ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

正月 ~宴~

「あけましておめでとうございます。この本丸も新しい仲間が増えてにぎやかになったこと大変うれしく思っています」

 上座に座った主が正月の祝いの席でのあいさつを述べる。華奢な身体を背筋正しく伸ばすことで、昨年にはなかった威厳がにじみ出ているようだった。

 刀たちも練度が上がって強くなったが、この主もまた一年で成長したのだ。

「現在も連隊戦の最中ですし、今後も強敵の現れる戦場が解放されるとは思いますが、今日一日はそれを忘れて楽しんでください。・・・えっと、あとなんだったかな。堅苦しい挨拶もどうかと思うし、もうこんな感じでいいかな、切国」

 こそっと同意を求めれられて、山姥切はため息をついた。成長したと思ったのはどうやら錯覚だったのか。最後の最後でいつものように締まらない。

 代わりに威勢よく立ち上がった長谷部が宴会場の料理と酒の前にそわそわしている面々に言い聞かせるように叫んだ。

「今日は主の温情で無礼講だ。ただし、各々節度は守れ。特に次郎太刀、陸奥守吉行、和泉守兼定! お前らは去年のような無様な様をさらすな、わかったな!」

 確か去年はこいつらで大騒ぎして宴会場を壊しかけたため、あまりの惨劇に切れた歌仙や堀川たちが後で首謀者となった奴らを一晩説教していた。

 だがその当人たちも一年たてば去年の惨劇など酒の席のこともあってとうに忘れてしまっているようだ。

「なんでさ、うちらだけ名指しでさー。酒は楽しく飲めればそれでいいんじゃないか」

「宴の前にそういうこというなよ、しらけるじゃねーか。だいたいおまえこそめんどくせえ酒癖してるだろうが」

「安心しちょき、土佐のもんが酒でつぶれるなんぞ無様なまねはせんぞよ」

「お前ら全く反省してないな! そういう態度が心配なんだと言っているんだ!」

 激昂する長谷部を主がまあまあとなだめる。敬愛する主のとりなしで長谷部は顔をしかめていたがそれ以上の言葉をおさえて座りなおした。

 外が黒塗りで内側が鮮やかな朱塗りの杯にほんの少しだけ酒を注ぐと、立っている主に手渡した。主がそれを受取ろうとした瞬間、目を険しくさせて忠告した。

「一応、形式だからな。口につけるだけで、絶対に飲むな。あんたはまだ子供なんだからな」

「わかってるよ。ありがとう」

 軽く微笑み返して主はそっと抱くように両手で盃を胸に捧げ持つ。

 主が祈るようにまぶたを閉じた。にぎやかだった宴会場がしんと静まり返り、皆が審神者である主を凝視する。

 遠く鳴り響く涼やかな鈴の音が聞こえたような気がした。

「この本丸に集う五十四振りの刀たちにあまたの感謝と勝利の未来を・・・乾杯」

 主の声に唱和して、宴会場ににぎやかな声が響き渡った。

 

 

「うわー、すごいね。今年は豪華だ。料理も去年よりたくさんある。・・・うーん、おいしい!」

「これだけたくさん作っているのに、盛り付けも完璧。味もおいしいし。今年の正月も張り切ったよね、燭台切と歌仙」

 追加の料理を運んでいた燭台切が加州達に新たな料理の盛られた皿を差し出しながらにっこり笑った。

「正月料理は大変だけど作り甲斐もあるしね。それにみんなが喜んでくれるとうれしいよ」

「だが、僕は少々作りすぎだと思うけどな、燭台切。君がみんなの懐かしい料理を一つは入れようと言い出したせいで、品数も手間がかなり増えただろう」

 大量の徳利を運んでいた歌仙が後ろを通り過ぎながら、恨めし気に燭台切を見やる。

「でも喜んでくれるからいいじゃないか。歌仙君だって、ああやって嬉しそうに食べてくれて、よかったと思っているでしょ。作っている時の君は大丈夫だろうかって心配していたものねえ」

「・・・僕は自分の腕を信じていないわけじゃない。ただ、作り方を調べただけで元の料理を味見をしたわけではなかったから、彼らの好みと違ったらがっかりするだろうと思っただけで」

