ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

立合い ~大包平・天下五剣~

「なんで今日も僕たちが立合いを見てなきゃなんないわけ? そもそも僕たち内番じゃないじゃん」

 両手を後ろ手に組んで大和守は不満げに頬を膨らませた。加州はそんな相方の不満を容赦なく一蹴する。

「しかたないだろ。主が俺たちにって頼んだから。文句言わない」

「むう、清光ったら主さんの言うことだったらほいほい引き受けすぎ」

「別にいいじゃん。俺、主のこと大好きだし~」

 相方に堂々とのろけられて反論する気もうせた大和守はうんざりした顔でため息をついた。

「それで、今日は誰が手合せの内番だったんだっけ? 主さん、何も教えてくれなかったよね」

「見てのお楽しみって言ってたけど・・・あれ?」

 道場の入り口には珍しい人物を見つけて、加州が駆け寄った。

「三日月さんじゃん。出陣でもないのに戦装束なんか着ちゃってどうしたの?」

 戸口に手をかけようとしていた三日月宗近が優雅なしぐさで彼らの方に顔を向けた。濃い青の直衣は時折本丸で着ているが、装備は戦場へ出陣するときしか装着しない。今日の彼は出陣するときと変わらぬ勇ましき姿だ。

 三日月は笑顔を浮かべたまま柔らかな声音でゆるりと答えた。

「内番だ。今日の手合いの相手を是非にと求められてな」

 加州と大和守は軽く目を見開いて驚いた。そもそも三日月が手合いの内番なのはめったにない。何かあると思わず二人で目を合わせる。

「・・・三日月さんを指名って? そんな命知らずいる?」

「相手はもう先に来ておるようだな」

 深い夜をうつした色合いの青い衣が動きに合わせて翻る。三日月の細く長い指先が入口の戸を開けた。

「遅いぞ、三日月宗近!」

 道場から怒号のような鋭い声が響き渡った。赤い髪が彼の怒りを表すかのように逆立っている。道場の中央に胸を張りながら腕を組んで立ち尽くしていたのは先日この本丸に来たはずの大包平であった。

