ゆめうつつ

刀剣乱舞・文豪とアルケミスト関連の二次小説。主にコメディ中心。

捜索 ~江戸城~

「で、俺たち短刀は次どこへ行けばいいんだ?」 先ほど無事日本号を見つけて本丸に帰ってきた第三部隊の短刀たちは主の部屋で次の指示を待っていた。 いままでの出陣記録を閉じた記録帳をめくりながら考え込んでいた山姥切が難しい顔をして厚たちの方を見た…

捜索 ~池田屋~

「俺が隊長だからねー。じゃあ、厚に薬研に後藤、いくよー」 隊長になったことでついに自分の力が認められたとご機嫌な信濃は元気に後ろからついてきているはずの皆に声をかけた。 けだるげな後藤が口を曲げた。 「ちぇっ、あいつのほうが先に来ているからっ…

軍議 ~日本号・太鼓鐘捜索~

「本日各部隊の隊長に集まってもらったのは現状報告と今後の方針を確認するためだ」 主の部屋に集まった各隊長を前にして立ち上がっていた長谷部は冷静な態度を欠片も崩さずに厳しい声音で言い放った。その隣には彼に全権をゆだねた主が目を閉じて静かに正座…

登山 ~国広兄弟~

岩の頂上に手をかけた。からりと小さな小石がすぐ横を落ちていく。 零れ落ちた石は乾いた音を響かせながら、やがて崖の下へと見えなくなった。 石を追っていた目線を再び上に向けた。登って行く先に一応足場はある。だが広くはない。少しでも足を踏み外せば…

潜書 ~太宰・志賀~

「芥川先生、どこにいるんだよ。見つからないのは愛か、俺の先生への情熱が足りないからなのか・・・」 潜りこんだ書籍の仮想空間から図書館の現実へと戻ってきた太宰はどんよりと顔を暗くしてうつむいた。 本の中へ潜るのは思った以上に精神力を消費する。…

就任二周年 ~本丸~

「・・・黒という色は確かに現代の世にあって正装を意味するものかもしれないけれど、やはり無粋だね。皆がかしこまって同じ色というのは実に面白味がないよ。雅ではないな」 つらつらと文句を言いつつも歌仙は手慣れたしぐさで主の帯を締めた。体にぴったり…

潜書 ~志賀・太宰~

「では本日の潜書分の洋墨だよ。頑張ってくれたまえ」 目の前に突き付けられた大量の洋墨が入れられた籠を志賀は半目で睨み付けた。山のように盛られた洋墨は司書の期待が込められているようでずっしりと重い。 「・・・で、なんで毎日俺がやらなきゃいけね…

枝豆 ~燭台切・大倶利伽羅~

「みずみずしい青菜だね。大根たちも白い肌が今日もきれいだよ。どう料理したら君たちは喜んでくれるだろうね」 畑の真ん中で冬野菜を収穫している燭台切は一つ一つ大事に手に取ってうっとりと眺めている。 「おい、そんなことをしていると日が沈んでも終わ…

五重塔 ~幸田露伴~

霧の奥に見え隠れする街は見慣れた東京の街であるはずなのに、時折すれ違う人はなぜか着古した着物をまとい、髪はすでに流行から廃れたはずの古風な形に結い上げ足早に駆け抜けてゆく。 藁で編まれた草履は土の上をこするように細い音を立てる。西洋靴の甲高…

写しの刀 ~後日談~

帰ってくるなり戦塵まみれた戦装束を解きもせず、一目散に審神者の部屋へ突撃してきた山姥切はあきらかに怒っていた。 乱暴に廊下から障子を引きあけると、何事かとびっくりしている主の顔面に膝をついて身を乗り出した。 「・・・あんたは全部知ってて俺を…

写しの刀 ~ソハヤ・山姥切~

「現在まで連隊戦を戦ってみたところ、第一部隊は第七局まで、第二部隊は第八、九局、そして第三部隊は敵大将のいる第十局という体制で戦えば無理なくこなせそうだ。そのため空となった第四部隊には現在本丸でも最も低い練度の刀と来たばかりの刀を配置して…

妖異 ~にっかり・石切丸~

冬の夕暮れは早い。太陽がもうすぐ沈むだと思ったらもう空は夜に包まれ紫紺に染まろうとしている。 夕の刻限は現実と異界との境界が淡いになる。この頃になると人が人でなくなったうつろわぬ者達が迷い出でる。 ただの者ならば見ることはない。だが一度彼ら…

再会 ~太宰治~

「ここではね、新しく入った文豪の人は必ず助手を経験して中の仕事を覚えてもらうんだよ。みんなの顔も覚えられるからね」 特命司書の助手を長く務めている室生犀星が新しく来た文豪の太宰治を連れて彼が住まうこととなる建物の中を案内していた。 太宰とは…

連隊戦 ~隊員交代~

「第一部隊は陸奥守吉行、および骨喰藤四郎が練度最高値到達により、部隊から離脱。補充として蜂須賀虎鉄、および浦島虎鉄が編入される」 部隊配置の指示書をめくりながら、第一部隊を前に山姥切が新たな部隊編成を通達する。 新たに第一部隊として呼ばれた…

正月 ~三日月・鶴丸~

宴の喧騒は耳うるさいほど賑やかなはずなのに、心に届くにはどこか遠い。 この広間にどれだけの刀がいようとも、目に入るのはただ一振りのみ。 けして振り向かぬ、触れられぬ、それでも追わずにはいられない。 ――――それは決死の戦場で黄金の光を煌めかせる若…

