ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

再会 ~太宰治~

「ここではね、新しく入った文豪の人は必ず助手を経験して中の仕事を覚えてもらうんだよ。みんなの顔も覚えられるからね」

 特命司書の助手を長く務めている室生犀星が新しく来た文豪の太宰治を連れて彼が住まうこととなる建物の中を案内していた。

 太宰とは前世で縁がある。彼もまた恩のある室生にはとても親しげな様子を見せていた。心なしか声も弾んで高い。

「はい、犀星先生とここで会えるとは思っていませんでした。ですがなぜ助手をしているんです?」

「あー、それはいろいろ事情があってね・・・」

 彼の質問を微妙な顔をしてはぐらかす。説明するには少々長くて面倒だ。

 太宰治はどこかそわそわしながらさりげなく建物の中を見渡していた。

「おや、話をしていればあれは・・・」

 廊下の向こうから現れた人物を見て、とたんに太宰の顔が変わった。

「佐藤先生!」

「・・・げ、太宰か」

 佐藤春夫に気まずげな表情でとっさに視線をそらされた。そのまま見なかったふりをしてどこかへ立ち去ってしまう。

「おい、佐藤。どうしたっていうんだ。面倒見のいいやつが珍しいこともあるもんだ」

 ともに歩いていたのに取り残された子規があわてて佐藤の後を追う。

 それを目の当たりにした太宰は顔を青ざめて明らかにショックを受けていた。

 言葉も出せずに立ち尽くす彼を心配して室生がなだめる。

「太宰君、大丈夫だよ。ここで暮らしていくうちにきっと誤解もとけるはずだから・・・」

「・・・顔も合わせたくないていうのか。こんどこそちゃんと誠意の込めた俺の気持ちをつづった手紙を出さなければだめだ・・・」

 ぶつぶつとつぶやく太宰に優しく声をかけていると、今度は後ろから声をかけられた。

「室生君、新人の案内をしていると聞いたけど、彼が新しく来た人かな?」

 真っ白い華麗な衣装を着た武者小路実篤が尋ねてきた。後ろには連れ合いの志賀直哉もいる。白樺派の二人はいつも凛としているため、田舎育ちの室生には少し気おくれしてしまう。

「ええ、無頼派太宰治さんなんですけど・・・」

 その名前を聞いて志賀の頬がピクリと動く。

「太宰?」

「そういえば志賀は彼と生前関わりがあったよね」

 傍らの志賀にかけた武者小路の言葉に今度は太宰が反応する。

「志賀・・・志賀直哉・・・か?」

 先ほどまでのうつろな表情はどこへ行ったのか、敵意に満ちた目で志賀を睨み付けた。

「あの頃はじじいだったくせにずいぶんと若返っているみたいだなぁ」

「知らねえよ。俺が望んでこうなったわけじゃねえしな。・・・それにしてもお前は中身がまったく変わってねえようだな、太宰。粋がった物言いも相変わらずだ」

「あたりまえだろ。俺の作品への不当な批評を忘れたわけじゃねえしな」

 年上の余裕からか、志賀は煽られても顎を上にあげて不遜に見つめ返すだけで、眉一つ動かさない。その態度が太宰にさらなる苛立ちを生ませる。

 険悪な空気を醸す二人のそばにいて、武者小路は顔色一つ変えず穏やかに言う。育ちの良い彼はたまに周囲の空気が読めていない。

「志賀、ダメだよ。若人には威厳をもって接しないと。喧嘩を売られて買うなんて白樺派としてふさわしくないだろう?」

「何言ってんだ、売り言葉だろうと買い言葉だろうといくらでも書いてやるからな」

 完全な上から目線で言われてとびかかりそうなほど激昂する太宰を室生が後ろから押さえつける。

「太宰君、喧嘩はダメだ。君も一角の文豪だと名乗るのであれば、君の中にあふれる言葉でその思いをぶつけろ。後世にあれだけの作品を残した君だ、そこの彼に届く言葉も書けるはずだ」

 室生が太宰に言い聞かせると今度は白樺派の二人に視線を向けた。

「志賀さん、俺たちは転生してここで再び出会ったんだ。思うところはあるだろうが過去の遺恨は流してくれ」

「・・・そいつは知らねえが、俺はもうあの時ほど腹を立てていねえよ」

 なぜか憐れむような視線を太宰に投げかける。

「まさかもう一度生きて会えるとは思ってもみねえからな。今度はちゃんと大人らしく相手してやるよ」

「はっ、そっちがそうだろうと俺には関係ないね」

「・・・そうか」

 志賀は室生に抑え込まれたままの太宰の横を顔を見ることなく彼らのわきをすり抜ける。武者小路もちらりと太宰の顔を一瞥しただけで去って行った彼の後を追っていった。

 

 

「志賀、どうしたんだい。まだ怒っているようだが、彼に対して腹を立てているのかい?」

「違う」

 きっぱりと言い切って志賀は歩みを止めた。だらりと下げた両手のこぶしがきつく握りしめられる。

「武者、自分よりも若いやつが先に死ぬのはどんなに嫌な奴でもやりきれねえよ。しかもそいつが自ら死を選んだならなおさらな。なのにあいつはケロッとした顔で現れやがって・・・俺の方がむしゃくしゃする」

「何かしたいことがあれば思ったようにすればいいだろう。以前から君は思ったことをそのまま行動していただろう。周りをはらはらさせながらだったけど。今の僕たちには前の世を生きてきたときの後悔をやり直すことができるはずだ。そうだね、まずは彼に手紙でも出してみたらどうだい?」

「手紙か、いいけどあいつが素直にそれを読むかな」

 

 

 

 潜書でやっと太宰が来てくれたので。ほんと引きが悪くて・・・はたして芥川は来るのか・・・。

 初見で何だろう、このテンションの高さはと思いました。文ストとえらい違い、いや大して変わらない?

 ここの太宰さんはなんか相手によって態度が思いっきり変わりそうなので、因縁のある佐藤さんと志賀で対比を。

 出来ればもうすこし回想があると、話し方の違いが書けるかも。

 ただ万が一志賀と仲がいいと設定ぶち壊されるな・・・。

 

 無頼派 太宰治 転生  二〇一六年十二月二十八日

 

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