ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

2018-01-01から1年間の記事一覧

呼び名 ~堀川国広~

本丸の裏手から細く続くけもの道を慣れた足取りで登ってゆく。普通の足であればけして速くは進めない険しい山道でも、まるで足に翼が生えたかのように軽々と駆けあがっていった。 初夏の陽気と日差しを存分に受けて天を覆うように葉を茂らせる木々。葉の間か…

武器 ~鯰尾・長谷部~

【注】構想開始時よりもキャラ暴走してしまいましたので、気になる方は引き返してください。 「本日十七時をもって秘宝の里への扉が開かれたと政府から連絡があった。分かっているとは思うが当本丸の決め事により、楽曲が解放された刀自らが隊長となり必要数…

依頼 ~三日月・山姥切~

雨の気配はもうすぐそこまで迫っている。 どんよりとした黒い雲の切れ目より時折姿をのぞかせるおぼろの月。恥らうようにわずかな姿だけを垣間見せながら、地に在るものには決して手の届かぬ空へと視線を誘う。 湿り気を帯びた大地。じんわりと立ち上る水の…

主と刀と ~手紙~

「主、いるか。悪いが急ぎでこの書類の決裁を頼む・・・!?」 審神者の部屋に踏み入れた山姥切は足裏に何かを踏みつけた感触を感じて、つい後ずさった。足元をよく見れば積み重なった紙が幾枚も畳の上に散乱している。 まだ墨も乾ききっていないその一枚を…

出立 ~歌仙兼定~

「長い旅になるとはいえ、あまり荷物を増やすのも雅ではないかな。お小夜にも荷物が多すぎると怒られたことだし」 顎に指先をかけて考え込んでいた歌仙兼定は、一旦は行李に入れかけた身のまわりの道具を一つ一つ手にして長考し吟味しながら丁寧にえり分けて…

留守番 ~新撰組~

「・・・落ち着かん」 頑なに沈黙を守り続けてやっと発した言葉がそれだった。 縁側で乱雑に胡坐をかいて庭先をただ睨みつけた姿のまま、蜂須賀虎鉄を見送ってよりずっと長曽根虎鉄はそこにいた。 何をするでもない。ただ何をしていようとどうしても落ち着か…

江戸城 ~蔵の一振り~

「また今年も政府は厄介なものを本丸に送り込んできてくれたな」 縁側の廊下でしかめっ面で腕を組んだへし切長谷部は庭先を忌まわしげに睥睨した。 春の訪れをいち早く告げる桜の花も今年は慌ただしく散っていった。 今の季節、いつもならば本丸の縁側に暖か…

極 ~初期刀組~

目の前を小さい何かが横切る。 足元からいたずらに風が庭先から本丸の廊下を駆け抜けた。 再び横切ろうとしたそれを手のひらで捉える。目の前で広げて現れたのは一片の淡い紅色の花びらだった。 すぐさまそれは乱れ吹く春のそよ風にかすめ取られる。 庭の向…

破片 ~第一会派~

壊れ、崩れ、言葉はこなごなに、くだ、け、て、ゆく。 多くの人々に時を渡って読みつがれ、あまたの空想の果てに形作られた概念はもう消えかかっている。 初めから何もありはしない。僕らの文学はそれほどまでに儚いものだったのか。 本の中へと降り立った秋…

再戦 ~厚・薬研~

星も輝かぬ闇夜に沈む巨大な城郭は息をひそめて静まり返っている。天に上る月もなく、あたりは深遠の闇に隠れていた。 この国を治めるこの城のまわりには普段ならば見回りの警備の武士や酔客目当ての屋台などがちらほら見かけるのだろうが、彼らのいるあたり…

主と刀と ~厚藤四郎~

「おや、これは腕が出てしまっているね」 正装用の着物を主の背にあてて具合を確かめていた歌仙兼定が少し驚いたようにつぶやいた。本日はしまっておいた主のめったに使わない礼装や外出の着物の状態を点検するにあわせて、居合わせていた主に試着してもらっ…

未想 ~山姥切・三日月~

『その想いの名はまだ知らず』 ※ほんわか腐表現あります。 タイトル通りみかんばなので無理という方は回避してください。 暗くよどんだ雲から舞い落ちる雨はいまだ降りやまず、さらさらと落ちてゆく細かな音は心までも沈ませる。 この季節は嫌いだ。 なぜと…