ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

大阪城 ~弟探索~①

「大将おまたせ、包丁連れてきたよ!」

 すぱんと軽快な音を立てて障子が引きあけられて、大阪城に行っていたはずの信濃藤四郎が現れた。

 審神者の部屋にいた山姥切、長谷部がそちらに顔を向ける。

「もう50階まで到達したのか。早かったな」

「ふふっ、短刀部隊だからってなめないでよね」

 長谷部の問いかけに、信濃は両腕を腰に当てて胸をそらした。

 その信濃の後ろからひょっこり小さな頭が姿を現した。彼の服にしがみつきながら、見慣れぬその子供は恐る恐るといった様子でこちらを覗き込んでいる。

「俺は包丁藤四郎だぞ。・・・ねえ、ここには人妻はいないの?」

 座っていた主がおもむろに立ち上がって包丁の前まで進んだ。そして膝をついて目線を合わせる。

 まだ人で言えば少年である主だが、目の前の包丁よりは幾分背が高い。

「私がこの本丸の主だよ。ごめんね、ここに人妻はいないんだ」

「えぇぇ! 主は男の人なの!」

 明らかにショックを受けて青ざめた包丁をよしよしと信濃が頭を撫でて慰める。

「私が君の希望に添えなくて残念だけど、これならどうかな」

 そういって主は手のひらをぎゅっと握りしめる。包丁の視線がそこに向けられた瞬間ぱっと勢いよく開いた。

 何もなかったはずの手のひらから色とりどりのお菓子が飛び出していく。

「うわあ、お菓子だー!」

「まだあるよ、ほら」

 今度は両手を握りしめて、開くとさっきよりもさらにたくさんのお菓子があふれ出した。短刀たちによくやっている手妻というものだ。今回はいつもより菓子の数が多くなっている。

「お菓子いっぱいだー。やったー!」

「大将、俺も隊長頑張ったよ。ねえ、懐入っていい?」

「いいよ、おいで」

 遠慮なく腕を広げた主の懐に飛び込んだ信濃が満足げに頬を摺り寄せる。ただ主と信濃の身長がさほど変わらないため、懐に入っているというよりはただ抱きついているようにしか見えない。

 そんな短刀太刀とじゃれ合う主を山姥切は冷ややかに見つめている。

「相変わらず主は短刀には甘いな」

「あの見た目だからな。仕方ないだろう。だがあいつらは俺たち打刀よりも刀として存在してきた年月は長いぞ」

 書き物の続きをしようと目線を下に向けたとき、外の廊下から大きな足音が響き渡った。

「弟が来たんですか!?」

「あ、いち兄」

 息を荒げながら一期一振が部屋の戸口に手を立てかけて立っていた。その声に包丁が顔をほころばせて振り返る。

「よく来ましたね、これからは兄弟皆で仲良く暮らしましょう」

 感動を声に詰まらせてぎゅっと包丁を抱きしめた。一期の周りには戦意高揚の花吹雪まで舞っていた。

 その様子に山姥切だけではなく、よほどのことでは表情を崩さない長谷部ですら眉間にしわを寄せた。

「一期も弟に甘すぎる」

「この本丸の一期一振は特にな」

 冷めた目で見つめる打刀たちをよそに、一期は包丁を抱きしめたまま慌てて主の方に向き直った。

「後藤はどこですか!?」

「ごめん、いち兄。後藤はまだ見つけられないんだ」

 申し訳なさそうな顔をした信濃に謝られて、一期はがっくりと肩を落とす。

「今回の大阪城探索で見つけたいとは思っています。ですから気を落とさないで・・・」

 主のなぐさめの言葉にゆらりと一期は顔をあげた。

「では主、この一期一振、是非にお願いがあります」

「え?」

「このたびの大阪城探索、私も行かせてください。私自らが後藤を迎えに参ります!」

 一期は片膝をついて主に向けて深く頭を下げる。

 その言葉を聞いた山姥切と長谷部の視線がとたんに険しいものへと変わった。勢いよく立ち上がった山姥切がこぶしを握り締め、主の前で頭を下げる一期を睨み付ける。

「それはダメだ。今回の大阪城探索は練度の低い刀の修練を兼ねている。練度が最高値に届きそうなあんたは本丸に残留すると一度は納得したはずだろう」

「そうだ。たとえ弟のためとはいえ、例外は許さん」

 さらに長谷部の低い声音が重なる。それを聞いた一期は顔を上げると自分を睨み付ける刀たちに向けて目を細めた。

 主の傍に仕える打刀二振りと粟田口の長兄である太刀の視線が激しく交差する。

 突如険悪になった部屋の雰囲気に慌てた信濃が一期に取りすがった。

「俺が頑張って後藤を探すから、いち兄はここで待っててよ」

「いえ、弟にばかり苦労を掛けては兄として示しがつきません。主、私に出陣を命じ下 さい!」

「主、情にほだされて決め事を覆すな!」

「今回は彼の意見に同意です。主でも決め事は守ったほうがよろしいでしょう」

 板挟みになった主は困った顔をして微笑んだ。

「一期の弟への思いもわかるし、この本丸の事を考えてくれている山姥切や長谷部の気持ちもわかる。本当は主として止めるべきなんだろうけど、でも今回は出陣を許す。弟を迎えに行ってあげて」

「主! ありがとうございます」

 歓喜の声をあげて頭を下げる一期。だがそれで収まりがつかないのはほかの二人だ。

「よろしいのですか!?」

「あんた、こんなわがままを許す気か」

 彼らは一斉に主の方へ向き直った。戦場で鍛え上げた彼らの本気の目線は主とてひるむこともある。だが今は静かな笑みをたたえたまま、その表情は少しも動かなかった。

「本当だったら決めたことを覆すのはよくないってわかっているよ。でも、前回も前々回も後藤藤四郎の刀だけは大阪城から探し出せなかった。ずっと待ち続ける一期や粟田口の兄弟の気持ちも知っている。だからそんなさびしい気持ちは今回限りで終わりにしたいんだ。一期ならきっと見つけ出してくれる、そうだろう?」

 主の目に揺らぎはない。これはもう決意を定めた目だ。逆らえない。

 ぐっと唇をかみしめてこぶしを握り締める。

「主命とあらば仕方ありません」

 傍らの長谷部がため息をついて受け入れた。これ以上自分だけ反対しても覆せないと悟った山姥切は乱暴に腰を下ろして座りなおす。

 不本意ながらも近侍たちに受け入れられたと判断した主は改めて一期に向かって顔を向けた。

「一期一振、大阪城へ。最後の弟を見つけ出してください」

「はい、主、必ずこの命に代えても」

 

 何度やっても後藤だけどうしても出ないので、いち兄を出陣させてました。そのやり取りの一幕。
 包丁君は楽しい子ですよね。信濃も懐に入り込んで可愛い。
 やっぱりいち兄は弟の事となると見境なくなる。
 ちなみに初期刀の山姥切と、内務を仕切る長谷部はこの本丸では初期から一緒に主の仕事を手伝っています。本丸の方針は大体このあたりで決められます。
 第一部隊でよく一緒に出陣していたこともあって、いつも意見の相違でぶつかるけどなんだかんだ互いの事は認めている様子。

 

第8回大阪城探索部隊(60階まで)
  第一部隊 隊長 信濃藤四郎
          厚藤四郎
          小夜左文字
          今剣
          薬研藤四郎
          博多藤四郎

 

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