 そういいながら歌仙の頬が朱に染まる。酒はまだ飲んでいないはずだから、あれはきっと照れている。

 立ち上がった加州が歌仙持っていた盆を奪い取った。

「あんたたち、ずっと料理を作ってくれたんでしょ。料理作るのはもう終わったんだよね。運ぶのは俺と安定で手伝うからさ、今は宴楽しんでいきなよ。ほら、せっかくの自分たちの料理、味見だけでちゃんと食べてないでしょ?」

「もー、清光ったらまた勝手に決めちゃって。・・・まあいいけど。ほら、歌仙さんも自分の席に座って」

 無理やり二人を座席に座らせると、加州たちはそろいのたすきを手慣れた手つきでつけ、厨房の方へ残りの料理を取りに行ってしまった。

「確かに終わっているけれど、配膳終わってないからなんか落ち着かないっていうか」

 困ったように笑っていると、突然顔面にコップが差し出された。

 横を見ると大倶利伽羅があいかわらず無表情な表情をしながらも、受け取れと圧をかけていた。

 これで受け取らなかったら確実に不機嫌になるのは目に見えている。燭台切は笑顔でそれを受け取った。

加羅ちゃん、ありがと・・・うっ?」

「光坊~、やっと来たか。ほら、飲めよ」

 後ろからがばっと覆いかぶさるように現れた鶴丸が、一升瓶を持ちながら飲むように煽ってきた。

「ちょ、ちょっと鶴さん。もう酔っぱらっているでしょ」

「いやあ、俺はこれでも素面だぜ。ただちょっとばかし浮かれているだけさ」

 まじめな顔をして燭台切の耳元に顔を寄せて鶴丸はささやいた。

「光忠、そいつはいつも通りだ。気にするな」

 もくもくと料理を口にしながら大倶利伽羅がぼそりとつぶやいた。

「気にするなって言われても・・・ちょっと鶴さん、そんなに入れないで!」

「長谷部の奴が無礼講だって言ったじゃねえか。お前さんだってたまにははじけてもいいと思うぜ?」

 

 

「まったく、兼定の末ともあろう刀がなんたる無様な姿をさらしているんだ」

 情けないと深々とため息を漏らす。

 陸奥守や太郎太刀といった本丸の酒豪の輪に入りながら、和泉守兼定は陽気な声をあげて歌仙を誘った。いつもは堀川がきれいに整えている髪や衣装もすでにだらけなく崩れきっていた。

「おー、之定。やっときたか。ほら、こっちで飲もうぜ」

「君はもうこんな短時間に酔っぱらったというのかい。どれだけ飲んだんだか」

 ちらりとその横を見るとすでに一升瓶がすでに数本転がっている。まだ宴が始まってわずかな時間しか過ぎていないはずなのに、恐ろしい早さだ。

 だがそんな酒量など気にするでもなく、彼らはさらに杯を空にしていく。あまりの勢いに慌てて歌仙は止めに入る。

「和泉守、いい加減飲みすぎるとまた去年のように・・・うわっ!」

「ちょっといいとこなんだから邪魔しないでよ。どうせだったら一緒に飲んだ方が楽しいでしょ。ほら、飲んだ飲んだ!」

 次郎太刀に首を抱え込まれて無理やり座らされた歌仙はいつの間にか酒の入った盃を手にしていた。

「僕は、その、あまり酒は・・・」

「あれ、之定、酒弱いのか? だらしねえなあ」

「酒も飲めんと、ようわしらに説教できたもんじゃきに」

「違う! 飲めないのではなく、飲まないだけだ。醜態をさらせば雅ではないからな! しかしそこまでいうのならいいだろう」

 言い放つと、手にした盃を掲げ音を立てずに一気に飲みきった。鮮やかで見事な飲みっぷりだ。そしてずいっと一升瓶を持った次郎に盃を突き出す。

「さあ、ついでくれ。君たちに風流な酒の飲み方を教えてあげようではないか」

 

 

 主の隣に座っている山姥切は兄弟たちがどこへいるのか、目で探した。

 堀川は歌仙になぜか酒を飲みながら説教をされている和泉守のとりなしに行っている。もう一人山伏はというと、目立つ中央に陣取りながらいつものように一期一振と堂々と弟談義を繰り広げている。

