ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

戦闘 ~第三会派~

 薄蜉蝣のごとき頼りなげな人影の群れをすり抜けてゆく。見えているはずのその世界が揺らぎ、目に映る端から砂城のごとく崩れ落ちていった。

 このままですべてが想いの汚された黒い墨の中へ消えてゆく。描かれた人も、映し出された景色も、そこに込められた作者の思いも。

 穢されて文字が消失していく本の中を彼らは急いで駆け抜ける。

 次の目標めがけて走りながら志賀直哉は隣を並走する国木田独歩に話しかけた。

「しっかし昨日司書の奴が無理やり見せてきた文豪なんとかってやつ、俺も武者も出てねえじゃねえか。それにあの太宰の能力って相手の能力を全部無効にするって卑怯すぎだろ? いいとこどりでなんかむかつく」

「あれは空想上の話なんだから気にしなくてもいいだろ。ま、もう一人の俺が使ってる力は便利そうだからあってもいいかもな!」

 人差し指と中指を合わせて立てた国木田はそのまま指で銃の形を作って撃つ真似をした。カッコよくポーズを決めて志賀に向けてにやりと笑う。

「あんたの太宰嫌いも変わらずだね。やっぱ真相は例の批判合戦が原因かな。ぜひそのあたりの真相を本人の口から独占取材したいところだけど」

「は、今の俺からはあいつの悪口しか出てこねえぞ」

 言いざま急に目の前に現れた敵を志賀は手にした刀で一閃した。切られた断面から滴る黒いしみが地面に零れ落ちてしみとなり消えていった。

 横合いから襲い掛かってきた敵を今度は国木田が弓で撃ち落とす。

 どさりと地面に黒い敵が崩れ落ちて動かなくなり消滅した。

「はあ、はあ。早いですね。もう倒したんですか」

 息を荒げながら中島敦が後ろから追いついてきた。ずり落ちそうになっていた眼鏡を慌てて手で直す。

「さすがだな」

 少し距離を取って中島の後ろをついてきた小林多喜二は崩れ落ちてゆく敵の残骸を見て短く感嘆の声を上げた。こちらは中島と違って息一つ乱れさせず、平然とした顔を崩さない。

 動かなくなった敵を見つめて中島は深くため息をついた。

「また二人に出遅れてしまいました。どうして私はこうなんでしょう。せめてあのお話の私みたいに闇夜を駆けれる白い虎になれればいいのに。そうすればもっと強くなって皆さんのお役にたてると思いませんか」

 その言葉を聞いた瞬間、三人の顔がえっと驚きの声を上げた。志賀と国木田はあきらかに嫌そうに、平然としていたはずの多喜二でさえかすかに口元がひきつっている。

「いや、いまでも十分だと思うぞ」

「ああ、虎になってあの状態になったらさらに面倒・・・いや、戻れなくなると困るからそのままのほうがいいと思うけどな」

 苦笑いを浮かべる志賀と国木田を眺め見て中島が不思議そうに首をかしげる

 今の会話が気になって中島の背後への注意は完全におろそかになっていた。彼の真後ろに黒い影が浮かび上がる。

「敵、後ろだ!」

 いち早く気付いた多喜二の声も間に合わない。慌てて振り向いた中島を敵の刃が襲う。

「敦!」

 振り下ろされた刃の衝撃で土煙がもうもうと上がる。隠されたその向こうでゆらりと何かが立ち上がる。

 かしゃんと甲高い金属音が響き渡った。転がり落ちるメガネのフレーム。中島は片手で顔を覆ったままつぶやいた。

「チッ・・・やってくれたな」

 地を這うような低い声。ところどころ切られた服からは赤い血がにじみ出ている。表情を覆っていた前髪を片手でかき上げた。

 眼鏡の奥に隠されていた獰猛な双眼が己を傷つけた敵をあらん限りの殺意をこめて睨み付ける。

「次の瞬間がお前の死だ!」

 手の中に現れた剣を握りしめ、掛け声とともに剣戟が宙に煌めいた。

 中島の渾身の一撃により、丸く大きな獣の姿をした敵がばらばらに砕け、紙屑となり散り散りに霧散していった。

 その壮絶な攻撃を見ているしかなかった国木田たちは自分たちが手を出すことなく、ボスを叩き切った中島に何とも言いようのない視線を送っていた。今の彼には話すことすらためらう。

 落ちている眼鏡を多喜二が無言で拾う。

「おい」

「なんだ、馬鹿の相手は・・・」

 背後からの多喜二の呼びかけへ振り向いたその隙にすっとメガネが付けられる。すると中島の顔がいつもの自信なさげな表情へと戻った。

 目の前に転がっている敵を見てあわてだした。

「あ、ああ、またやってしまいましたか? す、すいません・・・」

「アンタは敵を倒した。謝る必要はないだろう」

 目を丸くして小林を見つめると、うつむいて恥ずかしげに頭をかく。

 その様子を冷めた目で見つめる残りの二人。

「毎度、毎度、あの二重人格ついていけなくねえ?」

「したかねえよ。あの司書の趣味でこのメンバーにされたんだからな。当分変更はしないって断言されたし、あきらめるんだな」

 先が思いやられると志賀は深くため息をついた。

 


 個性派ぞろいの第三部隊。

 わりと自由勝手に動きそうなメンバーが多いから、一人冷静な感じの多喜二の苦労は計り知れず。

 今回は文豪ストレイドッグスを司書に(無理やり)見させられていたら設定です。

 キャラはずいぶんと違いますよね。谷崎なんか特に。

 ちなみに太宰とか芥川は現在うちにはいません。幻のポケモンの存在なんだと思ってます。

 うちの国木田さんは弓のくせしてよく迷うので、きっとボスよりも大きなスクープを目指してつっぱしってしまうんだろうなあ。

 

  アイテム収集専属会派(物理攻撃遊撃班)

   第三会派 中島敦

        小林多喜二

        志賀直哉

        国木田独歩

 

                = TOP =