 こちらを威圧するように睨み付けている。だが三日月はそんな険しい視線など気にするはずもない。緊張感の欠片もなく笑いかけた。

「うむ、またせてあいすまなかった」

 その組み合わせを見ていた沖田の刀たちは顔を寄せ合って眉根をひそめた。加州の耳に顔を寄せて大和守が不思議そうにつぶやいた。

「えー、たしかこの間連隊戦でやっと来たばかりでしょ。練度だってそんなあげてないはずだし、いきなり三日月さんって無謀じゃない?」

「でも大包平って最初から天下五剣に対抗心剥き出しだっただろ。それで三日月さんに挑んできたんじゃない?」

「・・・そっか。なんとなくわかったよ、僕たちに立会人頼んできた理由が」

 自分たちの役目が何かおぼろげに悟った彼らは、道場の壁に背を持たれさえてだらしなく座り込み、生ぬるい目で試合が始まるのを待った。

 大和守が手にした自身の刀の鞘を代わる代わる持ち替えながらもてあそぶ。

「立合いは真剣でしょ。あの三日月さん相手に命知らずだよね」

「まあ勝負はやってみないとわかんないんじゃない?」

 道場の中央では闘志に満ちた大包平といつもののんびりとした風情を崩そうとしない三日月が対峙していた。

 気合の入っている大包平とは対照的に、三日月はおっとりとした口調で言った。

「まあ、俺の負けでもいいんだが・・・」

 それを聞いて加州の目がさらに胡乱になってゆく。

「三日月さんてばその言い方は煽ってるって言ってるのになあ」

 本気で言っているような、そうでもない物言いに、何も知らない大包平の怒りが沸騰する。

「余裕ぶるな! このじじい!」

 怒鳴りつけた彼は加州達の方を向いて叫んだ。

「見てろ、鶯丸。天下五剣よりも上であることを証明してみせる!」

「はっはっは、期待しないで見ているよ」

 笑い声をあげて鶯丸が湯呑を持って道場の片隅に正座している。まるでその気配に気づいていなかった加州達はぎょっとしてそちらを向いた。

「い、いつのまに・・・」

「さっきからいたぞ。おまえたちが来る前からな」

 通常と変わらずひたすらマイペースに手にした湯呑を口につけた。

「鶯丸よ、俺の応援とやらはしてくれぬのか?」

 今度は三日月が問いかける。だが鶯丸は目を閉じたまま、微笑んだ。

「同じ刀派として俺だけでも大包平の味方をしてやらねばな。それに三日月、心から望んでもいないことを言うのはよくないぞ。お前が望むのは俺ではないだろうが」

 刀に手を伸ばそうとしていた三日月の目が一瞬鋭くなる。

「・・・そうさな」

 音もなく腰に佩いた太刀を引き抜いた。三日月の打ちのけが刻まれた刀がその姿を現す。大包平も顎を上げ、傲慢なしぐさで己の刀を抜いた。

「さっさと行くぞ、かかってこい!」

「そう熱くなるな、俺は逃げぬぞ」

 

「はーい、そこまでー」

 両者の間に鞘のまま刀を床に突き立てて、大和守は両者を交互に見渡した。

 荒く肩を動かしながら崩れ落ちて床に膝をついた大包平を無表情に見下ろし、三日月は己の刀を鞘に収めた。

「まあまあの腕だったな」

 手合わせの間、三日月は息一つ荒げることなく向けられる太刀筋を全て払いのけた。相手がどのように刀を振るうか見えているとしか思えない。ぼろぼろに痛めつけられた大包平が悔しげに歯をかみしめた。

「く・・・そ・・・」

 先ほどから寸分も動かずにいた鶯丸が朗らかに笑った。

「だから言っただろう。まだ早いと。それに大包平は天下五剣にこだわりすぎだ。その邪念がある限り、勝てるものも勝てないぞ」

「いや、あれは三日月さんが鬼のように強いだけだって」

 さすがに加州は突っ込まずにはいられない。

 練度の差が大きいせいもあって、彼らの試合は三日月の一方的な圧勝だった。

「うるさいぞ、鶯丸」

「はっはっは、負けたからといって大声で照れ隠しする必要はないぞ」

 だが誰が見ても完全に負けていた大包平の闘志は弱まってはいない。むしろ試合前より一層燃え上っている。

「しかし、負けてもいいって言いながら一切手加減してなかったもんな。ほんと、うちの三日月さんは容赦ないや」

 加州のつぶやきを耳に止めたのか、心外だと言わんばかりに三日月が目を細めた。

「何を言う、大和守。手を抜いては相手に失礼ではないか」

「いや、あなたのはただ負けず嫌いなだけだと思うけど。俺だってあいつだって練度が並んでから手を抜いてもらったことなんて一度もないけどな」

 加州の反論に三日月はただ口元で笑うだけだった。

 そして床からまだ立ち上がれずにいる大包平の方に向き直った。袂を口元に当てて、三日月は余裕の笑顔を浮かべる。

「りべんじとやらはもっと強くなってからのほうがよいぞ、大包平とやら」

「・・・このじじいが!」

 

 

「・・・で、今日はこの組み合わせなんだね」

 道場の中央に立ちながら大和守はほんとにいいのかとじとっと伺う目でそこに控える刀を見やった。

「昨日は三日月さんで、今日は大典太さんか。懲りないよね」

 天下五剣が一振り、大典太光世。だが彼はとてもこれから戦うという気構えが見えなかった。

「蔵で腕が鈍っていなければいいんだな」

 表情はどこまでも暗く、真剣での立合いに臨んでいるとも思えない言葉がこぼれた。

「嘘をつけ!」

 相手にやる気が見えないからこそ、大包平の気合が空回りする。刀を交わらせるまえからすでに相手に気を取られていた。だが大典太はおそらく無意識だろうが。

「いくぞ、さっさと刀を抜け!」

 一つ深くため息をついて大典太はその太刀を鞘から引き出す。刀身に映える太刀の鈍い光を見て、大和守はごくりと喉を鳴らす。だらりと剣を下げているだけなのに、なんだろうこの威圧は。

