ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

主と刀と ~年の瀬~

※創作審神者出没。個人的見解有りなので苦手な方は回避を。

 

 白く平らにならされた灰の上に組まれた黒い炭が細かな裂け目よりじんわりと赤い光をにじませる。音もなく密やかに燃え上がる炭の明かりはほのかな温かさで身体を照らしゆっくりと温めてくれた。

 静かな室内にぱちんと炭のはぜる乾いた音が存外大きく響いて火鉢の灰の上に火花が散った。

 所用を済ませて部屋へと戻ってきたばかりだ。凍える手をこすって手のひらを火鉢にかざした審神者はぶるりと身体を震わせた。背にかけた半纏が肩からずり落ちそうになったので慌てて手で押さえる。

 柔らかな綿をたっぷり詰め込んだ温かな半纏はこの本丸にいる短刀のみんなからの昨年の贈り物だ。これを着たらもう手放せないくらい冬の必需品になっていた。今年も肌寒くなったころしまってあったこの半纏を着た時に、ああ、もう一年たったのだなと感慨深く思ったものだ。

「一年とは早いものですね」

 何気なく己に言い聞かせるかのようにつぶやいた言葉だったが、思いがけず背後からそれに応える声があった。

「早いのか? 俺にはずいぶん長く感じた気がするが」

 外は曇り空ゆえか部屋の中までは十分な光が差し込まない。手元を照らす明かりもあるがやはりどこか部屋の奥は薄暗く感じる。その隅の方でひっそり座りながら書き物をしていた彼が首を傾げながらこちらを見ていた。

 以前より気配を難なく隠蔽できる彼であったが、こちらが考え事をしていたせいか少しだけそこにいるのを忘れていた。動揺を表情から隠しつつ審神者は後ろに控える自身の初期刀を振り返る。

「感じ方は人でもそれぞれといいますから。でも刀のあなたがそう感じるのはなぜか理由を聞いてもよろしいでしょうか」

 もともと少し興味があった。人とは違う時間の流れを存在してきた刀たちがどのように人の身を得て過ごしているというのかが。特に最初から共に過ごしてきた彼はあまり自分の考えを表に出してくれないから。だから彼が先に口を開いた今聞いてみたかった。

 審神者に促されて言葉に詰まってつい言ったことを後悔するそぶりを見せたが、目線を下に落したままぽつりぽつりと彼なりの考えを言葉にしてくれた。

「俺は人の身での一年は長いような気がするけどな。刀出会った時は鋼の身で四季など感じることなどないから、月日がどのように過ぎていくなんてわからなかった。特に蔵にしまわれている時はしまわれた箱の蓋を開かれて目覚めたらあっという間に時が立っていたなんて当たり前だったからな。だからこうやって一日一日を過ごすというのがゆっくりしているというか・・・」

「刀であったあなたも人の身になれば時間の流れの感じ方が変わるということですか。それは初めて知りました。まだあなたたちについて知らないことがたくさんあるんですね、切国」

「俺がそう感じているだけだ。他の奴らがどう思っているかまでは知らない」

 書き物をしていた手を止めて山姥切国広が不機嫌な顔でこちらを軽く睨みつける。

 初めはあまり感情を示すことなく、こちらの問いかけにも無表情だったのに。

 主である自分の私室の続きの間にある仕事部屋で、こんなふうに顔を向きあわせているのもいつしか当たり前になっていて。

 大地を閉ざす冬の季節が訪れてやがて一つの年が過ぎる。流れてゆく時代と共に変わってゆくものが多いなかで変わらないものもある。

 目を細めて己の住まいである部屋を静かに眺め渡した。審神者としての任を与えられて暮らすことになったこの場所を。

 いつまでこの同じ景色を見続けていられるのだろう、そう思ったところで主はくすりと口元で小さく笑った。

「急にどうした?」

 黙ってしまったのが気になったのか、山姥切に声をかけられたがそれには答えず、にこやかに笑顔を作った。

「そう言えばもうすぐ年の瀬ですが、今年の任務は連隊戦が最後でしょうか」

 急に話題を変えられて山姥切は少し眉をひそめたがそれ以上先の話題には触れなかった。

「現時点での政府からの伝達ではそうなっている。ただ最近は伝えられていた予定が崩れることが多いからな、どうなるかはわからない」

 傍らに置いてあった閉じられた書類を山姥切は掴みあげて数枚めくって確認する。

 膝をにじり寄せてその書類を覗き見ながら、主はそこに書かれている文言に目を止めた。新しく所在が確認された刀の詳細情報がそこに記されている。だが政府でもそれほど詳しい情報はつかめていないようだ。

「新しい刀がまた見つかったようですね。先日の審神者会議でも噂になっていましたが梅の形をした紐飾りに黒いスーツの上に赤い頭巾のついた上着が特徴的な刀のようだとか。赤い頭巾ですか。白い布をかぶった切国と並んだらなんか映えそうですね」

「またあんたはくだらないことを考えているな。白だったら俺じゃなくても鶴丸だっているだろう。だいたい俺なんかみたいな写しの刀と並べられたら名刀であるそいつが気分を悪くするだけだ」

 手早く書類を片付けながら彼は顔をしかめた。

 写しだなんだと己を貶めるのは彼のいつもの口癖だった。そういえば彼の卑屈を久しぶりに聞いた気がする。審神者の補佐や部隊の編成など忙しい日々の中で自分を顧みる時間が減っているせいか、最近では己を貶める考えに陥ることもなくなってはいたのだがこうやって言葉をかわせば当たり前のように口にする。

 ああ、やはりここも変わってはいないのだと主は思う。

「だからなんであんたは笑っているんだ」

 不機嫌そうにこちらを睨みつけられるが、主は浮かべた笑みを消すことはできずにいた。変わらないことこそが今はとても愛おしい。

 だが変わらない日常を過ごす中でも一年はあわただしく過ぎて行った。

 そしてまた新たに始まる年はどんな出会いと驚きが待っていることか。

 残りの年月を記した月暦に目をやって主はまぶたを軽く伏せる。

 願わくば、この本丸とここに集う刀たちの末永い平穏を祈りつつ、新たな年を迎えいれよう。

 

 

 

 

 

 このブログを公開してもう一年が過ぎました。

 履歴を見ると結構書いたなと。書きたいことを思いつくままただ書いていただけなのですが。

 刀剣だけでもプライベッター投稿分と合わせて100本以上。出来がいいとは言えませんがよく書いたなあ。

 まだ書きたいこととか、話に出していない刀も多いのでまだまだ続けていきたいな、できるかぎり。

 ただゲーム優先なので、こっちは思いつくままにのんびりと。