 漏れ聞こえる言葉の自身に対するほめ言葉に顔が赤くなった山姥切はそれを隠そうと布を目深にかぶる。

「切国、大丈夫? もう酔ったかい?」

 うつむいたままじっとしている彼に気が付いたのか、主が声をかけてきた。手に紫色の飲み物を持ちながら、心配そうな表情を浮かべている。

「なんでも、ない」

「そう? 大丈夫ならいいのだけれど」

 手にした飲み物を飲んだ主の頬がほんの少し赤く染まった。目つきもどこか夢見心地のようにうつろになっている。それを見て、山姥切の顔が急に険しくなった。

「それをよこせ」

 顔を近づけそれを嗅ぐと、甘ったるい匂いの向こうにかすかなアルコールが鼻についた。すぐ潰れなかったからそんなに強い酒ではない。だが主がそれを飲むこと自体が問題だった。

「これはどこから持ってきた」

「ええと、たしか、皆の席を回っていた時においしそうなジュースだからもらったのだけれ・・・ど・・・」

 すでに語尾がおかしい。立ち上がって宴会場を険しい顔で睨み付けると、伊達の席でそいつと目があった。

 一瞬やばいという顔をしたが、すぐにへらっと笑った。事態の深刻さもわからぬ軽薄さに山姥切も瞬時に切れた。

鶴丸国永! 主に酒を飲ませるなと、あれほど言っているだろ!」

「いや、俺が飲ませたんじゃないぜ。そいつをいれて置いてあったコップがなくなっててな、気づいた時には主が飲んだ後だったんだ。不可抗力だ」

「ほう、貴様、主に酒を飲ませたのか・・・」

 すでに酒が入って目が座っている長谷部がいつの間に持っていたのか、刀をつかんで抜刀しようとしている。

「ちょっとまてよ、長谷部。ここで抜刀はまずいって!」

 慌てた不動がしがみついて止めようとする。だがその力は半端ではなく、不動は振り回されて泣き顔になっていた。

「ふう、すぐ刀に訴えようとするその行為、野蛮でしかありませんね」

「おい宗三、すましてないで止めるの手伝ってくれ」

 酒で怒りが倍増して挑みかかろうとする長谷部は不動や薬研たち織田組によってなんとか取り押さえられた。

 山姥切は鶴丸に近づくと、その胸倉をつかみ取った。力任せに胸倉をつかみながら、かみ殺さんばかりに上目づかいに睨み付ける。

 つかまれて鶴丸も笑顔を浮かべながらも冷ややかな目で彼を見返した。

「難儀なやつだな。こうならないと素直になれないとでもいうか」

「こんな時に何をふざけて・・・!」

「おれはいつだって真面目だぜ。おまえも意地張って言いたいことを言わないと、後で必ず後悔することにな・・・ぐあっ!」

 突然目の前にいたはずの鶴丸が下に崩れ落ちた。気が付くといつの間にか後ろに近づいていたのか、大倶利伽羅がこぶしを固めて立っていた。

「か、加羅坊、なにするんだ」

そもそも原因になったのはお前のせいだろうが」

 冷たく鶴丸を見下ろした後、無表情な彼の顔が山姥切に向き直った。

 「主を放っておいていいのか。近侍はお前ではないのか」

 突然の鉄拳制裁に茫然としていた山姥切ははっとして後ろを振り返った。酒のせいで眠くなったのか、主は座布団の上で猫のように丸くなっている。

 大倶利伽羅鶴丸の首元をつかみあげると、淡々とした口調で言った。

「こいつはおれたちが締めておく。あんたは主のことだけ考えてろ」

「・・・すまない」

 

 