 練度は自分の方が確実に上、なのに、なんで。これが刀が存在してきた年代の差か。それとも特別な称号を与えられた刀の格の違いか。

 昨日とは全く違う様相に、厳しい表情を浮かべながら、試合開始の声をあげた。

 

 

「・・・かび臭い剣技だったな。すまんな」

 申し訳なさそうに頭を下げた大典太に、吐き捨てるように言い放った。

「嘘つきめ・・・」

 昨日と同じくらい痛めつけられた大包平は唇から流れる血を手の甲で拭い去った。

「これでわかったか、大包平。練度が低い今は差が歴然、まだまだ修行しなければならないな」

 昨日と全く同じ場所で茶を飲んでいる鶯丸は軽快に笑っていた。

「だまれ。俺はまだやれる! 明日も戦うから見ていろ!」

「しかたないな、お前の馬鹿につきあうとするよ」

 大包平の宣言を聞いた加州は手にした茶菓子を下ろして、けだるげにつぶやいた。

「また明日もやるのかよ、ほんといいかげんにしてよね・・・」

 

 

 前日とは雰囲気の違う道場に加州も大和守も、そして道場中央に立つ大包平ですらも顔に緊張を隠せずにいる。

 彼の目の前の相手は自然な動作で立っているだけだ。数珠丸恒次は大包平に向かって手を合わせ慇懃に一礼する。

 「私で良ければ、お相手しましょう」

「そ、それでは失礼する」

 思わず敬語が出てしまった大包平に、大和守は驚いた。

「うわ、敬語だよ。昨日まではあれだけ威勢のいいこと言ってたくせに」

「俺は何となくわかるけどね。数珠丸さんを前にして安定は乱暴な言葉で言える?」

「・・・ううん、無理」

 たとえ狂暴な獣が襲い掛かってきてもその後光さすその功徳で従わせてしまいそうな、そんな不思議な力を持っていそうだ。

「あれで青江派。にっかりと同じだなんて信じられないや」

「そうだね。でも意外と似てるとこあるかもしれないよ」

 

「日々、これ精進ですね」

 音もなく刀が静かに鞘に収められた。数珠丸が頭を下げると、慌てて大包平も深く頭を下げた。 

「ありがとうございました」

  怒りもなにもなく、ただ感謝の念がこもった謝辞を述べた。

「御仏はあなたの道を照らしていますよ。大包平殿、あなたが己の高みに上り詰められること私も楽しみにしております」

 数珠丸はにっこり笑うとそのまま道場を後にしていった。

「なんていうか、大包平さんって数珠丸さんみたいな悟りを開いたような刀にはおとなしいんだね」

「悟りってなんだよ。ようはあれじゃない、いいとこのお坊ちゃんってことだろ? 俺たちと違ってね」

「むう、言い返せないのが悔しいな」

 不服そうに軽くむくれた大和守の顔を見て、加州は笑った。

 相変わらず茶をすすりながら今日も鶯丸は定位置となった場所で座布団に座っている。

「これで気が済んだか、大包平」

「いや、俺が勝つまではやめれるわけないだろう。よし、明日は三日月宗近に再戦を申し込むか!」

 変わらぬ笑顔を浮かべたまま、鶯丸は少しだけ声を低くして言った。

「いい加減にしておけ、しまいには俺も怒るぞ」

 

 

 すみません、自分の実力不足の限界が。

 大包平と天下五剣との手合わせ回想楽しい。まだ来てないあと二振りも楽しみ。

 セリフ聞くたびに育ちのいい苦労知らずなプライド高いお坊ちゃまなイメージが付きまとって。

 現在、第四部隊で絶賛レベリング中。はたして天下五剣を越えられる日は来るのか。

 

 太刀 大包平  二〇一七年一月十四日 顕現

 

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