秘宝の里 ~隊長 明石国行~
「なんで長谷部はんが自分の隊に入りますのや。面倒ですなあ」
審神者の部屋に呼び出された明石国行は事の次第を聞いて明らかに不満げな言葉を漏らした。それを聞いた瞬間、目の前で座っていた長谷部の額にくっきりと青筋が浮かんだ。
「だまれ、隊長の貴様がのんびりして出陣が長引くと困るからな。この俺が直々に秘宝の里まで出向いて監督してやるんだ。ありがたく思え」
怒りをにじませた長谷部の一喝に、傍らに座っている審神者である主と近侍の山姥切が顔を見合わせて互いにため息をついたのが見えた。彼らにとって長谷部と明石のかみ合わない会話はいつものことで、下手に口を出せば長谷部の怒りに火を注ぐだけなので黙っている。
「なにいうてはりますがな。自分そないなこと一言も頼んでまへんでぇ。長谷部はんは忙しいんやから無理せなぁ」
明石は相変わらずのんびりした口調で逃げようとするが、そんな言葉で長谷部が言ったことをひるがえすはずもない。
「だから俺がついていくんだろうが。貴様の尻を叩いてさっさと終わらせてやる、覚悟しろ」
目を据わらせた長谷部に睨みつけられて、その本気度を思い知ったのかさすがの明石もそれ以上言い逃れの言葉が思いつかない。長谷部の隣で鎮座する主にすかさず助けを求める。
「主はん、これは横暴やありまへんか」
だが助けを求められた主の少年は困った顔をして首を横に傾がせた。
「長谷部、今回はすごいやる気があるみたいなので。すみません」
「あんたが普段だらしがなくしているからだろう。長谷部はこれでも我慢していた方だ、あきらめるんだな」
布で目線を隠したまま山姥切が追い打ちをかける。
どちらもどうやら助けにはならないらしい。
「貴様、わがままを言って主を困らせるな」
「なにいうてはりますか。わがままなんはそっちやないですか」
「ちなみに部隊はこちらで編成させてもらった。貴様にやらせるとろくな部隊構成にならないだろうからな」
「なんなら自分が隊長の必要なんかないやないですか。だんだんやるきがのうなってきましたわ」
「安心しろ。蛍丸と愛染国俊は入れておいたからな。あいつらがいれば貴様もやる気が出るだろうが」
「・・・蛍たちを利用するんは卑怯ですな、長谷部はん」
「ふん、俺は目的のためには最適の手段を取るまでだ。どんなに強引であってもな」
「で、結局おしきられちゃったってわけ?」
「そりゃそうだろ。怒った長谷部さんに勝てるわけねえじゃん、国行が」
蛍丸と愛染国俊が上目づかいに冷ややかな目線を向けた。
同じ来派の二振りから自業自得と言われ、さすがの明石も少しへこむ。
「そないな言わんでもらえますか。あー、だるいですなあ。楽器を取ってくるまで帰ってくるなゆうかったるい仕事やってられますか」
そもそも自分は他の刀のようにやる気があるわけでもない。時間があれば畳の上でゴロゴロするのが好きなのだ。
それが隊長で出陣とは全く性に合わない。なぜ主は自分に任せたのか。
「期待してもしゃあないんですがなあ。自分は自分で、何も変わるつもりはせえへんですから」
傍らの二振りに聞こえないよう小さく自嘲気味につぶやく。眼鏡の下の切れ長の眼がさらに細まった。
(自分の求めるはただ蛍丸と国俊の保護者としてそばにいることだけや)
それ以外、何もいらない。
だからこの出陣も心沸き立つというよりもむしろ虚ろな気持ちが先だつ。
「戦は何も残さん。大切ゆうものを壊すんや。だから自分は嫌いやなあ」
ただ大切な彼らが戦うと決めたから、ここで刀を振るう。それだけで自分には他の刀たちが言うような大層な信念や大義はないはず。
だからといってなあ、と明石は自分に負けず劣らずのんびりとした性格の審神者の言葉を思い出す。
(あなたみたいな人も必要だと思いますって言われてもなあ。主はんの考えてることようわかりまへんわ)
戦闘では明石頑張ってました。隊長で真剣必殺出したのは彼だけ。
来派は最後まで残る率高いので、刀派としても強い部類かと。
2017年水無月 秘宝の里
第三陣 隊長 明石国行
蛍丸
愛染国俊
へし切長谷部
山伏国広
蜻蛉切
出陣回数 48回 笛8個 琴5個 三味線5個 太鼓5個 鈴7個
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