ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

文豪とアルケミスト

破片 ~第一会派~

壊れ、崩れ、言葉はこなごなに、くだ、け、て、ゆく。 多くの人々に時を渡って読みつがれ、あまたの空想の果てに形作られた概念はもう消えかかっている。 初めから何もありはしない。僕らの文学はそれほどまでに儚いものだったのか。 本の中へと降り立った秋…

食事 ~徳永・中野・小林~

「うまかー。こぎゃんうまか唐揚げ食べたことなか!」 ほどよくきつね色に揚がった大ぶりの唐揚げを大きな口を開けて頬張った徳永直は満面の笑顔でそのうまさを顔全体でしめしていた。 一個食べる食べに感嘆の声を上げる徳永とは反対に、食事中は食べること…

怪談 ~織田・太宰~

『・・・するとその時でした。手にしていたろうそくの明かりがふうっと消えたのデス。風もなく、物音もなく、すうっと・・・』 明かりを消して真っ暗になった室内はしんと静まり返っている。皆の注目を集めながらろうそくの明かり一つをその横顔に照らしなが…

喫茶店 ~堀・織田・永井~

「カフェいうのはこないなおしゃれなところやったんやなあ。お客はんもどことのう気取ってるっていうか、いかにも文化人とかいいそうなやつらばっかや」 店の片隅にある席についた織田作之助はきょろきょろと遠慮なく店の中を見渡しながら、装飾やテーブルに…

再会 ~芥川・菊池~

このほの暗い闇のほとりにどれくらい佇んでいることだろう。 いつもと同じように床に就き、眠れぬからといつもよりも多くの睡眠薬を服用した。 その夜の眠りはどこまでも深く、気づけばこの闇のほとりにただ一人立っていた。 誰もいないこの場はとても静かだ…

鍋の宴 ~織田・太宰・坂口~

【注】坂口安吾・織田作之助・太宰治の回想・手紙ネタバレあるので注意。 「地獄からの招待状や・・・」 届けられた一通の手紙を読むなり、織田作之助は顔を青ざめさせた。 文面にはこうある。 『織田作之助へ せっかく現世でそろったことだし、太宰と一緒に…

腐れ縁 ~中原・太宰~

「今度こそ芥川先生を連れて帰ってくる! 俺の力を見てろよ、志賀直哉!」 紅潮した顔で意気揚々と宣言した太宰の後ろで、志賀が腕を組んだまま冷めた目で眺めていた。 「おー、がんばれよー」 その口調もどこかおざなりだ。もう何日も芥川探しで潜書し続け…

記事 ~田山・島崎~

「何書いてんだ、藤村」 図書館のサロンの片隅にあるテーブルで何やら書き物をしている島崎藤村の肩口を田山花袋は覗き込んだ。 書き散らされてテーブルいっぱいに広げられた原稿用紙にはびっしりと文章で埋め尽くされていた。 「えー、なになに? 太宰君の…

会派紹介 2017年2月4日時点

会派一 織田作之助 最初に選ばれた文豪。初代の司書の助手だったが、人が増えて面倒になってきたため、室生に押し付ける形で譲る。 生来のピンチの時でも楽天的な思考をできるゆえ、会派を盛り上げる。 徳田秋声 チュートリアルからなんだかんだで一番手に定…

學問ノススメ ~試験終了~

「やった! 最終試験合格だ!」 「・・・何十回目かもう数えるのも忘れたけどね」 「朔、それは言わない約束だろ」 頬を膨らませて怒る室生を北原は口元でかすかに笑う。 「君たちは本当に仲が良いね。性格も姿形も何もかも違うはずなのに、そうだな、魂の色…

學問ノススメ ~北原一門~

「そんなこともあったかな。でも僕などは不良生徒で結局学校はやめてしまった」 自嘲気味に、それいてどこかさびしそうに北原白秋は告げた。目を閉じて思い出せば、つまらないと鼻から馬鹿にしていたいい加減な学校生活ばかりが思い浮かぶ。 だがいくら待っ…

潜書 ~太宰・志賀~

「芥川先生、どこにいるんだよ。見つからないのは愛か、俺の先生への情熱が足りないからなのか・・・」 潜りこんだ書籍の仮想空間から図書館の現実へと戻ってきた太宰はどんよりと顔を暗くしてうつむいた。 本の中へ潜るのは思った以上に精神力を消費する。…

潜書 ~志賀・太宰~

「では本日の潜書分の洋墨だよ。頑張ってくれたまえ」 目の前に突き付けられた大量の洋墨が入れられた籠を志賀は半目で睨み付けた。山のように盛られた洋墨は司書の期待が込められているようでずっしりと重い。 「・・・で、なんで毎日俺がやらなきゃいけね…

五重塔 ~幸田露伴~

霧の奥に見え隠れする街は見慣れた東京の街であるはずなのに、時折すれ違う人はなぜか着古した着物をまとい、髪はすでに流行から廃れたはずの古風な形に結い上げ足早に駆け抜けてゆく。 藁で編まれた草履は土の上をこするように細い音を立てる。西洋靴の甲高…

再会 ~太宰治~

「ここではね、新しく入った文豪の人は必ず助手を経験して中の仕事を覚えてもらうんだよ。みんなの顔も覚えられるからね」 特命司書の助手を長く務めている室生犀星が新しく来た文豪の太宰治を連れて彼が住まうこととなる建物の中を案内していた。 太宰とは…

友情 ~第四会派~

「さて、この会派は各々の修練を目的とするために集められたのだが」 そう言って森鴎外は目の前の文豪たちを見渡した。 「目的に達するにはできるだけ潜書の回数を重ね、敵と交戦すべきなのだが、少し問題があってな」 「何があるのですか」 常に姿勢を崩さ…

戦闘 ~第三会派~

薄蜉蝣のごとき頼りなげな人影の群れをすり抜けてゆく。見えているはずのその世界が揺らぎ、目に映る端から砂城のごとく崩れ落ちていった。 このままですべてが想いの汚された黒い墨の中へ消えてゆく。描かれた人も、映し出された景色も、そこに込められた作…

べーすぼーる ~第二会派~

「さあ、べーすぼーるをやるぞ。我こそはと思うものは集まれ!」 意気揚々と正岡子規が宣言したがその場には賛同するものはほとんど、というより皆無だった。 「なんだ、みんな、室内にいるばかりでは軟弱になるぞ。おや、それにしては人数が少ないな」 「先…

食堂 ~第一会派~

「ふむ、面妖な。秋声、これはいかようにして食するのだ?」 目の前に置かれた皿を前にして尾崎紅葉は問いかけた。薄く切った四角い形をしたパンにカツレツというものがはさんであるが、なぜか箸もフォークとやらも添えられていない。 傍らで配膳をしていた…