ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

大阪城 ~博多とゆかいな短刀たち~

「待ちに待った大阪城ばい! はりきっていくと!」

 目を黄金の小判のごとく煌めかせ、博多藤四郎はぐっとこぶしを突き上げた。

 つい先ほど急いで修行から帰ってきたばかりだが、疲れというものを全く感じさせないのは目の前の大阪城に埋蔵されている小判に心が躍っているのだろう。

 首をかしげながら信濃藤四郎は隣にいる後藤藤四郎に顔を寄せて尋ねた。

「ねえ、たしか俺、今日博多が出ていく時玄関で行ってらっしゃいって言ったばっかなんだけど、なんでもう帰ってきてるの?」

「あー、なんか大将に頼んで鳩使ったみたいだぜ。大阪城の小判が待ってるから早く修行を終えたいって直訴してな」

「なるほどねー。修行から帰ってきても博多は全然変わらないなあ」

 修行から帰ってきた短刀たちはそれぞれの思い出の場所へ行って、心を成長させて帰ってきている。はたしてこの博多はどのように成長して帰ってきたのか。

「それにしてもあの服、なんか強いっていう恰好じゃねえよな。なんかこう隠居のジイさんみたいな感じしねえ?」

 後藤の言うとおり確かに渋い色合いの袖なしの羽織をまとい、ほかの兄弟たちみたいに兜ではなく角頭巾をかぶったその姿は、武士である前の主の姿を模したというよりもどこかの富裕な商人でしかない。

 しかしもっとどこかで似たようなものを見た気がする。

 顎に指を当ててしばし考え込んでいた信濃が突然ぽんとこぶしを手に打ち付けた。

「そうだ、水戸黄門だよ!」

「は?」

「ほら後藤、てれびっていう箱で一緒に見たじゃない。水戸黄門が全国を旅して悪を成敗するってお話!」

「・・・確かに似てるかもしれねえけどよ」

「なんの話と?」

 自分を見つめている視線が気になったのか、博多がひょこっと彼らに近づいた。

「ん、博多のその恰好が水戸の御老公に似ているなって」

「じゃあ、俺たちがそのおつきってわけか?」

 けらけらと笑いながら言った後藤の戯れに、博多の目が輝いた。

「そい楽しかな! 役ば決めちゃうか!」

「おい、これに食いつくかよ」

「こういうとこは博多もまだまだ子供っぽいよねえ」

 博多の召集に大阪城に出陣予定の面々が集まってきた。

「配役を決めるとー。まずは格さんと助さんばい!」

 きらりと博多の眼鏡が光る。

「格さんは不動しゃん、助さんはかっこよかな太鼓鐘しゃんばい!」

「げ、なんで俺巻き込むんだよ」

 嫌そうに顔をしかめた不動に対して、太鼓鐘はかるく首をかしげる

「なあ、助さんってどんな奴なんだ? 俺見てないからわかんねえんだけど」

「簡単に説明すると、黄門様の家来で、まじめで律儀な格さんと二枚目の助さんってとこかな」

 信濃の説明を受けて、にやっと太鼓鐘がまぶしい笑顔で無邪気に言った。

「へえ、じゃあゆきちゃんなんかぴったりじゃん。みんなに隠れて気を使うし、主のことなんだかんだ言いながら大好きだし!」

「おまえまでそれで呼ぶなよ。それになに恥ずかしいこと言ってんだよ!」

 両手をバタバタ振り回しながら不動は顔を赤くする。

風車の弥七信濃と!」

「すばしっこいもんなお前」

 呆れた顔をする後藤の横で、包丁が期待に満ちた目で見上げている。

「ねー、僕は?」

うっかり八兵衛でどうとね?」

「えー、やだよー。食いしん坊じゃないし、ドジしないだろー」

  不満顔で文句を言うが、その後ろでは他の者達がこそこそ顔を寄せ合って小声で話しこんでいる。

「いや、食いしん坊だよな。主にいつも菓子ねだっているだろ?」

「慌てて何もないところで転んでいるのをよく見てるけどな」

 胸をつかまれて頭を揺らされた博多は腕を組んで考え込んだ。

「しかたなかとね。飛猿でどうとね? 包丁は短刀でも力あるからよかと?」

「やったー、忍者だー」

 喜んでいる包丁を眺めていた後藤がはたと何かに気づいたのか、はっとして顔をこわばらせた。

「おい、てことは俺はなんだよ」

「・・・考えてなかとね」

「忘れてたのかよ」

 後藤は不機嫌に頬をふくらます。

「後藤はむずかしか」

 本気で考え込んだ博多の横で信濃は結局仲間に入りたい後藤をからかう。

「文句言いながら仲間外れは嫌なんだ。わがままだなあ。だとすると、あと残っているのは紅一点のお銀・・・うっ!」

 何を想像したのか自分で言っておいて、信濃が手で口元を抑えて笑いをこらえている。

「お前わざと言ってるだろ! そういうお色気担当は粟田口だと乱になるだろ! 俺がやっても様に何ねーよ」

「い、いや意外とやってみたらはまるかもよ・・・? 入浴のところとかほらこうやってしなやかな手の動き・・・だめだ、もう我慢できない!」

「てめ、どう考えたって面白がってるだろ」

 笑いを止められない信濃の首元の服をつかんで後藤は睨み付けた。二人の馬鹿騒ぎをほかの面々は呆れた目で見るしかない。

 酒の抜けていない赤い顔をしかめて不動がつぶやく。

「どんな役だっていいだろ。どうせ遊びなんだし」

 そのひとり言を耳に止めた太鼓鐘が真面目な顔をして問いかけた。

「でもゆきちゃんだって女装しろって言われたらやだろ?」

「・・・当たり前だ。絶対にしねえぞ」

 まだ取っ組み合いながらじゃれあう後藤たち二人の間に博多が割って入った。

「こなとこで時間くってもしかたなかと。やけん、後藤はちゃっかり八兵衛と!」

「おい、それうっかり八兵衛と変わんねえぞ!」

「これで決定ばい! 大阪城に小判ばがっぽり回収すると!」

「人の話聞けよ!」

 

 今回の大阪城は博多+極実装前の短刀たちが行ってくれました。

 博多君のセリフ楽しい。予想以上に資本主義を極めてきたなあと。

 帰ってきた彼を見て刀とはいったいと思った審神者はいるだろうなあ。

 黄門様は二代目が一番なじみがある・・・っていうと歳がばれる。

 

 地下に眠る千両箱 易その三

  大阪城小判回収部隊(短刀大阪城特攻隊)

    隊長 後藤藤四郎

       信濃藤四郎

       太鼓鐘貞宗

       不動行光

       包丁藤四郎

       博多藤四郎

 

 短刀 博多藤四郎 極修行帰還 二〇一七年二月二十一日

 

 

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