 座敷の上座へ駆け戻ると、短刀が囲むように主の心配をしていた。

「大丈夫か?」

 声を掛けるが、幸せそうな寝息を立てるだけで起きようとはしない。

「お酒のせいで眠くなってしまっただけみたいですが、ここで寝てしまうとお風邪をひかれてしまいます。早くお部屋の布団で寝かせて差し上げて方がよろしいと思いますが」

 平野に言われて山姥切は頷いた。

「わかった、俺が連れて行く」

「お供します」

 丸くなって眠る主の体に腕を回すと、そのまま抱え上げるように横抱きにして持ち上げた。身長の割には持ち上げるのが苦ではなかった。これはどうみても軽すぎるだろう。

「山姥切国広、待て!」

 そのまま運び出そうとしたその背中に、長谷部の怒号が突き刺さった。怪訝な顔をして振り向くと、顔を赤くしたまま薬研たちに取り押さえられている彼と目があった。

「なんだ?」

「俺も行かせろ。いつも貴様ばかり主の世話をするのは許さん!」

 抑える刀たちを自力で振り切ろうと、もがいている。

「まて、長谷部の旦那。そんな酒が入った状態で大将を持ち上げたら危ないだろ」

「だからあなたがたは争いばかりで野蛮だと申し上げているのです」

「だから宗三は抑えるの手伝ってくれって言っているだろ! というわけで山姥切の旦那、さっさと大将を部屋に連れて行ってくれ。こっちはこっちで押さえておくからな」

「薬研離せ! くっ、貴様逃げるのか! 今度こそ俺の酒に付き合え!」

「・・・いつも言ってるがあんたとさしで飲むつもりはない」

 主を抱え上げたまま振り向きもせずに山姥切は答える。相手する必要はない。酔っぱらい相手は時間の無駄だ。

 だが長谷部はやすやすと逃すつもりはないようだ。

「はっ、また逃げ出すつもりか。やはり俺を恐れているのだな」

 酔っぱらいの戯言とはいえ、さすがにカチンときた。半目で睨み付けながら背中越しに振り返る。

「俺は逃げるつもりも隠れるつもりもない。主を送り届けたら相手してやる」

「ふん、必ず帰ってこいよ」

 長谷部に見えない位置で片手を拝むように立てて、薬研が片目をつぶった。

「わりーな、旦那。戻ってくるまでにほどほどにつぶしておくからな」

「なんのことだ、薬研。俺はまだ飲める・・・!」

 酔っぱらいの長谷部をなだめながら薬研はひらひら手を振った。

「行きましょう。僕が先に行って布団を敷いておきますね」

 平野に促されて、主を抱えたまま宴会場を後にした。

 

 

 冬の廊下は足下から底冷えするように寒い。

 主を抱きかかえた山姥切は無いよりはと己の布でその華奢な身体を包み込んだ。

「・・・なさい」

 かすかにつぶやかれた主の言葉にハッとして見下ろした。

「山姥切国広、こんなひどいけがをさせて・・・ごめんなさい・・・」

 閉じられたまぶたから一筋の涙が頬を伝ってこぼれてゆく。

 夢を見ている。いつの夢を見ているのか。

 山姥切国広と主に呼ばれていたのは顕現したほんの初めの頃だけだ。だとしたら、主が見ている夢は初めて一人で戦場へ出陣したあの時でしかありえない。

「俺は人に使われるために生まれた刀だから気にするなと言ったはずなのにな」

 戦の時代にある刀の写しとして生み出され、いつも戦いとともにあった。飾られるためではない、戦場で振るわれるのを目的とした刀。だから人の器を与えられて傷を負おうが自分としては刀の時と同じはずだった。

 だけどこの主は血まみれで戻ってきた俺を見て涙を流した。

 人が悲しむ想いも、涙を流すその理由もこの身になってから時がたったとはいえ、いまだにわかったとは言えない。だがただ一つ言えるのは、悲しませれば胸の奥が痛い、その痛みは消えないということだけだ。

 縁側の廊下に出ると、闇に包まれた宵の空に白いものが舞い降りているのに気が付いた。

「寒いと思ったら雪か」

 儚げにひらりと舞い降りた雪片はあわく土の上に溶けて消えた。それでも雪は次々と降ってくる。明日になればおそらく積もっているだろう。

 泣き止んで再び寝息を立て始めた主をやさしく抱きながら、山姥切は夜空を見上げた。

「あの日も雪が降っていた。主と出会ってからもうすぐ二年になるのか」

 

 

 今年の正月はだいぶ刀も増えまして賑やかそうな宴会になりました。

 酒癖の悪そうなのもだいぶ増えたと思いますけど。歌仙さんとか堀川君大変だ。

 最後のはそういえばチュートリアルでそんなのあったなと思いだして、書いてみました。あのときは気づかなかったが改めて考えてみると、結構初期刀の扱いひどいよな。こんのすけよ。

 主や短刀たちは途中退場して、次は大人(?)たちの酒宴編行きます。

 

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