正月 ~酒宴~

「逃げなかったようだな、山姥切国広。その度胸だけは褒めてやる」 酒瓶を抱えて完全に眼を座らせながらこちらを睨み付けてくる長谷部を見て、山姥切は戻ってきたことを深く後悔した。 長谷部のそばで手酌で飲んでいた薬研を恨めし気に見やる。 「つぶれてい…

正月 ~宴~

「あけましておめでとうございます。この本丸も新しい仲間が増えてにぎやかになったこと大変うれしく思っています」 上座に座った主が正月の祝いの席でのあいさつを述べる。華奢な身体を背筋正しく伸ばすことで、昨年にはなかった威厳がにじみ出ているようだ…

不安 ~堀川・和泉守~

「国広、お前あいつにだけちょっと違う態度とるよな。なんかよそよそしいっつうか、態度が明らかに冷たいよな」 外で洗濯を干していると、シーツを手渡されながら兼さんに突然そう言われた。堀川はシーツを竿に広げながら何気なく聞き返した。 「誰の事?」 …

道場 ~燭台切vs歌仙~

「加州君、大和守君、ちょっとここを貸してもらってもいいかい?」 汗をぬぐいながら加州は入り口に目を向けた。そこには内番服でもさりげなく格好良さを見せる燭台切がさわやかな笑顔を浮かべて手を軽く上げていた。 その隣には袂を紅白のひもでたすき掛け…

装い ~乱・加州~

「主さーん、乱藤四郎、ただいま帰還しました!」 入口のところでくるりと軽やかに一回転をして、乱はウインクをした。前よりも短くさらにフリルのついた戦装束がふわりと浮きあがる。 先日刀たちより贈られた綿入りの暖かな半纏をまといながら、主はにこに…

道場 ~長谷部vs山姥切~

「あーあ、清光とばっかり打ち込みしてるの飽きちゃった」 道場にごろんと転がった大和守安定は、綺麗に磨き上げられた板の間に手足を投げ出して大きく伸びをした。そのまま寝たふりをして怠けだした彼のもとに、肩に木刀を軽く打ちつけながら、本日の相手の…

連隊戦 ~監視~

画面の向こうでは第一部隊が無事に最後の敵を切り倒した光景が映し出されていた。 高速槍が襲ってくるこの局面ではいかに頑丈な刀装を装備してもそれをすり抜けて、直接本体へ仕掛けてくる攻撃をしのげるかにかかっていた。彼らが受けたのは一撃くらいで、そ…

再会 ~平野・前田~

僕が先に修行に旅立つことになった時、前田は僕の手を取って何かを想いをこらえた顔で声を抑えながら言った。 「主のために強くなってきて帰って来てくださいね」 口にした言葉は主のために。決して自分のことは言わない。それが前田だ。 同じ粟田口の兄弟た…

主と刀と ~加州清光~

「あるじー、ちょっといいかな」 廊下から襖を開けて現れたのは加州清光だった。 「いいよ。どうしたの?」 座布団に座ってお茶を飲んでいた主はこころよく加州を部屋に呼び入れた。嬉しそうな顔をして彼は主の前に座った。 「明日、審神者の集まりに行くん…

聖夜 ~贈り物~

「で、みんな集めて何の話だ?」 片膝を立てて豪快に座る薬研が粟田口の部屋に集まる短刀たちを見回して尋ねた。大きく欠伸した彼はまた昨夜の織田の集まりに遅くまで参加していたらしい。 いまだ残る酒に眠そうな目をこすりながら、真っ先に勢いよく手を上…

焚火 ~物吉・鯰尾~

「あ、浦島さん。そんなに急いでどちらへ」 脇差の部屋へ行こうとしたところでばったり廊下で出くわした物吉は、あわててどこかへ行こうとしている彼にけげんそうに尋ねた。浦島は足踏みしながら困った顔をして答えた。 「今うちの兄ちゃんたちがすごい険悪…

刀剣顕現 ~大典太光世~

「あれ、山姥切さん、なんでこんなところで食べているんですか?」 廊下の曲がり角から首をかしげながら問いかけてきたのは秋田だった。淡い桃色の髪が綿菓子のようにふわふわと漂うように近づいてくる。 縁側に座ってうどんを食べていた山姥切は、食べてい…

連隊戦 ~休息~

連隊戦で本丸が活気づく中、本丸の厨房はいつにない緊張感に満ちていた。 その渦の中央となっているのはこの厨房を任されている刀の一人、歌仙兼定。彼が厨房の責を担っている時、誰一人逆らうことは許されない。 袂をひもで丁寧にまとめた姿で、今も厨房の…

連隊戦 ~昼夜変転~

最後の敵を刺し貫く。引き抜かれた刃が大地を照らす最後の陽光に煌めいた。 夕暮れの陽に赤く染まっていた街並みはいつの間にか薄暗くなろうとしている。空は藍に染まり、やがてあたりは闇に閉ざされるだろう。 迫りくる夜の気配を感じて目を眇めた。 また空…

連隊戦 ~部隊交代~

朱き鳥居の中に一歩足を踏み入れる。 その境目を越えるその瞬間、ざわりと体の感覚が変化した気がした。 ここであって、ここでない。 刀に与えられた器もまた生まれ落ちたときに与えられた本性に変性する。殺める刃を封じる鞘から解き放たれたかのごとく。 …