣は隊長鯰尾藤四郎率いる粟田口部隊」

 近侍として主の代わりに淡々と述べている山姥切国広の目の前で天に向けて手が大きく振り上げられた。元気で威勢のいい声が晴れ渡った空に響く。

「はーい、任せてください! なんたってこっちには秘密兵器があるんですから!」

 山姥切の隣で黙って聞いていた長谷部が眉が跳ね上がる。怒りだすのを懸命に堪えているのか引きついた口元を震わせながら怖い声音で問いただした。

「なんだその秘密兵器というのは。そのような代物があるとは報告は受けていないぞ。味方にも危険を与えるような物騒なものではないだろうな」

「えー、そんな危なくはないはずですよ。当たれば精神的には効果抜群ですけど」

 脇に括り付けた妙に膨らんだ袋からそれを取り出す。鯰尾は取り出した球状の小さな黒い物体を長谷部に見せつけるように突き出した。

「見てください、これが対時間遡行軍撃退兵器、伊五百六十一式馬印爆弾です。鶴丸さんの発案を元に薬研に協力してもらって改良に改良を重ねてやっとできたんですよ。あ、まだ実験中の試作品ですけどね。見てください、こんなに小さいのは特別な工法でぎゅーっと小さくしたからです。これなら戦場に持って行ってもかさばらないでしょう?」

「特殊な工法とはなんだ。道具はどうした」

 手のひらよりも小さいそれは短刀たちが遊びにも使うビー玉と同じぐらいの丸い玉だ。圧縮してここまで小さくしたということだが、当本丸にはそんなことができる道具などあっただろうか。

「やだなあ、特別なものなんて必要ないですよ。ここには筋肉自慢の刀がたくさんいるじゃないですか。その方たちに頼んで型ごとぎゅーっと」

「・・・馬鹿力でどうにかなるのか」

「それで薬研の言うところによると、えーっと、なんでしたっけ? この球は特別な膜みたいなものがはってあってそれがこいつの中身をぎゅっと閉じ込めているんですって。敵めがけてぶつけるとその衝撃で球がひび割れるそうで、すると空気中の水蒸気を吸い取ってとか難しいことがおこって、敵全体に向けて一気に飛び散るんですって。勢いよく盛大にばーんと!」

 鯰尾は両手を大きく広げて楽しげに爆発する様子を体全体であらわした。だがそれを見る長谷部たちの目は冷ややかだ。

「まて難解な説明ではぐらかそうとしているだろう。貴様がそれほど熱く多弁に語るということはそいつの元になったのはもしや」

「ええ、決まっているじゃないですか。この本丸の馬小屋で生産された出来たてほやほやのえりすぐりの良質のばふ・・・」

 長谷部は鯰尾の言葉を最後まで聞いてはいなかった。拳を血が出るのではと思うほどきつく握りしめ、肩を震わせながらうなだれた。

鶴丸め、また余計な企みを吹き込んだな。しかも薬研までなぜこんなくだらないことに協力している」

「また新薬の実験の協力でも引き換え条件にしたんじゃないのか。おおかた鶴丸が口でうまく話をつけたんだろう」

 山姥切が静かに意見を述べる。無表情を装っているが、目だけは妙に座っていてその奥には剣呑な光を宿していた。

「あのー、違いますよー。鶴丸さんはただの発案者で実際に開発したのは俺と薬研で・・・って聞いてます?」

 事実とは違う方向に話が勝手に進んでいくことに困惑した鯰尾が止めに入るが、長谷部たちは主犯は鶴丸と断定して聞く耳も持たない。こういう時、その者の日ごろの行いというものが祟る。この本丸での鶴丸の前科は数えきれないぐらい多すぎた。

 頭が痛むのかこめかみを指先で押さえて、長谷部はうめいた。後始末という実害を蒙ることが多い彼はまたかという表情で深まるばかりの苦悩のしわを眉間に刻んだ。

「なぜあいつはこうくだらないことにばかり力を入れるんだ。薬研とは一度くだらないことに協力するなと膝を詰めて話をするべきか」

「薬研相手なら一期を同席させた方がいいんじゃないか。薬研は研究熱心で本丸で皆の役に立つ薬とかを開発してくれて助かってはいるが、たまによくわからない薬品を興味本位で作ることがあるからな。とにかくそっちは身内のあんたに任せた。俺は、鶴丸に話をつけておく」

