ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

主と刀と ~加州清光~

「あるじー、ちょっといいかな」

 廊下から襖を開けて現れたのは加州清光だった。

「いいよ。どうしたの?」

 座布団に座ってお茶を飲んでいた主はこころよく加州を部屋に呼び入れた。嬉しそうな顔をして彼は主の前に座った。

「明日、審神者の集まりに行くんだろ。主はあまりそういうの行けないじゃない? だからせっかくだから身だしなみを整えて言った方がいいと思ったんだ」

「身だしなみ?」

「そう、これ」

 加州はそう言って持ってきた箱を主の前に出した。花鳥の絵の入った黒漆の箱の蓋の隅に加州の紋が描かれている。前に主が記念にとそれぞれの刀たちの紋を入れてあげた箱である。

 彼はこの箱に何を入れているのであろうか。見たところ汚れや傷ひとつなく、綺麗に磨かれている。

「ほら、手見せて」

 言われるがままに手を差し出すと、加州はその手を取ってしげしげと眺めた。

「爪の形はわりといいんだね。でもやっぱ季節のせいかな、乾燥しているから肌も爪もカサついてるね。やっぱちゃんと手入れした方がいいよ」

「そう?」

 先ほどの箱の蓋を開けると、そこに入っていたのは綺麗に整頓された爪の手入れ道具だった。主が何かを言う前にさっさと準備をしていく。

 温かいお湯に指先をつけて爪を温めさせられた。

「まずこうやって爪を温めるとやりやすいんだよね」

 十分に爪を軟らかくしてから、伸びた爪を切り、オイルをつけて丁寧に生え際の甘皮を取ってゆく。肌を傷つけることなく、一つ一つ真剣なまなざしで丁寧に取り除いてゆく。

「綺麗にするとけっこう気分がものだよ。どう?」

「初めてだけどいいね。清光はいつもこうやって手入れしているの?」

 主に問われて加州は作業を続けながらちょっと上目づかいに見上げてきた。加州は慣れた繊細な手つきで爪を磨き上げる。

「そう。爪をきれいにしていると落ち着くから」

 触れる手つきはどこまでも優しい。まるで壊れ物を扱うかのように主の手を扱う。

「よし、これで保湿剤を塗ればかんぺき!」

「・・・何をやっているんですか、主、それに加州清光」

 長谷部が手を取り合っている主と加州を見て入口のところで硬直していた。顔が引きつって唇も震えている。

「何って主の爪をきれいにしてあげてるんじゃん。明日大事な会議で外出するんだろ。だから主の身だしなみをきちんとしないと」

「は? 主は男だぞ、貴様みたいに爪紅を塗るつもりか?」

「爪紅っていつの言い方だよ。あれはマニキュアだって。そりゃ主の爪もかわいくデコりたいけどさー、さすがにそれは駄目でしょ。だからきれいに磨いてるだけ」

「そこまでする必要は・・・」

「今は男だって手先の手入れは大事なんだって。他の審神者たちに負けないように主をきれいにしてあげないと」

「・・・! いいんですか、主!」

「私はいいと思うよ。結構気持ち良かったし」

「そうでしょ。さっすが主ならわかってくれると思ってた」

 主を味方につけて自信満々に笑う加州に対して、長谷部はふるふると肩を震わせると思いっきり襖を閉めて出て行ってしまった。

「だから考え方が古いんだって。俺よりも燭台切の方がもっと男としての身だしなみを語らせるとすごいんだけどなー」

 保湿液を主の両手に丁寧に刷り込むように塗ると、満足げに加州は頷いた。

「できた。どう、主?」

「うん、すごく綺麗になったね。ありがとう、清光」

 上に掲げてしげしげとなめらかになった自分の手を見つめた。カサついていた肌もしっとりして爪は艶を帯びて滑らかに光っている。

「俺が頑張ったんだ。だからもっと褒めて」

 ずいっと顔を乗り出して加州は主を見つめている。ありがとうと言う言葉よりも彼が喜ぶことは。

 綺麗になった掌で、加州の頭をそっと撫でる。彼は嬉しげに目を細めた。

「私の方が見た目が年下だから、加州をなんか撫でていると変な感じになるけど」

「人目なんかいいんだよ。主は俺の主なんだから。主が喜んでくれて、俺をかわいいと思ってくれればそれだけでうれしいんだよ」

 


 主の爪の手入れをしたい加州です。身だしなみは手先から。

 できたら主に爪を塗ってほしいけど、まず主に技術を身に付けさせないと仕上がりに満足できないかも。

 長谷部さんは手先の手入れとかそういうの受け入れがたいかもしれませんね。男は仕事できればそれでいいみたいな。
 
 いや、必要だと感じたらとことんまでやりそうだけど。

 主と一緒にいて幸せな加州を書きたかったので、書いてみました。

 

 打刀 加州清光 二〇一六年十二月二十四日 練度最高値到達

 

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