「ならその柄にかけているその手は何だ。本当に話だけですませられるのか、山姥切。許可なく抜刀禁止という本丸の規則を忘れるな。鶴丸に対して貴様が怒るのもわからないでもない。だが姿を見るなり問答無用で刀を抜くなよ」

「心配するな。今後は本丸内で主の許可なく刀は抜かない。主との約束だからな。鞘に収めたままのこいつで事を収める」

 己の刀を見せつけながら握りしめて物騒なことをさらりと言う。

 つい先日長い旅より帰って以来、山姥切は自分の容姿を隠すことはない。顕わになった彼の金色の髪が流した視線に目に入る。あらゆる方面から襲い掛かる悩みはため息しかもたらしはしなかった。

「まったく、極になろうがその脳筋だけは変わらないようだな」

 長谷部は鯰尾のすぐ目の前まで歩くと、手を伸ばし彼が手にしていたその黒い小さな球をつまみあげた。

「色はそのままだが、臭いなどはないな。貴重な時間と労力をこんなものに使って無駄だと思わないのか」

 素早く手を伸ばすと鯰尾の腰に下げていた袋を奪い取って、彼の手が届かないほど高く上げた。

「ちょ、ちょっと、返して下さいよ。ずっと思考錯誤して失敗もたくさんしてやっとできたのに!」

「没収に決まっているだろう。一体これを戦場に持って行ってどうするつもりだ」

「だから敵の動きを封じるのに有効かなって。これくらい小さいサイズにしたら刀装が石のかわりに投げられるじゃないですか」

「鯰尾、先に言っておくが、貴様の刀装は弓兵だ。投石はもともと数が少ないからな。今回は出陣する打刀にしか装備させられないだろうと主が仰っている」

「えー、じゃあせっかく作ったのに俺は使えないんですか。よーし、それなら刀装君の矢の先にこいつを突き刺してっと」

「こんな重いものを突き刺して刀装の矢が飛ぶと思ったのか」

 長谷部が拳を振り下ろすと、ごつんと鈍い音と共に鯰尾が頭を抱えてうずくまった。

「くだらないことを考えるな。今度の出陣は貴様が隊長なんだぞ。真面目にやれ」

「俺なりに作戦立てたつもりなんですけど、長谷部さんは冗談が通じないですよね」

 涙目になりながら鯰尾はまだ頭を抑えてしゃがんでいる。

「こいつを野放しにするのは不安だ。誰か同じ部隊に監視できる刀はいないか・・・粟田口の短刀は優秀だが鯰尾を抑えるにはいささか力が、そうだ、鳴狐がいる。鳴狐、いないか、鯰尾のことで話があるんだが」

「およびですか、長谷部殿」

 甲高いお供の狐の声に長谷部は振り返った、が、そこで思わぬもの見て硬直する。武骨な金属でできた細長い筒状の砲身は陽光に照らされて黒々と光り輝き、鳴狐の肩に担がれていた。

「なんだ、その大砲は」

「先日とある映画を新撰組の方々からぜひ見てくれと教えていただきまして、その中に出てくる武器に鳴狐がめずらしく興味を持たれましたのです。ですから僭越ながらこの狐めがつうはんとやらで購入し出陣のお祝いに差し上げたのでございます」

「なぜ祝いでそんな物騒な重火器を与える」

「・・・これで、敵をふきとばす」

「似合いますよ、鳴狐。その時はぜひ狐めもお供仕ります」

「これ以上俺の頭痛の種を増やすな、貴様ら」

 

2018年夏 秘宝の里

第一陣 粟田口部隊

 隊長 鯰尾藤四郎

    後藤藤四郎

    乱藤四郎

    鳴狐

    平野藤四郎

    秋田藤四郎

出陣回数 37回 笛8個 琴4個 三味線5個 太鼓4個 鈴3個